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08.善人、伝説の結界を再現する

 ミアを連れて、領地内の農村を視察して回った。

 連れて、というのはちょっと語弊があるかも知れない。


 私が領地の視察に出かけると言ったら、ミアがどうしてもって言ってついてきたのだ。

 


「アレク様の……」

「なに?」

「どの村のほこらにも、アレク様の神像がありますね……」

「神像じゃなくて石像ね」


 やんわりと訂正する、思わず苦笑いした。


 ミアの言うとおり、これまで視察してきた農村は、どこのほこらにも私の石像とアスタロトの石像がセットで並んでいる。

 そしてどれもが、私がメインでアスタロトがサブ。

 彼女が私のシモベ、という作りになってる。


 アスタロトの加護、そのよりしろであるほこらと石像。

 私があるのは最初一箇所だったが、それがあると女神アスタロトは喜んで加護を多めに授けるという噂が広まって、どこもかしこも私の石像だらけになった。


「しかもどんどん過激になってます」

「あるよね、一部過激なのが。アスタロトが僕にかしずいてるのとかやり過ぎだと思うんだけど」

「でもそこの人が一番羽振りが良い感じでした」

「まあ……ねえ……」


 それは私も感じた。

 私の石像があった方がいいって噂が広まって一年くらい、作物によっては収穫一回分だけど、それでもはっきりと羽振り――住民の収入の差が出るくらいだ。


 この事実も、きっと広まっていくのだろう。


「この先ますます過激になっていくのかな」

「女神を足蹴にするとか、ひざまづいた後ろ頭を踏むとか」

「さすがにそれは怒るんじゃないかな」


 ……怒る、よな。

 というか怒ってくれよアスタロト。

 それで豊作になったら私もいやだ。


 ミアと一緒に今いる村をぐるっと一周して、豊作を確信させる畑を一通り視察した。


「そろそろ帰ろう」

「ご一緒します」

「街で甘いものでも食べていこう」

「じゅるり――はっ。ご、ご一緒します!」


 プリンセスドレスをまとい、さっきまでお淑やかモードだったミアが、甘いものをって聞いた瞬間よだれを垂らして、慌ててそれを拭いてごまかした。


「あはは、じゃあいこっか」


 視察が終わった村の外れで、瞬間移動魔法を使うべく、一緒に連れて行くためにミアに手を伸ばした。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 無遠慮な足音が近づいてきた。

 乱暴な足音に、気がつくと私たちは取り囲まれていた。

 見渡す限り――ざっと百人はいる。


 まともな風体じゃなく、手に持っているのも農具じゃなくて武器。


「僕に用……みたいだね」


 男達は憎しみの籠もった視線で私を睨んでいた。


「みた感じただの盗賊とかじゃないみたい感じだけど、何者?」

「はっ、知らねえか」

「そりゃそうだよなあ、お偉いさんは俺たちの事なんて知ってるはずねえよな」


 男達は乱暴な口調で、当てつけのようにいった。

 顔は笑ってるけど目は笑ってない、って感じで私をにらみ続ける。


「俺らはなあ、てめえに邪魔されて、行き場をなくした反乱軍の生き残りだ」

「よくも邪魔してくれやがったなガキが」

「三枚に下ろして豚のえさにしてやる」


 口々に、私への憎悪をぶつけてくる。

 なるほどあの反乱軍の残党か。

 後処理はしっかり指示したはずだけど、なるほど一部逃げ出したのもいたのか。


「一人でのこのことこんな辺鄙な所まで出てきたのが運の尽きだな」

「副帝だの総指揮官だの。そんなのは今関係ねえ」

「ここじゃてめえはただのガキだ」


 更に毒づく男達。

 そんな男達をしばし見て、私は静かに問うた。


「二番目から六番目の砦の、どれかの人達だよね」

「今のだけでわかるのアレク様」

「うん」


 不思議がるミアに頷き返す。


 反乱軍の討伐では、私が実際に出向いたのは一と七の砦だ。

 七の砦は無色ビームで吹き飛ばしたり影武者を見破ったりして、一の砦でも私が中心で立ち回った。


 私が見た目通りのただの子供じゃないのは、この二つの砦にいた将兵なら知ってる。

 消去法で他の五つなのがはっきりしてる。


「どのだろうと関係ねえ」

「ガキは殺せ、女は連れてけ」

「へへっ、いい女だぁ。後でみんなでじっくり可愛がってやるぜ」


 男達が一斉に武器を抜いて、私たちに襲いかかってきた。


「――ッ!」


 敵襲に、さっそく臨戦態勢に入り、ドレスの下に仕込んでたらしい武器に手をかけるミアだが。


「大丈夫、何もしなくていいよ」

「え? でも――」


 腰を落とした瞬間私にそう言われて、きょとんとするミア。

 その一瞬の隙をついて、何人かがミアに手を伸ばした。


 捉えるために手を伸ばした、が。


「あ、あれ?」

「これ以上近づけない……」

「見えない壁でもあるのか?」


 驚き戸惑う男達。

 彼らはミアの一メートル外に拒まれて、それ以上彼女に近づけないでいる。


 襲う襲わないではない、そもそも近づけないのだ。


「お前ら何を遊んでる!」


 男の一人が仲間達のふがいない姿を叱咤する。

 一方で、ミアは私に聞いてきた。


「なにかしたんですかアレク様」

「うん、プラウの結界の応用」

「え?」

「あれと同じように。番号の若い順から攻略しなきゃダメって風にした。さすがに個人の力じゃ七人まで(、、、、)が限界だけど。今回は二人で、僕が一でミアが二。僕がいる限りミアは無敵で触れもしないよ」

「えっ……」

「な……ん、だと?」


 ミアも、私たちを襲った男達も、全員が驚愕していた。


 プラウの結界はここにいる誰もが知っているものだ。

 ミアも男達も、元は七つの砦の反乱軍に加わってたから、その無敵性をよく知ってる。

 経緯は分からないが、それがあるから反乱軍に加わった、という人間は決して少なくなかったはずだ。

 あれを――あれと似たようなものを私が使ったと聞いて、全員が言葉を失った。


「あれを人間がつかっただと?」

「うろたえるな! だったらガキから殺せばいいだけの事だ!」


 男がダミ声で怒鳴ると、それまで唖然としていた他の仲間達が一斉に我に返った。

 みんなして、「そうだそうだよな」って顔をしてる。


 そう、それは正しい。

 プラウの結界、攻略法はただ一つ。

 番号の若い順に――この場合私から攻略する。


 それは間違いない。

 だが。


 ヒュン!


 襲いかかって、私に斬りつけてくる男の剣を炎の魔力球で溶かした。

 鉄の剣は熱したバターのように、どろりと溶け落ちて、地面に吸い込まれて跡形もなく消え去った。

 その勢いで、周りの男達の武器を全部溶かした。


「……えっ?」


 驚愕する男達、まだ頭が状況に追いついてない。


 逃げられてもこの先面倒だ。

 私はこぶし大の魔力球を人数分出して、私を中心に弾けるように一斉に飛ばした。


 100人程度の一般兵、落ちぶれたならず者たち。


 あえて説明するほどもなく、あっという間に全員サクッと倒して全滅させた。

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