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14.善人、幸せのグッドサイクル

 朝日が差し込む、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 夜がすっかり明けた頃、完成した図面の上で見つめ合う私とアンジェ。


「出来ましたね」

「ああ、後は実物を作るだけだ」

「アレク様、ここに書かれてる『メイ・アンジェリカ』ってどういう意味ですか? 私の名前が入ってるけど」


 アンジェは図面の一番上、私が最後に書き込んだ文字列を指して、聞いてきた。


「この『メイ』っていうのは古い言葉で国って意味だよ」

「国、ですか?」

「古い言葉だから、そのまま国家という意味の国じゃなくて。……そうだね、一国一城の主、という意味合いの国。むしろ『世界』って訳した方がいいのかもしれないね。僕たちの新居、『アンジェの世界』」

「ちょっと、恥ずかしいです……」

「しっかりして、アンジェがみんなを束ねるんだから」

「……はい!」


 正室のアンジェが、やがて出来るであろう側室達を束ねる。


 エリザも度々いっていた、歴史上に存在した賢妻の代名詞のような存在になること。

 アンジェは元々そういう素養があり、エリザが唆したことで、ますますその気になっている。


 メイ・アンジェリカ(アンジェの世界)


 ここで始める新生活にますます期待が膨らんでいった。


「うふふ……」


 アンジェは私をニコニコ顔で見つめてくる。

 徹夜明けのテンションもあるだろうが、それとは違うなにかで、アンジェが上機嫌で私を見つめていた。


「嬉しそうだねアンジェ」

「はい、アレク様が嬉しそうにしているから」

「僕が?」


 アンジェの返しにちょっと驚いた。てっきり「メイ・アンジェリカ」が原因だと思っていたが、そうではないという。


 自分の顔を触ってみた、そんなに嬉しそうにしてただろうか。


 ……そうかもしれない。

 私はナチュラルボーンな、生粋の貴族ではない。


 前世の記憶を持ったまま生まれ変わっているのだから、生粋の貴族の父上や母上、アンジェ達と考え方が違う事がある。


 例えば側室なんかも、アンジェ達は当たり前の事として思っているのに対し、私は基本


『貴族なんだからこういうこともある』


 と、そう思って納得する。

 アンジェ達はそういう考えすらなく、普通に当たり前の事として納得する。


 そんな、根っこが庶民な私は、家という物に少し憧れがある。

 そしてそれが新居、妻との新居ならばなおさらのことだ。


 その嬉しさが顔に出ていたんだろう。

 そしてそれがアンジェもニコニコにした。


 そんなアンジェを見て、私は考える。


「僕が嬉しいと嬉しい?」

「もちろんです」

「そうだよね、そしてアンジェが嬉しそうにしてるのを見ると、僕も嬉しい」

「はい!」


 アンジェはますます嬉しそうに頷いた。


 嬉しさの伝染、その相乗効果。


 私は、あごに手をやって考えこむ。


「……プラムの結界の原理を利用すれば、できるかも知れないな」

「アレク様?」

「アンジェ、そのままそこに立ってて」

「はい……分かりました」


 どういう事なんだろうと小首を傾げつつも、私の要請に応じてくれたアンジェ。

 そんなアンジェの前で、いつも背負っている賢者の剣を抜いて、魔力を込めて軽く振るう。


 部屋の上質な絨毯の上に、アンジェをくるりと取り囲む魔法陣を描く。


 明滅する魔法陣の中に立たされているアンジェ、私が賢者の剣を握ったまま距離を取る。


 少し離れた所で、同じように賢者の剣で魔法陣を描く。

 魔法陣の中に入って、賢者の剣を魔法陣の中心に突き立てて、杖にするように両手を柄に重ねる。


 魔力を高める。

 ムパパト式で魔力のピークを掴んで、プラムの結界の応用で放出。

 私と、アンジェの足元の魔法陣から、天井を貫くような光の柱が立ち上った。


「……よし」

「これはどういう魔法なんですかアレク様」


 やってる最中は言われた通りその場に佇んで、じっと見守っていたアンジェが聞いてきた。


「説明するよりもやって見せた方が早いと思う。ちょっとまって」


 私はそういい、目を閉じた。

 思い出す、記憶ではなく――感情を。


 生まれ変わる直前、前の人生で死ぬまで感じ続けていたあの(、、)感情を。


「これは……アレク様、悲しんでらっしゃる?」

「ちゃんと伝わったね」

「どういう事ですか」

「この魔法陣の中にいると、相手の感情が伝わるようになるんだ。表面上の物だけじゃなくて、素直に、その時の感情をね」

「なるほど」


 納得するアンジェ、プラムの結界の応用が上手くいってほっとした。


「あっ、いまほっとしました」

「あはは、効果は抜群って事だね。後は改良するだけだね」

「改良ですか?」

「うん、今はなんでもかんでも伝えるけど、完成版は嬉しさだけを伝えるようにして、それを新居の全部の部屋につけようと思う」

「あっ……みんなの嬉しさが」

「そう、嬉しいと感じて嬉しくなる。それが上手く作用するといいよね」

「私、がんばります! アレク様の為に頑張ります!」


 軽く拳を握って、意気込むアンジェ。

 身内が嬉しいと自分も嬉しい、そういう子達と一緒に住むための新居。


 箱も、中に住む人達も。


 私は、その両方に思いをはせて、期待を膨らませて。


「えへへ……」


 それを魔法陣越しで感じたアンジェは、ますます、嬉しそうに微笑んだのだった。

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