表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/198

06.善人、失った分を取り戻す

 ネイチャーの一族が祭壇と先祖達を拝んでいるのを少し離れた所から見守った。

 ちょっと眺めてるだけでもはっきりと分かる。彼らにとって、先祖代々が残っているこの地はよほど重要なのだと一目で分かる。

 だから、彼らの気が済むまで見守ることにした。


「あれ?」


 気がつけば、一族は儀式を始めていた。

 最初はただ感激して全員が感情のままに拝んでただけなのだが、いつの間にか一族の長老を中心に統率のとれた動きになっている。


 踊りの様な動き、歌の様なリズムをもったささやき。

 原初的な、精霊信仰に見られる儀式だ。


 その儀式に呼応して、『力』が祭壇に集まる。

 何を始めるんだろう、って思って見ていると。


「ぐああああっ!!」


 いきなり一人の男が苦悶の声を上げ、血を吐いて倒れた。


「どうしたの!?」

「大丈夫じゃ……これは必要な事」


 しわがれた声で長老が答えた。

 男ほどじゃないが、長老もつらそうだ。

 足元がおぼつかなくて、今にも倒れそうだ。


「必要な事?」

「一族代々伝わる『血』を、失われた『血』を再び一族に迎えるための儀式」


 まるでうわごとの様に繰り返す長老。

 そういうことなら止めることは出来ない。


 私は儀式と、それに呼応して集まってきてる力を観察した。

 儀式の事はわからない、しかし力の流れは分かる。

 大地の魔力、自然の中にある力を呼び集め、一族の人間が一心同体で一つの媒体になって、その力を行使する。


 つまり自然の力をあつめて、一族総出で魔法を発動するようなこと。


 それは分かった、同時にもう一つ分かったこともある。

 あきらかに「器」が足りないということだ。

 自然の膨大な魔力に対して、一族の人間の数が足りなかった。


 人間の許容量には限界がある、個人差もある。

 それを大人数で――ムパパトの並列と似たような理屈で無理矢理容量をふやすことで儀式を行っている。

 それが……足りてない。

 人数が集まってる力に対してあきらかに足りてない。


 倒れた男だけじゃない、一族の男も女も、大人も子供も。

 全員が頭のてっぺんからつま先まで、全身が真っ赤になって、血管がはち切れそうになって苦しそうだ。

 力が大きすぎて今にも爆発しそう、ってのがみてて分かる。


 魔力の流れをしっかり観察してから、私はネイチャー一族の輪の中に入った。


「あっ……」

「え?」

「楽になった……どうして」


 一族のあっちこっちから困惑の声が上がった。


「続けて」


 短く、しかしはっきりとした口調で言い放つ。

 すぐさま何人かが――長老を始めとする理解の早い何人かが状況を理解した。

 私が間に入って、()を大きくしたのだ。


 私の体を通る自然の力は、SSSランクの120%全開の魔力とほぼ同じだった。

 生まれ変わるときの事を考えれば、それはつまり神に等しい魔力ということ。

 一族の人間が耐えきれないのも無理はない。


 だが私は耐えられる、だから間に入った。

 理解の早いもの達は揃って私に尊敬の眼差しを送ってきた。

 自分の体にかかる負荷の減り方で、私が入ったことの意味を理解した。


 あのまま放っておけば全員が自然の魔力で体が破裂していた所だ。

 きっと昔は出来たんだろう、だが聖地を放逐され、一族の数が大幅に減った今は出来なくなった。


 SSSランクの私が9割に相当する力の通り道を引き受けた事で、儀式はスムーズに次の段階に進んだ。

 力が祭壇に集まり、つむじ風のように渦巻きながら一箇所に集まった。


 そうして出来たのが――。


「本当に血だ……」


 思わず口に出し、つぶやいてしまう私。

 彼らがいう「血」が何かの比喩表現だと思っていたが、そうじゃなかったようだ。

 祭壇と一族(+私)を通して、自然の力で作りあげたそれは、宝石の様にきらめきながら宙に浮かぶ一滴の血だ。


「ミアベーラ」

「はい」


 長老が呼び、一人の少女が応じた。

 少女は立ち上がって、『血』に向かって進みでた。


 美しい少女だった。

 年はシャオメイ以上エリザ未満――大体十四歳って所か。

 一目見れば忘れられない、相当に目を惹く美少女だ。


 彼女は『血』の前に立って、手を合わせて祈った後、ゆっくりとそれを手にして自分の胸に引き込んだ。


 『血』は、彼女の中に溶け込んでいく。


 血の継承。

 なるほどこれも言葉通りだったわけだ。


 納得した直後、信じがたい光景を目の当たりにする。

 ただでさえ美少女だった彼女は、みるみる内に更に美しくなっていった。


 ほんの数秒、『血』を完全に取り込んだ彼女は、私の人生の中で――SSSランクの人生と、その前世全てあわせた数十年の中で一番の美少女になった。


 羽化。

 美少女が、絶世の美少女に羽化したのだ。


「おおお」

「儀式が成功したぞ」

「我らの光よ」


 今度はミアベーラを相手に、一族は次々と拝みはじめた。


 狐につままれた様な気分で、賢者の石に理由を聞いた。

 ネイチャー一族の『血』に関する情報を。


 答えはすぐに分かった。

 ネイチャー一族は、代々一族内で一番美しい少女に儀式を行い、「美」の要素を受け継がせてきた。


 「美」だけを受け継いで、凝縮したそれを更に次の世代に受け継がせる。

 代々受け継がれてきた美の『血』、いわば美のサラブレッドだ。


 100年前、帝国の皇帝は地上最高の美女を力尽くで手に入れようとしたが出来なくて、腹いせで一族に呪いを掛けて辺境に押しやって、彼らの聖地にあるこの祭壇を壊した。

 壊した後、念入りに塩もまいていったらしい。


 それを私が連れて帰った、儀式のための祭壇も復活させた。

 それで、100年越しに凝縮された美がまた新しい少女に受け継がれた。


「救いの神よ」


 儀式が終わって、長老は私の方を向いて、しわがれた声で話しかけてきた。


「なに?」

「我らの歴史、我らの魂を取り戻させてくれて、心から感謝の言葉を申し上げる」

「よかったね」

「我々の感謝の気持ちを、是非、受け取ってもらいたい」

「プレゼントをってこと?」


 長老は頷いた。

 同時に、他の一族も私に視線を集中させた。熱烈に期待する眼差しだ。


 数百人が一斉に向けてくる熱烈な視線、感謝の気持ち。

 どうやら受け取らない訳にはいかないようだ。


 事情を知っているし、彼らが感謝してくるのは理解できる。


「我らのもっとも大切な宝物だ」

「わかった、ありがたく受け取るよ」

「では……」


 長老が言うと、ミアベーラが私に向かってきた。

 私が見てきた中で最高の美少女、美が凝縮された女の子。


 彼女から受け取るのか――って思っていると。


「感謝いたします、我らの救いの神よ」


 ミアベーラは私の前にひざまつき、深々と頭をさげた。


「……キミ、ってこと?」

「はい」

「そっか」


 一番大事な物、『血』受け継いだ者。

 そうくるとは予想出来なかったが、来たら来たで納得だ。


「すごいものをもらったから、僕からもお返し」

「そんな! これは我々の気持ち――」


 賢者の石に聞く。やりたいことの方法を教えてもらった。

 目を閉じて、手をかざして、魔法陣を広げる。


 今までの中でも難しい方の魔法だし、人にかける(、、、、、)から、慎重にやった。


 すると――。


「なっ、さ、更に綺麗になった!?」


 一族の人間が驚愕して、次々とガヤガヤし出すのが聞こえてきて、私は魔法が成功した事を理解した。

 目を開けて、ミアベーラを見る。


 彼女は不思議そうな表情で、自分の顔をベタベタ触っている。

 周りの驚き通り、彼女は更に綺麗になっていた。


 その事に周りにいるネイチャーの一族は全員が信じられないって顔をしている。


「神よ、これは一体……」


 長老が聞いてきた。


「安心して、変なものは加えてないよ。失われた百年、って言えばいいのかな」

「失われた百年……」

「うん。この百年間、みんなが本当ならできたはずの継承分。それを時空間魔法の応用で返してあげた。だから――」


「みんなの、本来の持ち物だよ」


 ざわつきが更に大きくなった――かと思えば一族が全員、ぱっと私にひざまづいた。

 老若男女、全員が私にさっき以上の感謝を示した。

 お返しのつもりでこうなったことに、ちょっとだけむずがゆくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ