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09.善人、皇帝に天使と契約させる

「こ、こりゃいったいなんなんだ……」


 エリザも驚いているけど、当の本人であるアザゼルも状況を理解できないって顔で、自分の両手を穴が空くほどの勢いで見つめていた。


「悪魔だったのに……天使に変わっただと?」

「体が痛くなくなったって言ったよね。他に違和感とかない?」

「これ……あんたがやったのか」

「そっちを聞いてくるって事は、体の方は大丈夫みたいだね。うん、そうだよ」

「……」


 アザゼルはしばらく私をじっと見つめてから、ハッとした顔で。


「あっ、そっか。あんたが神か」

「うん?」

「天使を作れるのは神だけじゃねえか」

「うーん、違うよ」


 さすがにね。

 生まれ変わるとき神になることは出来たけど、私が選んだのは人間。

 正真正銘の、人間として生まれている。


「ちょっと魔力が高いだけの、ただの人間だよ」

「そうなのか……いやそんな事はどうでもいい」

「どうでもいいんだ」

「神だろうが人間だろうが、あんたは俺様の恩人だ!」

「うん」


 医者と患者の関係に近いからね、それは間違いじゃない。


「助けてくれたこの命、あんたのために使わせてくれ――」


 アザゼルは私をまっすぐ、熱烈な眼差しで見つめて。


「――アニキ!」


 と呼んできた。

 いきなりの、しかも生まれ変わってから初めてされた呼び方に、私は虚を突かれて目を見開いた。


「アニキ?」

「おう! 俺様に出来る事ならなんでも言ってくれアニキ! アニキに恩返しがしてえ」


 だったらまずはその「アニキ」って呼び方を変えてくれ――って思ったけど、多分ダメだろうな。

 この手の人間――彼は天使だけど――は生まれ変わってからよく見てきた。


 父上とか義父上とかホーセンとかその他いろいろ。

 その人達とダブって見える。

 多分、何を言ってもアニキ呼びはやめてくれないだろうな。


「はあ……はあ……あ、アレクサンダー様」


 諦め混じりの苦笑をしていると、私やエリザに少し遅れて、シャオメイがようやく辿り着いた。。

 一生懸命走ってきたのか、私の前で膝に手をついて、可愛らしく肩で息をしている。


「大丈夫かいシャオメイ」

「は、はい。大丈夫です。それよりもアレクサンダー様……あれ? もう終わっちゃってますか?」

「うん、終わってる」

「わああ……さすがアレクサンダー様」


 シャオメイはキラキラ瞳で、感動した目で私を見た。

 シャオメイのそれはいつもの反応だが。


「じー……」


 それを、アザゼルが見つめていた。

 私を見つめるシャオメイの事をじっと見つめていた。

 やがて、さっきもしたようなハッとした表情で。


「あっ、そっか。アニキの奥さん――姉さんなのか」

「えええええ!? ち、違います!」

「残念だけど違うよ」

「そうなのか!? お似合いだと思うんだがな……」


 アザゼルは残念そうな顔をした。


 そんなアザゼルを見て、私は改めて考えた。


 天使アザゼル、私を慕い、何かさせてくれと言ってきてる彼。

 何もさせないのでは彼の気が済まないだろう、何かをさせないと。


 少し考えてから、アザゼルに言った。


「アザゼル、僕はこの魔法学校の校長だ」

「おお! さすがアニキ、その歳で校長とかすげえ。子供校長だな!」

「ここは大事な場所だよ、でも何かがおきた時たくさんの敵に襲われる。だからアザゼル、ここを守ってくれないか」

「おお、おおお、おおおおお……」


 アザゼルはいきなり震え出したかと思えば、そのまま膝から崩れおちた。

 天を仰いで、滝のような涙を流す。


「アニキから頼まれた……アニキの大事な場所……」


 ひとしきり感極まった後、アザゼルは涙を拭いてパッと飛び上がった。


「任せろアニキ! この学校は俺様が命に替えても守ってやるぜ!」


 とても熱血だった。


「どれくらいの敵からなら守れる?」

「アニキのためだ、百万人でも二百万人でも――」

「アザゼル」


 私は彼の目をまっすぐ見つめた。

 真面目な話だ、と言外に強く強調して。


「どれくらいの敵なら?」

「……人間程度なら10万まで、丸一日はいける」


 アザゼルは俺の意図を察して、真剣な顔で答えてくれた。


「そっか、ありがとう」

「ありがとうアレク」


 アザゼルにお礼を言った直後、静観していたエリザが私にお礼を言ってきた。


「これでここは、いざって時の砦としては完璧ね」

「そうかな」

「ええ。十万なんて想像しうる最悪の状況だし、それで一日も持てばあなたが来てくれるでしょ」


 エリザはにこりと微笑んだ。

 そこまで私を信じてくれるのか。


 だったら……その信用に応えなきゃ。

 更に、応えなきゃ。


「……」

「アレク?」


 急に黙り込んだ私の顔をのぞき込むエリザ。

 そんな彼女への返事を待たせて、賢者の石に問いかけた。


 思った事を実現するための魔法を。

 この世に存在するありとあらゆる知識を内包する伝説のアイテム、賢者の石。

 賢者の石はすぐに私が望む答えを教えてくれた。


 私は賢者の石から教わった魔法を使った。

 地面に二つの輝く魔法陣が、私の足元から広がってできあがった。


「アザゼル」

「おう、なんだアニキ」

「エリザと契約を結んでくれないか」

「えー、その女と? 俺様はアニキのために戦いたいんだが……」

「お願い。エリザは……僕が今、一番守りたい女性なんだ」

「――っ!」


 エリザが息を飲む音が聞こえた。

 何故か顔を背けてプルプル震えだして、横顔も耳もちょっと赤い。

 気になるけど……今はアザゼルの説得だ。


 私はアザゼルをまっすぐ見つめた。

 頼む、という強い意思を込めて。


 そのアザゼルは私と、そしてエリザを交互に見た。


 やがて、さっき二回もしたあのハッとした表情だ。


「あっ、そっか。その女アニキが好きで、だからアニキは彼女を守るのか」

「アザゼルは早とちりが多いね」


 この短期間でもう三回目だ。

 でもまあ、こういう一本気な性格も彼の魅力かな。


「それは早とちりじゃないと思います……」


 シャオメイが何かをつぶやいたが、アザゼルに集中しているので聞き逃した。


「どうかな、アザゼル」

「おうさ! アニキがそこまで言うのならなんだって結んでやるよ」

「じゃあその二つの魔法陣の片方に入って」

「おう!」

「エリザも」

「どういう魔法陣なのこれ?」

「すぐに分かるよ」

「わかった、アレクの事だしね、信じる」


 エリザは迷いのない足取りで魔法陣に入った。

 アザゼルとエリザ、二人は二つの魔法陣にそれぞれ入った。


 魔法陣が煌めき、光が二人を包む。

 契約(、、)は一瞬にして完了した。


「じゃあ、行くよエリザ」


 私は魔力を出して、強力な攻撃力を持つ炎の魔力球にした。

 それをエリザに飛ばす。

 魔力球がエリザにあたる――瞬間。


 エリザの姿がフッと消えて、アザゼルのそばに瞬間移動した。


 いきなりの瞬間移動、エリザもアザゼルも、シャオメイもエリザの親衛軍たちも。

 その場にいる全員が驚嘆の声を上げた。


「こ、これは……?」

「転送魔法――アレクゲートとでも名付けようかな」


 賢者の石で得た知識、かつてこの魔法を作った人間は名前をつけていなかったことを知った。

 だからとりあえずの名前をつけた。


「アレクゲート……」

「エリザが危機になった時アザゼルのそばに飛ばす魔法だよ。どこにいても、アザゼルのそばに」

「どこにいても?」

「うん、都の王宮にいてもね」

「そ、そんな事ができるの?」


 エリザは驚愕した。


「アザゼル」

「おう!」

「アザゼルには悪いけど、この魔法学校から離れないでね。そしてエリザがもし飛ばされてきた時は」

「任せろ! アニキの大事な人、ぜってえに守り抜く。クサレザコどもに指一本触れさせねえ」

「ありがとう」


 ホッとする私、ぐるっと魔法学校を見回した。


 まだまだ教える事はあるが、今までで一番強くなった生徒達。

 悪魔から生まれ変わった、一騎当千の守り神の天使。

 ピンチになった時、エリザを一瞬で天使のそばに飛ばすアレクゲート。


 これで、この魔法学校。

 皇帝の最後の砦は、史上最強に安全になったはずだ。


「アレク」


 エリザが私の前にやってきて、まっすぐ私の目をのぞき込んできた。


「本当に……ありがとう」


 エリザは、思わずどきっとするような笑顔で言ってきた。


「うおおおおお! やってやるぜアニキ!!」


 一方でものすごく意気込んでるアザゼル。


 ひょんなことから天使に「アニキ」と呼ばれて慕われたが。

 これもSSSランク――神に匹敵する勝ち確の人生だからかな、と私は思ったのだった。

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