04.善人、4人分の仕事をする
隣の村の村民達が私に頭を下げ続けている。
気持ちはわかるが、ここで私が「うん」って頷くと色々問題が生まれる。
領地の問題は複雑で、敏感な政治問題だ。
「わかった。いろいろ掛け合ってみるから、しばらくまって」
「……はい」
土下座してる中の中心人物、おそらくは向こうの村長だろう。
その人がすこし落胆した。
頼み込んでカーライル領にいれてもらうつもりだったのに……がありありと見えた。
「ところでそっちの住民の数は?」
「えっと……127人……ですが」
「そっか」
私は自分の収納袋を取り出した。
カーライル領の余剰食糧を買い取り続けた収納袋、一万人単位を養える食糧が入ってる袋。
そこから食糧を取り出して、道ばたに――こっち側の領土内に食糧を積み上げた。
積み上げた分は小さな山くらいの分量があった。
「こ、これは?」
「ファーマー」
「は、なんでしょう」
「さっき見たみたいな、育ちきらなくて食べれない作物は肥料になるよね」
「はい……そのつもりです」
「これから安定して育つし、肥料は大量にいるよ。だからどっかからそういうのを買い取って肥料にするといい。原資はこれ、130人分くらいの食糧かな。これでどう取引するかは任せる」
「――っ!」
「「「ありがとうございます!」」」
ファーマーと向こうの住民達、双方は同時に意図を理解して、一斉に私に頭を下げてきた。
副帝でアレクサンダー同盟の盟主である私がよその民に施しをしてしまうと政治的な問題に発展するけど、現地の住民が物々交換で商取引する分には何の問題もない。
さて、当面の事はそれでいいとして……あとは畑だな。
天気は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
一番いいのは向こうの畑も温室にしてしまう事だ。
だがこれが難しい、ものは今みたいに置いていけばいいが、魔法を掛けるのは「私がやった」という行為になってしまう。
問題は……ないと言えば無いのかも知れない。
皇帝であるエリザに話せば、鶴の一声でのごり押しで何もかも解決する。
そうするべきか、と少し悩んだ。
「むぅ……」
「あっ……。アレク様、これ落としました」
「うん?」
アンジェから拾ってもらった物を受け取った。
それはシャオメイが作ったもの。永久凍結の魔法で作った、花入りのオブジェクト。
どうやら腕を組んで首をひねってた時に落としてしまったようだ。
「……永久凍結か」
受け取った瞬間、頭の中で何かがぼんやりと浮かび上がり、すぐにそれがはっきりと形になった。
永久凍結の魔法、今や人間でそれが出来るのはシャオメイだけで、通常は魔導具で発動させる魔法。
魔導具。
肌身離さず持っている賢者の石に聞いた。
魔法を魔導具にする方法を。
すぐに答えが返ってきて、それを実行する。
まずは魔力球を作った、白の魔力球を三つ。
次に魔法を使った、土地に結界のようなものをはって、温室にする魔法。
その魔法が発動する直前に、用意した魔力球を三方向から同時にぶつけて、強くて純粋な魔力で、魔法の効果を固めた。
すると、水晶玉の様なものができあがった。
中にまだらな紋様が渦巻く、綺麗な水晶玉。
「アレク様、それってなんですか?」
「温室の魔法の魔導具、これを使うとさっきのあの魔法が発動する」
「えええええ!? ま、魔導具って一人で作れるものなんですか? あれってたくさんの魔法使いが協力して作るものだってご本でよみましたけど」
それは誤解だ。
あらゆる知識を持つ賢者の石がいうには、同じ出力の魔力を同時に4ライン出せれば作れる。
あえて例えるのなら「四本の利き手があれば作れる」もので、普通はじゃあ一人は無理だね、ってことだ。
ただし四本の利き手を持つ人間がいれば一人でも作れる。
私の魔力はSSSランクと普通の人間を超越したものなので、一人でも作れた。
論より証拠。
もう一度魔力球を三つ出して、温室の魔導具を作って見せた上で、アンジェに言った。
「こんな風に、疑似的に四人で作ってみたんだ」
「うわぁ……すごいです、さすがアレク様」
アンジェが感心し、納得した所で、私は魔導具を生産し続けた。
あっという間に、水晶玉の様な魔導具が数十個積み上げられた。
「ファーマー」
「は、はい!」
「今聞いたとおり、これは温室を作る魔導具。これも取引は任せるよ」
「わかりました!!」
「「「ありがとうございます!!」」」
向こうの村の住民達が更に一斉に頭を下げた。
これで、両方の村とも大丈夫だろう。




