07.善人、専門家の2歩先を行く
ミラー領、カイエラ村。
ここまで同行してきたミラーと肩を並べて、この村の畑を眺めていた。
視察。
ミラーがアレクサンダー同盟に入った事で、辺境の村がその恩恵を受けたことで、
早速各地から色々救いを求める声が上がってきた。その一つがこのカイエラ村だ。
私とミラーの前に荒れ果てた畑があり、背後の少し離れた所で村人達がハラハラしながら見ている。
「だいぶ畑が荒れ果ててるね、石とか木の根っことかいっぱいだ」
「まずいのかそりゃ」
ミラーはきょとんと聞き返してきた。
「うん、これじゃまともに作物できないと思う。みた感じだいぶ長いことこうなってるけど、今までどうしてたの? これじゃ作物はまともにとれないでしょ?」
「ケンカ」
「え?」
「いろんな所にケンカふっかけて、それでぶんどった戦利品でまかなってた」
「それ……ケンカじゃなくて戦争とか討伐だよね」
「そうともいうな」
ミラーはカカカと笑った。
呪いが解け、険がとれて。
白い髪とヒゲで笑うミラーは一見して好々爺って感じだが、やっぱり言ってる事がどことなくやばい。
「だってそいつら税払えねえっていうんだもん、したらケンカふっかけてよそから奪うしかあんめえ?」
「税を上げたりしなかったの?」
「なんで? から雑巾絞っても出ねえもんは出ねえだろ」
「……なるほど」
きょとんとした顔で言い放つミラー。
統治を放置はしたし人格的にちょっとやばそうだけど、悪政とかはではなかったみたいだ。
「ボウズ、これをどうすんでい?」
「そうだね、まずは土からだね」
「土?」
「岩とか木の根っことか、全部取り除いてふかふかの土にするよ。そうしないとまともに作物が育たないもんね」
「ボウズよ、そりゃ無茶ってもんだろう。こいつら上に出てるけど、地面の中にも山ほど埋まってんぜ?」
ミラーはとんとん、と地面を踏んだ。
そこは達人、感触でわかるんだろう。
「しかもこの畑の広さ、何千人かまとめてぶっ込まねえと、まあ今年の種まきとか間に合わねえだろ」
「大丈夫、見てて」
私はそう言って、片手を垂直に空に突き上げた。
魔力を手のひらに集めて、魔力球を作る。
七色の内の、土の魔力球。
かつてエリザと一緒に反乱軍の砦に潜入した時に使ったあの魔力球だ。
あの時は普通サイズだったが、今度は物凄く巨大なサイズを作る。
手のひらの上に、私の体の数十倍のサイズの魔力球が出来た。
まるで巨大な岩の様なそれを、荒廃しきった畑に向かって投げつけた。
ついでに手のひらサイズのものも作って、時間差で投げつける。
土の魔力球は、大地や岩、木の根っこなど、そこにあるものをまとめて呑み込んで、粉砕した。
畑一つ呑み込んで、ありとあらゆるものを砕いて吐き出す。
魔力球がしばらくとどまって、やがて消えた後。
大地は、地中まで含めた全てを一回粉砕されて、粉々でふかふかの土になった。
「うん、これでいいかな」
「まじかい、一瞬でやりやがった」
「わかる?」
「おう、ボウズの言うとおりふかふか、挽き立ての小麦粉みてえだ」
さすが達人だな。
「これでひとまずは畑らしくなったはずだよ。後は本業の人達が細かく体裁を整えていけばもう大丈夫」
「ほー、さすがボウズだ」
「ねえ、そこの人」
私は遠く離れている。
ミラーに怯えて距離を取っているカイエラ村の人に手招きした。
私のやった事を目撃して、驚きが怯えを上書きした村人の内の一人が慌てて走ってきた。
「な、なんでございますですか?」
「畑は、今見えてるのが全部?」
私は残りの畑、荒廃している他の畑を指しながら聞いた。
「は、はいでござす!」
「分かった」
緊張しすぎてる村人をそっと放置しつつ、目の前に見えてるのをまとめてやってしまおうと思った。
私は再び手を空に向かって突き上げて、整地のための、土の魔力球を作った。
「あの!」
「うん? どうしたの?」
村人が意を決して、って感じで口を開く。
「土だけじゃないんです」
「どういう意味でい?」
ミラーの事がやっぱり怖いのか、村人は一瞬身がすくんだが、勇気を振り絞って言ってきた。
「水源も……水も足りないんです、この村には。ちょっと前の嵐で川の流れが変わってしまって、井戸も半分以上埋まってしまって」
「なんもねえじゃねえかここ」
ミラーは呆れた、が。
「それなら大丈夫」
「え?」
「多分もうすぐ――ほら」
私はさっきの畑を指した。
畑のまん中から、湧き水が噴きだしている。
「み、水が? どうして」
「さっきこれと同じの、でもちょっとちっちゃいのを一つ投げたでしょ」
「……?」
「おう、そういえばやってたなボウズ」
村人は首をかしげて困惑したが、ミラーはちゃんとそれを見ていたようだ。
「それが地下を掘っていたんだ。今湧き出てるのは地下水。ここの下にはちゃんとした水脈があるから、あとでちゃんと水のことも解決するよ」
「あ、ありがとうございます!」
「やるなボウズ」
「うん?」
「必要な事を二手三手先まで先読みする、一流――いや超一流の所業じゃ」
そういうものなのかな。




