09.善人、反乱の芽を根絶する
倒した反乱軍の残党全員にマジックカフスをかけた。
全員にそれがしっかりかかったことを確認してから、地べたに座り込んでうなだれてる彼らに話しかける。
「今かけたこれは魔法の手錠、日常生活を送る分には何も問題ないけど、犯罪とかをしたら反応して締め付けるようになるものだから」
「「「……」」」
反応はない、何人かは顔を上げて私をちらっと見るが、その目は冷たい。
それでも私は続けた。
「期間は三年間に設定した。その間に悪い事を一切しなければ、これは勝手に消えるようになってるから」
「……殺せよ」
残党の一人、あぐらを組んだまま、上目使いで私をにらみつけてきた。
今にも目から火を噴くかのような、怨みが強く籠もった目。
「ううん、ちゃんと生きて」
「勝手なこと言うな! 食ってけねえからこんなことなってだろうが! なのに生きろだあ!?」
「問題は食べていけないだけなの?」
男に聞いて、同時にぐるっと他の残党達を見た。
大半は「ああそうだ」と言わんばかりに私を睨んでいる。
「じゃあ食べていけるようにしたらこんなことはもうしない?」
「はっ! 貴族の言うことなんか信じられるか」
「俺たちを養分ってしか思ってないんだろ」
「俺たちがせっせと稼いだ金を自分の趣味に浪費するのが貴族だろうが」
男達の不満が爆発した。
戦闘はじめる前のハイテンションに比べて、こっちの方が生々しくて、心からの叫びに聞こえる。
「分かった」
私は目を閉じて、魔法を使う。
足元から広がった魔法陣が私とミアと、そして男達を包む。
次の瞬間、体を浮遊感が包む。
瞬間移動の魔法で、全員を連れて飛ぶ。
まず空に向かって落ちて、頂点に達すると今度は目的地に向かって落ちていく。
「うわあああああ!?」
「な、なんだこれは!」
「助けて!!!」
悲鳴がこだまする中、目的地に辿り着く。
スムーズな着地の後、
「アレク様、ここはどこですか?」
何事もなかったかのように、真っ先にミアが私に聞いてきた。
目を開けると、他の男達が腰を抜かしてへばっている中、プリンセスドレスのミアだけ平然と佇んでいる。
「ここまでカーライル領だよ、人がほとんど住んでない所なんだ」
ミアに答えてから、改めて男達に振り向く。
「この土地をみんなに貸してあげる。ここで開墾して、ちゃんと食べていけるようにすればいいよ」
そう告げると、へばっていた者達、放心していた者達。
男達が元気を取り戻して、私に猛反発してきた。
「簡単に言うな」
「そうだそうだ、土地だけあればいいってもんじゃねえ」
「貴族は知らねえだろうが道具も種も金が掛かるんだぞ」
「それなら提供するよ、最初の一年は」
言うと、男達は一瞬だけキョトンとしたが、しかしすぐにまた声を張り上げた。
「騙されねえぞ、どうせ俺たちを働かせて税金をむさぼるんだろ」
「税金払えなかったら借金にしてその後ずっと利子とり続けるんだろ」
「貴族の手口は分かってるんだ」
よっぽど……北方でひどい目にあったんだな。
反乱が起こった原因が今更ながらわかった気がする。
「その手錠が作動しない人は無税にする」
「「「えっ?」」」
男達はきょとんとした。
今度は、さっきよりだいぶ長めの沈黙になった。
全員が自分に掛かってるマジックカフス――魔法の手錠を見た。
手錠は犯罪を犯さない限り作動しない、そしてその期間は三年。
手錠が作動しない限り無税と言うことは、真っ当に過ごしてれば三年間税金免除という意味でもある。
むしろそうだと明に暗に私は強調した。
心が揺れている、そう分かった私はもう一押しした。
「三年間手錠がずっと作動しなかった人は、今日貸した土地をそのままあげる。ただしその後も犯罪を犯したら土地は没収だよ」
全員がざわざわし出した。
一方的に与えると人間猜疑的になるものだけど、そこに制約があると人間って意外とすんなり納得するものだ。
三年間犯罪を起こさなかったら開墾した土地をあげる――は彼らの心に染みこんだ。
最後に、ダメ押しをする。
魔法を使って、大量の縄を作り出す。
ただの縄、しかし一本一本が数百メートルはある長い縄。
なんで縄? って不思議がる彼らに。
「今日中にこの縄で囲んだ土地をキミたちの土地にする」
「「「――ッ!!」」」
その瞬間、全員の目の色が変わった。これも制限の一つだ、しかも目に見えてすぐに効果を生む制限。
それがトドメになって、男達は縄に殺到して、それを奪って土地を囲みに走った。
全員が土地確保に走ったのを見守りつつ、
「アスタロト」
私の呼びかけに応じて、背後の地面が光って、アスタロトが召喚された。
「わっ!」
驚くミアもひとまずおいて、アスタロトに言う。
「お願いがあるんだ」
「何なりと、主様」
「三年の間、手錠が作動しなかった人は確定で豊作にしてあげて」
「作動した者は?」
「減らして……ううん、はっきりと不作にして」
「承知いたしました」
豊穣の女神アスタロト、彼女の加護があれば豊作も不作も思いのまま。
アスタロトとマジックカフスの組み合わせがあれば、多分99%の人は真面目に働くだろう。
残りの1%も、最初の見せしめのあと、周りを見て改心するかもしれない。
だめならまた考えればいい。
これで反乱軍残党の処理も終わったか。
さて、帰るか――。
「あれ? どうしたのミア。そんな変な顔で私を見つめたりして」
ミアはポカーンとなって私を見た。
何故かと聞いたあと、彼女は複雑そうな顔をした。
「アレク様……皇帝になればいいのに」
「うん?」
「アレク様が皇帝なら……反乱なんて絶対に起こらないのに」
絶対そう、という口調で言い切るミア。
そんな簡単な話かなあ。
☆
「絶対そう」
「俺もそう思うぜ」
「民のためにわしが譲位を迫ってこようか?」
屋敷にミアを連れて帰って、紹介の後今日の話をしたら。
アレク同盟の面々、父上とホーセンとミラーが、とってもいい笑顔で危ない事を言うのだった。




