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10.善人、全土の反乱を根絶する

 昼間のカーライルの屋敷、その庭で。


 ホーセンとミラーの猛攻が嵐を巻き起こしていた。

 ホーセンは愛用の武器である身長三倍の大太刀をぶん回して、ミラーは鋭く尖った爪を乱舞させている。


 二人が攻撃をしかけている相手はミアベーラ。

 プリンセスドレスをまとい、どこからどう見ても王女にしか見えない楚々とした姿で佇むミアだ。


 帝国ツートップの武人の猛攻は、しかしミアには届かない。

 厚さ一メートルはある見えない壁にことごとく防がれてしまう。


 猛り狂う嵐、しかしミアの周囲はまるで無風だ。


「すごいですアレク様。お二人の攻撃がまるで効いてません」

「うん」

「でもでも不思議な光景です。あんなにすごい攻撃してるのにすごく静かで、なんか近づいても大丈夫に思えてきます」


 私と一緒に観戦しているアンジェがそう思うのも無理はない。


 プチプラウの結界。

 ミアにかけてるそれで防がれた攻撃は斬撃音も打撃音もしない。

 アンジェの言うとおり、静かそのものだ。


「近づくと大変よ」


 鈴を転がすような声がした直後、椅子が一脚、戦闘の中心地に向かって放り込まれた。

 放物線を描いてミアとツートップの間に放り込まれたガーデンチェアは、ホーセンとミラーの猛攻によって、一瞬で粉々にされてしまう。

 跡形もない、文字通り塵一つ残らない猛烈な攻撃だ。


「ほらね」

「エリザ、来てたんだ」

「ええ」


 振り向く、今日は私服姿のエリザがそこにいた。


「陛下――じゃなかった。お姉様!」


 アンジェは嬉しそうな顔をして、エリザに駆け寄った。

 エリザのご褒美で、アンジェは今や彼女の義理の妹、帝国の皇女たる立場だ。

 それは本来政略結婚と似たようなもので、いうならば「政略姉妹」なのだが、意気投合した二人はプライベートでは「お姉様」「アンジェ」と呼び合って仲がすこぶる良い。


 屋敷の庭でじゃれ合う二人。

 一方、ホーセンとミラーによるプチプラウのテストも終わりを迎えていた。


     ☆


「すげえな義弟、俺とミラー爺が全力でやっても歯が立たなかったぞ」

「ボウズにはいつもながら驚かされるのう」


 一通りのテストが終わった後、メイドに庭で用意させたガーデンテーブルセットを囲んで、ホーセンとミラーが共に上機嫌で笑っていた。


 私とエリザ、アンジェ、ホーセンにミラーの五人は椅子に座っているが、ミアだけどうしてもと立ったままでいた。


 プリンセスドレスをまとい、まるで使用人のようにそばに控えるように立つ。

 その光景はだいぶシュールだ。


「なあ義弟よ」


 ミアをちらっと見ていたら、ホーセンが聞いてきた。


「あの結界ってよ、義弟抜きでもかけられるか」

「僕抜き?」

「例えば義弟以外のヤツを一番に出来るのかって事だ」

「それはもちろん――」


 出来るよ、と言いかけた私だが。


「ばかだなあおめえ、七人の小さい集団で使うんだろう。ボウズ以上に一番がふさわしい漢が他にいるか? 出来る出来ねえの次元じゃねえ、意味がねえんだよ」

「そりゃそうだ!」


 ミラーがそう言うと、ホーセンは二人で一緒になって「がはははは」と笑い合った。


「その結界って、アレクをいれて七人まで効果を出せるのよね」

「うん」

「それはとても絵になるわね」

「おう、俺もそう思うぜ!」

「絵になるのなら何かそれらしい名前も必要だわな」

「プラウの結界、大本の名前に倣って七星陣、とか?」

「クソだな」


 プライベートという場だからか、それともそういう性格でまったく気にしないからか。

 ホーセンはエリザ、皇帝の彼女の案を一蹴した。

 これにはさすがのエリザも唇を尖らせる。

 が、不快の示し方が年頃の女の子だった。


「なんでさ。いいじゃん七星陣」

「そりゃあ七星陣ってのがぴったりなんだろうが、義弟の要素が入ってないのがクソだな」

「くっ、否定出来ない」


 いやできると思うけど。出来るよねエリザ。

 というか……エリザまでその一派(、、、、)に染まるのか?


「そうだな……副帝と六人の使徒ってのはどうだ」

「一千万と六人の軍集団がオススメじゃい」


 エリザとホーセンとミラー。

 プチプラウのネーミングで三人は盛り上がって、今にも「アレクと愉快な仲間達」とか言い出しそうな空気だ。


 気恥ずかしいけど和やかなので何もいわないでおいた。


 プチプラウの結界の話が一段落したところで、エリザが気持ち真剣なトーンになって、私の方を向いた。


「大方片付いたよ、反乱。後処理も含めてね」

「そうなんだ」

「ええ。ほとんどあなたのおかげよ。ありがとうアレク」

「どういたしまして。エリザのお役に立てて嬉しいよ」

「……ッ」


 エリザは何故か顔を赤くした。


 ちらっと空を見上げた。

 日に当ったのだろうか。


 日差しは女の子達に良くないし、屋敷の中に入ろうか、と提案しようとしたその時。


「むぅ」

「ほう、客かい」


 ホーセンとミラー、猛将の二人がほぼ同時に反応した。

 一斉に屋敷の入り口、柵型の扉の方に視線を向ける。


 敷地のすぐ外に、一人の男がいた。

 格好はみた感じ旅人っぽいが……なんだろうか。


「見てきます」

「いや、ミアはいい。僕がいくよ」


 なんで? って顔をするミアだが……いやいや。

 そんないかにも王女っぽい格好の人が出たらどんな客だって戸惑うよ。

 中身がどうであれ、「血の継承」純度100%の美しさを受け継ぎ、プリンセスドレスをまとってそれに相応しくあるべきと振る舞うミアは、まさに傾城傾国の王女そのものだ。


 だから私が立ち上がった、自ら出向くことにした。


「あたしもいくわ」


 エリザが同行を申し出て、私は頷いた。


 偽物のプリンセスの代わりに本物の皇帝がついてくるのもシュールな話だ。


 エリザと一緒に扉に近づき、旅人の男に問いかけた。


「うちに何か用?」

「副帝様……アレクサンダー様はいますか」

「僕がそうだけど」

「ああ! よかった、やっぱりここが副帝様の屋敷で合ってたんだ」


 どうやら初めて訪ねてくる客らしい。

 扉を明けて敷地内に招き入れつつ、こっそり観察。

 旅人風の格好だが、その格好もボロボロで、顔は汗だくの上に砂埃まみれ。


 遠方からかなり急いで来たのがありありと分かる格好だ。


「僕に何の用?」

「東で――俺たちの故郷で反乱が起きそうなんです」

「――ッ!」


 隣でエリザがビクッとした。

 彼女は皇帝だ、しかも直前に北方の反乱を鎮めたばかりだから、この話に激しく反応するのも無理はない。


 手をそっと握ってなだめつつ、男に聞く。


「それ、本当なの?」

「本当だ、こっそりそれを扇動するヤツがいる。話にのっかった村も少なくない」

「そうなんだ……」

「お願いですアレクサンダー様! 副帝様!! 俺たちを助けてください」

「助ける?」


 そういえば男の立場を聞いてなかったな、と思い出す。


「僕に反乱軍に加われって事?」


 またエリザがビクッとした。

 握る手に力を少し込める、「大丈夫そんなつもりはないよ」と暗に伝える。


「違う! そりゃあ俺たちだって生活は楽じゃない、楽じゃないですけど、反乱なんかに巻き込まれるより副帝様に素直に(、、、)助けを求めた方がいい。副帝様の噂聞きました。どうか! お願いします!」


 えっと、つまり。

 助けてってのは、反乱を止めてくれって意味か。


「やるじゃねえか義弟、反乱の鎮圧じゃなくて防ぐ段か」

「かかか、そりゃちーっと違うな。防ぐじゃねえ、防いでくれって頼まれるんだ」

「確かに! さすが義弟だ」

「前代未聞だわな、かっかっか」


 いつの間にかそばにやってきたホーセンとミラー、二人はものすごく上機嫌でそんなことを言った。


 しかしまた反乱か、エリザの立場を考えたら複雑だな――。


「って、本当にすごく複雑そう!」


 エリザは難しそうな顔半分、誇らしげな顔半分。

 顔の筋肉が器用だな! って突っ込みたくなるような表情をしていた。


 っていうかその顔どういう感情なんだ?


「どうか! お願いします」


 ものすごく複雑そうなエリザに対し、助けを求めてきて、必死に頭を下げる男。

 反乱、戦争を回避するために必死なその姿は私を動かすのに充分だった。


「分かった、なんとかするよ」

「ありがとうございます!」


     ☆


 こうして私は出向いて、反乱が始まる前の、芽の段階でサクッとつぶしてきた。

 当事者達は「こっそりはじめてる」段階だったから、あっさりと止める事ができた。


 北方の反乱、そして東方の反乱未遂。

 二つの事件を経て、反乱には必ず副帝アレクサンダーが出張るのと。

 恭順、あるいは前もって密告するとむしろ前よりも生活が良くなるという事が知れ渡り。


 帝国で民を巻き込んだ大規模な反乱は、それからまったく起こらなくなったのだった。

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― 新着の感想 ―
Главный герой хоть и помнит свою прежнюю жизнь, но канонически туп к противоположному полу
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