04.善人、1対300の特別授業をする
魔法学校、第三校庭。
急遽集まってもらった最上級生達三百名は、イーサンの手によって、いくつかのグループに分かれていた。
グループ分けを終えたイーサンは、離れた所で待っていた私の所にやってきた。
「お待たせしてすみません、副帝殿下」
「大丈夫。それよりグループ分け早かったね」
「子供の頃から見てきた子達ですから。魔力の総量も最大出力も、私はもちろんですし本人達もお互いよく分かってます」
「なるほど、それもそうだね」
納得した所で、私は生徒達に近づき、説明――臨時授業をはじめた。
直列。
ピークになる魔力が近い人を組み合わせて、実行を一人にする事で、威力を人数分高くする方法。
並列。
使える魔力量が同じくらいの人間を組み合わせて、実行を一人にする事で、持続時間を人数分延ばす方法
その二つの理論を生徒達に教えた。
理論上は人数が増えれば増えるほど直列での魔法威力が高まり、並列では増えれば増える程魔法の持続時間が長くなる。
話を聞いた生徒達は半信半疑って顔をした。
はじめて聞いた話だから、そういう反応をするのは仕方がない。
「論ずるよりも証拠だね。じゃあそこの二人、前に出て」
私は最大魔力が同じくらいでグループ分けされたうちの二人に手招きした。
「まずはいつもの授業のように、それぞれそこにあるデコイをファイヤボールで撃ってみて」
「「はい」」
18歳の最上級生、二人は手慣れた感じで魔法を詠唱して、離れた所に設置したデコイにファイヤボールを撃った。
この魔法学校は皇帝の再起のための砦なのが真の目的であり、生徒はそうなった時の兵力と考えられている。
だから授業の中で、最も兵士として統制されやすい、得意属性じゃなくてもそれなりに使えるファイヤーボールを誰にも使える様に教えている。
よどみなく打ち出されたファイヤボールはデコイを破壊した。
いつもの彼らの威力で、二人とも同じ威力だ。
「うん。じゃあ次は手をつないで。二人ともムパパト式で、楽にキャッチできる90%くらいを意識して、ファイヤボールを撃ってみて。あっ、撃つのは右の君だけでいい」
「「……はい」」
二人は少しためらったが、さっきと同じように私に指示された通りに動いた。
手を繋いで、魔力の出力を合わせて、一つのファイヤボールを撃つ。
炎の玉がデコイを破壊する。
威力は、はっきりとさっきの倍になっていて、デコイが跡形もなく消し飛んだ。。
「本当に倍になった」
「こんなことで……? マジかよ……」
驚嘆する二人をひとまずおいといて、今度は別のグループに体ごと向けた。
「こっちのみんなは魔力量――つまりスタミナが大体同じなんだね」
「「「はい」」」
「じゃあ手を繋いで、その状態で……君、対物・対魔障壁を同時展開」
「分かりました」
こっちの生徒達には並列を指示した。
魔力を合わせて障壁が張られると、私の合図で、その生徒達に向かって矢が飛んで来た。
離れた所にある台座固定式の弩だ。矢は鏃をつぶした物で、殺傷力を極限まで落として障壁の練習に使われる代物だ。
サポートする別の先生が操作して放った矢が次々と生徒達が張った障壁に防がれて、勢いを失って地面におちる。
雨あられの矢、その数――数百本。
用意してあった矢が撃ち尽くされても、まだ魔法障壁が維持されていた。
「うそ……こんなに障壁持ったの初めて」
「魔力も全然残ってる。まだ全然いけるぞ」
直列の生徒と同じように、並列で障壁をはった生徒達も効果に驚嘆していた。
「もっと試そうぜ!」
「でもデコイがもうないぞ」
「矢もだ。普段は全然足りる数なのに」
「みんな少し休憩。その間に次の準備をする」
イーサンが生徒達に言った。
生徒達は声を揃えて「はーい」とか「しょうがないな」とか答えた。
「待って」
生徒達の緊張の糸が途切れて、休憩モードに入る前に私が声を出して止めた。
「どうなさいましたか副帝殿下?」
「効果を体感してもらうにはこのまま続けた方がいいと思う」
「しかしデコイも矢も――」
「代わりに僕がやるよ。みんな、さっきと同じことを続けて」
言うと、イーサンは少しの間きょとんとして、それから頷いた。
そして生徒達に。
「聞いたとおりだ、副帝殿下がデコイと矢の再準備を済ませるまでそのまま待機」
「待機の必要はないよ」
「え?」
「障壁組、行くよ」
私はそう言って、並列で障壁を張ってる生徒達に向かってファイヤボールを撃った。
出力を思いっきり落として、一つ一つをさっきの矢と同じくらいまで攻撃力を落として、そのかわり数百個を連続で、絶え間なく打ち続けた。
障壁をやめかけた生徒達が一瞬慌てたが、障壁は無事持ち直した。
弱いファイヤボールは魔法障壁にあたって――弾かれ続ける。
矢と違って、私の魔力ならこのレベルのファイヤボールを一昼夜撃っても魔力が切れる事はない。
だから撃ち続けた。
その一方で。
「直列組」
「は、はい!」
「なんですか」
「僕をデコイだと思って撃ってきて」
「え、そんな事をしたら……」
「それにあっちのもやってるし……」
「大丈夫。撃ってきて」
ちょっとだけ強めに言うと、生徒達は慌てて頷いて、直列で魔法出力を合わせて、倍ファイヤボールを撃ってきた。
それを、私は魔法障壁で防ぐ。
デコイと同じ効果を出すために、威力を実感させるために。
生徒達のファイヤボールの威力を見極めて、ちょうど威力が相殺して、障壁が一発で砕け散る程度のものにした。
障壁が砕かれて、即座にまた新しい障壁を張って、それを砕かせる。
左手は弱ファイヤボールで並列障壁の相手、右手は障壁で強ファイヤボールの相手を同時にする。
「す、すげえ……」
「一人で俺たちをまとめて相手してるぜ……?」
「俺いろんな魔法使い見てきたけど、こんな事いっぺんにやれる人はじめて見た」
「前から思ってたけど……副帝様って本当何者なんだ?」
「こら、無駄口を叩かない。攻撃組も防御組ももっと集中して」
「「「は、はい!!!」」」
一度叱りつけると、そこはさすが最上級生。
全員が集中して、私を相手に直列と並列の練習に励む様になった。
そして半日経った頃には、全員がしっかり、新しいやり方を体に覚えたのだった。




