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06.善人、最強と最凶のケンカを片手間で止める

 帝都。

 王宮にある、謁見の間。

 カーライルの屋敷から瞬間移動魔法で飛んで来た私は、皇帝・エリザベートに謁見していた。


「というわけで、アルベルト・ミラー伯爵を同盟の一員として加えたく」


 あの後、私の事を気に入ったミラーが自分も同盟に入りたいっていってきた。


 父上たちと同じノリなのがもうはっきりしてるし、同盟に加われば例の村の一件もまったく問題が無くなる。

 私がちょっとげっそりする以外なんの問題もないので、早速魔法でここまで飛んで来て、エリザに許可を取っていた。


「差し許す……というより」


 エリザの表情が変わった。

 威厳のある帝国皇帝から、親しみやすいエリザに。

 エリザは、驚きを隠せない――って顔をする。


「よくあの狂犬を手懐けたわね。さすがアレクだわ」

「そんなに狂犬なの?」

「敵、飼い主、そして自分自身。全部をかみ殺さずにはいられないような生き様よ」

「自分自身もなんだ……」


 それは予想以上だ。

 皆殺しのミラー、「皆」は敵味方だって思ってたけど、自分自身も入っていたらしい。


 まあ……今となっては分からなくもない。


 それは多分呪いのせいだ。

 ミラーは呪いが解けた後、五十年間続いた頭痛がなくなったと言ってる。


 狂犬的な性格と行動は、頭痛のせいでやけっぱちになってたと考えれば納得がいく。


「まあ、そのうち分かるわ……ってもう手懐けたのならこの先見られないわね」

「多分、そうかも」


 何しろ父上達と同じようなノリになってたから。


「なんにせよそれはいい事。同盟の件分かったわ、好きになさい」

「ありがとうございます、陛下」


 これで、アレクサンダー同盟に、正式にまた一人加わった。


     ☆


「……」


 瞬間魔法でカーライルの屋敷に戻ってきた私は目を疑った。


「うおおおおおりゃああああ!」

「カアッ! カカカカカカカクカカカカアァッ!」


 ……怪獣大戦争?


 屋敷の庭で、何故かホーセンとミラーが戦って――いや殺しあっていた。


 ホーセンは身長の三倍もある太刀をぶん回して、範囲内の木や草や庭石など、ありとあらゆるものを粉々にしてる。


 一方のミラーは素手……に見えるが手の色が紫がかった黒で毒々しく、ちょっとでも触れたものをどろどろに溶かしていた。


「うらああ! クソジジイが! てめえのその面が前から気にくわなかったんだ!」

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒ! それはお互い様じゃい。そのやかましい声を出すのどをグズグズに溶かしてやるよお!」


 怒りと狂気、敵対心丸出しの二人、その戦いは熾烈を極めている。

 うかつに二人の間に飛び込めばただじゃすまない、下手をうてば跡形もなく消し飛ばされそうな、そんなものすごい殺し合い。


「アレク様!」


 戻ってきた私を見つけたアンジェが、慌ててこっちに駆け寄ってきた。


「アンジェ、これどういう事? 何があったの?」

「それが……ホーセン様が遊びに来て、それでミラー様と会ったんですけど、どうしてかいきなりお二人が戦いを始めてしまって……」

「ふむ……話を聞くに、どうやら二人とも前からお互いの事が嫌いだったみたいだね」

「どうしましょうアレク様」

「うーん」


 眉をひそめる。

 互いに嫌いあってるのは仕方ない事として、この場はとりあえず止めよう。


 暴れ回るホーセンとミラー。

 帝国のツートップの武人のぶつかり合いは、冗談ではなく放置すればこのあたりを死の大地に変えかねない勢いだ。


 それに、多分どっちかが……最悪両方とも死ぬ。

 殺し合いの域で戦ってる二人は、既に両方ともそれなりの傷を負っている。

 傷で動きが鈍くなると思いきや、それに反比例して辺り一帯を包む殺気が濃くなっていく。


 うん、止めよう。

 止めないとダメだ。


 私は深呼吸して、魔力を放出しつつ、二人の間に飛び込んだ。


 右手でガシッとホーセンの太刀を掴んで、左手でミラーの毒爪を受け止めた。


「義弟!」

「ボウズ!」


 二人は私の出現に驚く。

 殺気が薄まった、二人とも私にいつもの(、、、、)表情を向けて来た。


「俺の太刀を止めるとは、さすが義弟、底が見えねえな」

「わしの毒爪があたったはずなのになんともないじゃと。いやはやボウズには驚かされるばかりじゃ」

「うん?」

「ほう?」


 私をそれぞれほめた後、二人は互いに見つめあった。

 ほんの少しだけ残っていた殺気が、みるみる内にしぼんでいく。


「なんだ、てめえ、義弟を()りに来たんじゃねえのか」

「おまえさんこそ、ボウズを利用する腐れ外道じゃなかったのか」

「んなわけあるかよ。義弟を利用? んなヤツがいたらこの円天刀で跡形もなくぶっ殺してやる」

「なんじゃ、気が合うではないか。わしもそういうヤカラがおれば活かさず殺さず、丸一日掛けてじっくりと骨まで溶かそうと思っていた所じゃ」

「……」

「……」


 私の頭上で、私を挟んで見つめ合う二人。

 やがて二人は手を出して、ガッチリと握りあった。


「話がわかるじゃねえか、頭からっぽのクソッタレだと思っておったが」

「てめえこそ、陰険クソジジイだとずっと思ってたけど、()はちゃんとしてるじゃねえか」

「かかか、ボウズを見りゃそうなるわい。浄化されたのよ」

「なに! そんな羨ましいことをされたのか!」


 なにやら通じあった二人。

 さっきまで本気の殺し合いをしてたのが嘘くらいに意気投合した。


 二人は刀と爪、それぞれの武器を納めつつ、「おっと」って感じで私を見た。


「すまねえな義弟、暴れて悪かった」

「許せボウズ、わびになんでもするのじゃ」

「そうだ、庭をぐっちゃぐちゃにしたから直さねえと」

「そうじゃった、手伝うぜ」

「それなら大丈夫」


 私は周りを見た、いや確認した。


 二人の怪獣大戦争で死の大地一直線になりそうだった庭は、既に元通りに直っている。

 飛び込んで、二人を止めたのと同時に修復魔法を掛けといたのだ。


「もう直ってる? ……って本当だ」

「いつの間に……ボウズがやったのか?」

「うん。それより二人とも怪我は大丈夫?」

「え? そういえばなんともねえ」

「わしもじゃ……腕が斬撃を受けすぎてぐちゃぐちゃになっていたはずじゃが……ボウズが?」


 頷く。


 飛び込んだ時、二人の怪我も治しておいた。

 帝国のツートップの二人、武力100と99の二人。

 その二人が殺し合ってて、もしかしたら見えないだけで既に致命傷を負ってる可能性もあるから、実は庭よりも先に治癒魔法を掛けたんだ。


 二人とも無事治ってるようで何よりだ。


 ホーセンとミラー、二人はしばらくきょとんとしてから――同時に大笑いした。


「がーはっははは! こりゃ一本取られた。まさか止めるだけじゃなく、庭と俺たちの怪我も一緒に治しちまうたあな」

「うむ。わしらの時代は終わり、と言うわけじゃな」

「てめえは気づくのがおせえ、んなの義弟が生まれた瞬間おわっとるわ」

「おまえさんだって今気づいたくせによくいう」

「はは、ばれちまったか」


 二人は更に意気投合した。

 なんというか……うん。


「はわ……アレク様すごいです……」


 いや、すごいのは二人の変わり身だろ、と私は思ったのだった。


 何はともあれ、無事に事が収まってよかった。

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