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02.善人、空間をねじ曲げる

「アレク様、何を考えているんですか?」


 屋敷のリビング。

 私が窓の外を眺めながら思考に耽っていると、それを気になったアンジェがそれを聞いてきた。


「うん、アレク杯の優勝賞品を考えてるんだ」

「え?」


 虚を突かれたかのように、一瞬きょとんとしてしまうアンジェ。

 私はにこりと微笑んで安心させつつ。


「わかるよ、アンジェが不思議に思うの。優勝者には僕と結婚する権利をアンジェが提案したんだもんね」

「はい……それ、やっぱりダメなんですか……?」

「いやそんな事はない、ただあたりまえの事なんだけど、優勝者が男の人の可能性もあるじゃないか」

「…………あ」


 言われてはじめてその可能性に気づいたって顔をするアンジェ。


「ご、ごごごごめんなさい! 私、すっかり忘れて」

「大丈夫」


 またにっこりと笑って、アンジェを安心させてみた。


 そう、アレク杯は別に女性のみの参加じゃない。

 普通に男も参加するし、前の二回とも普通に男が優勝していった。


「父上やアンジェがなんと言おうとこれだけは譲れないけど……男の人だったら結婚とか絶対に無しだからね」

「は、はい! わかります!」

「うん、よかった」


 本気でちょっとホッとした。

 あり得ないとは思いたいが、父上とか義父上とかホーセンとか、……あとエリザとか。

 私の周りには予想外の行動をする人が多い。


 万が一もないとは思いたいが、男と結婚させられる様な事になりそうなら、その時はSSSランクの魔力を全開で使ってても抵抗する。


「それに、女の人が優勝しても結婚を望まないかも知れないじゃない」

「それは絶対にありえません! 絶対!」


 アンジェは強く主張して、「絶対」を二回もいった。


「アレク様と結婚出来るチャンスがあるのに断る人なんているはずがありません!」

「……そっか、うん、ありがとう。だったら、優勝者が男の人だった時の事だけを考えるよ。男の人は何をもらって嬉しいのかなって、考えてたんだ」

「えっと……えっと……」


 アンジェは必死に考えるけど、今一つ思いつかなかった様だ。


「あっ、そうだ! アレク様、ちょっと待っててください」

「うん? うん、分かった」


 アンジェに頷くと、彼女はリビングから飛び出していった。

 しばらくして、一人のメイドを連れて戻って来た。

 メイドは若いが、屋敷の古株であるアメリアだ。


 アメリアは困った顔をしている。

 いきなり連れられてきて、何が何だか、って顔だ。


「お待たせしましたアレク様」

「どうしたのアンジェ、アメリアを連れてきたりして」

「アメリアさん、すごく物知りなんです。アレク様がいない時は、色々教えてもらってるんです」

「へえ、そうなんだ」

「アメリアさん、アレク様のお話を聞いて下さい」

「はあ……どうなさったですかアレク様」


 未だに狐につままれた顔をしているアメリア。

 私はこれまでの事情を彼女に説明した。


「というわけで、何がいいのかなって思って」

「難しいですね。成人男性なら金、土地、女あたりかと思います」

「そこだよね」


 実際、前世が普通の男だった私の感覚でもそんな答えを出していた。


 もっとまとめれば「金」の一言で終わってしまうが、ちょっと範囲を広げるというか解釈を広げたら、土地と女も候補に入ってくる。


「でもそれじゃあまり変わり映えがしないんだ。もともと父上が、一生食べるに困らないくらいの額を賞金にしてるしね」

「でしたら」

「うん」

「アレク様のおすみつきとか」

「お墨付き?」

「例えば農民が優勝したとして、その人が育ててる作物にアレク様の名前をつけてあげるんです。アレク様印、あるいはアレク様御用達。そうするだけで同じものでも価値ウナギ登りですよ」

「なるほど」

「それか、そもそも農地――住所にアレク様の名前をつけるとか」

「土地に僕の名前か……土地か……」


 その方向性で少し考えてみた私。

 ふと、頭の中にいい案がひらめいた。


 カッと目を見開く、それをアメリアが気づく。


「どうしたんですかアレク様」

「いい案を思いついた。ありがとうアメリア」

「いえ、どういたしまして」

「何を思いついたんですかアレク様?」

「論より証拠、ちょっと庭に出よう」


 私はアンジェとアメリアの二人を連れて、リビングから屋敷の庭に出た。


 土の魔力球を出した。エリザの頼みで反乱を鎮めたときに地下道を掘る時にも使った、土の魔力球。

 かなり広い庭の芝生のまん中に、土の魔力球で一メートル四方のスペースを削り出した。


 そのスペースの中心に立って、目を閉じる。

 賢者の石に問いかける。魔力を高めて、一メートル四方のスペースに魔法をかける。


「……よし」

「アレク様? 何かしたんですか?」


 スペースの外から、アンジェは不思議そうな顔で聞いてきた。


「僕のそばに来るとわかるよ、アンジェ」

「はい……えええええ!?」


 一メートル四方のスペースに入って来たアンジェが驚愕に声を張り上げた。


「アンジェ様?」

「アメリアも入ってみて」

「かしこまりました……これはっ」


 アメリアも驚きに目を見開かせた。


 二人が入って来た一メートル四方のスペース、そこは一メートル四方ではなくなっている。

 空間がグングングーンと広がって、土の魔力球で地面を削ったスペースは100メートル四方くらいに広くなった。


「ひ、広くなりました」

「外に出てみて」

「はい……あっ、元のままです」

「外から見ると小さい、中に入ると広くなる……すごい! すごいですアレク様! これどうしたんですか!」


 アメリアは興奮しつつも状況を分かりやすく言葉にまとめて、私に聞いてきた。


「空間魔法の一種だよ。あっ、そこにもっとわかりやすいのがあるね」


 私は少し離れた所にある、庭師の道具小屋を見つけた。

 先に行って中に入って、同じ空間魔法を使ってから、二人を中に招き入れる。


「わああ! 今度は小屋が体育館みたいになりました!」

「信じられません……こんなの聞いたこともありません。これもアレク様の魔法ですか?」


 外から見た時は魔法を掛ける前と変わらないが、中だけ広くなるという魔法だ。


「うん、そうだね」

「すごいですアレク様!」

「どうかなこれ」


 アンジェは部屋の中に入ったり、出たりした。

 外からかはただの道具小屋、中に入るともの体育館並に広くなった空間。

 それを数度くり返し。


「すごくワクワクします!」


 アンジェは言葉通り、わくわくする目で私をみた。


 アンジェは素直に感想を述べたが、一方のアメリアは事の発端をしっかりと覚えていて。


「さすがアレク様でございます。これなら土地や空間を広げただけでなく、農地ならアレク様のお墨付きも事実上与えるという、一挙両得の素晴しい手でございます」


 と、絶賛してくれた。


 そこまでほめてくれるのなら、優勝者が男だった場合、これを賞品にすれば大丈夫だな。

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