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03.善人、魔法理論を復活させる

 パトリックにはそれなりのバツが与えられる事になった。


 まず、副帝である私に対する不敬罪は私自身が許した。


「いいのですか?」

「うん。だって、彼は学校の先生にイタズラをした、それだけでしょ」

「……そうですな」


 イーサンは驚き、その後また尊敬の目で私を見た。


「寛大な裁き、感謝します」

「寛大もなにもその通りの事をいっただけだから」

「そうでしたな。ごほん、パトリック・ハンス君」

「は、はい!」


 悪企みを暴かれたパトリックは、年相応の男の子らしく、校長であるイーサンに萎縮していた。

 そのイーサンはパトリックに厳しい顔をして、判決を言い渡す。


「罰として、一週間校内の草むしりをしなさい。もちろん一人で、魔法は禁止です」

「えええええ!?」


 パトリックが悲鳴を上げた。

 魔法禁止で一週間、この砦にもなるものすごく広い魔法学校敷地内の草むしり。


 うん、妥当な所だ。


「先生に変なことをしようとした罰ですから。それとも名誉校長に変な事をしようとしたので考えますか? それなら一発退学ですよ?」

「今から草むしりしてきまっす!」


 パトリックはパッと敬礼して、逃げる様に立ち去った。

 その後ろ姿を見送りつつ、イーサンは呆れ笑いでため息をついた。


 ちなみに名誉校長相手で裁いたら一発退学だけど、副帝相手の不敬罪だと最低でも本人と両親が縛り首だ。

 大人になった時この黒歴史を思い出して青ざめる位だとかばった甲斐がある。


 まあ、パトリックの件は忘れよう。

 子供のイタズラだし、私に向かってくる分には問題はない。


 さて、一通り事がすんだし、そろそろカーライルの屋敷に戻ろう。

 と、考えたその時。


「……シャオメイ?」


 シャオメイが、黙ったまま自分の部屋をじっと見つめているのが目に飛び込んだ。

 部屋に入るでもなく、ただじっと見つめている。


 何故なのかと思っていると、彼女はおもむろに手を上げて、魔力を高めた。


 最高効率型・ムパパト式で、限界の97%で魔法を使う。

 次の瞬間、部屋のドアが凍った。


「どうしたのシャオメイ、なんでそんなことを?」

「あっ、ごめんなさいアレクサンダー様。さっきの魔法、私にも出来ないかなって思って」

「永久凍結の事?」

「はい」

「そっか、シャオメイは氷属性が得意だったもんね。気になる?」

「えっと……はい」


 何故か一瞬口籠もったが、その直後にはっきりと頷くシャオメイ。

 私はシャオメイが凍らせたドアに手を伸ばして、直に触れて確認する。


「もう溶け始めてるね」

「はい……私には無理なんでしょうか」


 シュン、となってしまうシャオメイ。


 私は賢者の石に聞いた。

 さっきは溶かし方だったが、今度は凍らせ方を聞いた。


 永久凍結の魔法。


 あらゆる知識を持っている賢者の石。すぐに答えが返ってきて、一通りのやり方が私の頭の中に流れ込んできた。

 そんなに難しい魔法じゃなかった、シャオメイなら目の前でやってみせたら出来てしまう可能性が高い。

 それを実演してみせるために、まずはシャオメイが凍らせたドアを溶かした。


「シャオメイ君、さっきも言いましたけど永久凍結はもう人間には――」

「見ててシャオメイ」


 私はシャオメイに言って、手を彼女の部屋のドアノブに触れた。


 凍らせるのならそこまでの魔力は必要無い。

 ムパパト式でちょこちょこ拾える100%のピークに合わせて魔法を使った。


 瞬間、ドアノブが凍った。

 凍ったそこを中指の第二関節でコンコンとノックしたあと、軽く炎の魔法であぶってみた。


 私の炎の魔法でもまったく溶ける様子はない。

 パーマフロスト、永久凍結の魔法、成功だ。


「――なっ!」


 イーサンが横で絶句していた。

 さっきのパトリックと似てる、あごが外れそうな位の驚きようだ。


 それはそれとしてシャオメイだ。

 彼女は驚かなかった、むしろじっと私の手と、凍ったドアノブを凝視した。


「どう? シャオメイ。今の見てやり方分かった?」

「はい! アレクサンダー様が三ヶ月前に教えてくれた、アモルファスの魔法式と似てました」

「しっかり復習してるね、その通り。オーケー、じゃあやってみて」


 私は一歩引いて、シャオメイがチャレンジするのを見守った。


 シャオメイは息を吸って、真剣な表情で永久凍結魔法への挑戦を始めた。


 ドアノブを凍らせては溶けるかどうかを確認。

 連続で五回チャレンジしたけど、どれも永久凍結にはならなくて、凍った後手で触ったら早くも溶け始めていた。


 失敗が続いたが、シャオメイはめげずに頑張った。


 その様子と過程を、私はじっと観察した。

 失敗は失敗だが、完全に失敗してる訳じゃない。

 もうちょっとなんだ、もうちょっとでいける。

 そのレベルでの失敗。


 物を押すとき、動き出しが一番力が必要で、いったん動き出せば後はわりとすいすいいけるのと同じように。

 シャオメイも、その『動き出し』をぎりぎりの所で超えられずにいる感じだ。


 一度でも成功すれば後は体が覚える。

 そう思ったわたしは、手助けできる方法はあるかと賢者の石に聞いた。


 方法はあった。

 それをしっかり覚えた私は、六回目のチャレンジをするシャオメイに後ろに立って、小さい背中に手を当てた。


「ひゃあ! あ、アレクサンダー様!?」

「集中して、いつも通りにやって」

「――はい!」


 シャオメイは言われたとおりすぐに集中した。

 私に全幅の信頼を寄せて、静かに自分の魔力のピークを探した。

 手助けする私、やることは一つ、魔力の出力をシャオメイに合わせること。


 手で触れた背中から、彼女の魔力のリズムを感じとる。

 何回も間近で見てきた、シャオメイの通常時のピーク、ムパパト式の97%に合わせた。


 シャオメイが魔法を使う、それに合わせて「同じ出力」の魔力を彼女の身体を通して一緒に出す。


 次の瞬間、ドアノブが凍った。


 シャオメイはおずおずと手を伸ばして、触って確認。


「ひんやり……溶けない……! 溶けないですアレクサンダー様!」

「どれどれ」


 チェックの為に私は炎の魔法を使った。

 シャオメイが凍らせたドアノブ、そこに私の炎の魔法。

 ドアノブの凍結はまったく溶けなかった。


「おめでとう、成功だねシャオメイ」

「はい!」


 シャオメイはものすごく喜んだ。

 今度は自分の部屋のネームプレートに触れて、同じように永久凍結の魔法を使う。


 今度は手助けしなかったが――


「また成功ですアレクサンダー様!」

「やったね」


 見立て通り、一度成功したシャオメイは、自分の力で出来るようになっていた。

 その後も自分の持ち物を色々試しに凍らせたが、全部成功を収めていた。

 やっぱりシャオメイは優秀で、賢い子だ。


「……ふ、副帝殿下」


 一方で、さっきからずっと唖然としっぱなしのイーサン。

 彼はおっかなびっくりに私の名を呼んだ。


「どうしたの?」

「い、今のはなんですか?」

「今の? 見ての通り永久凍結だけど」

「いえそうではなく、それもそうですけど……それよりも副帝殿下がシャオメイ君にした事です。あれは一体……」

「ああ。魔力の波長を合わせて直列で出力を一時的に高めたんだ。シャオメイなら一度殻を破れば後はできるって思ったからね」

「ちょく、れつ?」


 イーサンはまるで知らない言葉を聞いたかのように、おうむ返しで、目を見開いてメチャクチャ驚いた。


「うん、直列で出力を倍に……もしかして知らない?」

「は、はい! 初耳です」

「それじゃ並列で魔法や魔力の持続時間を延ばすのも?」

「な、なんですかそれは!?」


 驚愕するイーサンに説明してやった。


 直列――ピークになる魔力を合わせることで、威力を人数分高くする方法。

 並列――使える魔力量が同じくらいの人間を組み合わせる事で、持続時間を人数分延ばす方法。


 その二つの理論をイーサンに説明したが、彼はどっちも知らなかった。


「そのような魔法理論を開発していたとは……副帝殿下の魔法センスにはいつも驚かされますな……」


 イーサンは、ものすごく感心していた。

 別に私が開発した訳じゃないんだけど。


 突然、イーサンがカッと目を見開いた。


「――っ! ふ、副帝殿下!」

「うん? どうしたの?」

「そのちょくれつ? と、へいれつ?」


 聞いたばかりの単語、直列と並列を探り探りで発音しながら、私に詰め寄る。


「何卒! 我々に授けて下さいませんか!」

「教えろって事?」

「何卒!」


 ものすごい勢い、必死な勢いで私にせがむイーサン。

 少し考えて、理由が分かった。


「……そっか、直列も並列も、どっちも集団向けだよね。そしてこの魔法学校はいざって時は軍――集団戦闘になるから」

「はい! その技術は革命を起こすかと!!」


 なるほど。

 そういうことなら、教えないわけにはいかないな。

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