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07.善人、農民を永久に救済する

 エリザと別れて、カラミティの背中に乗って、ホーセン宅に戻ってきた。


 空から庭にアンジェの姿を見つけた。


「あそこに」

「承知した、主」


 カラミティは従順な馬のように言うことを聞いて、旋回しながら地面に降りていった。

 下降するドラゴン、地面にうつる影が段々と大きくなる。


 大きくなる影に気づいたアンジェが顔をあげて、あんぐりと口を開け放った。


 カラミティが着地した後、私は背中から跳び降りてアンジェの前に立った。


「ただいま、アンジェ」

「お帰りなさいアレク様……あの……それって……」


 カラミティを、ちょっと怯えた目で見るアンジェ。

 安心させるという意味も込めて、アンジェの手を取ってカラミティの方に向かって歩き出した。


「紹介するよアンジェ、彼はカラミティ」

「カラミティさん、ですか?」

「カラミティ、彼女はアンジェリカ・シルヴァ。僕の許嫁だ」

「お初にお目にかかる、アンジェリカ様」

「初めましてカラミティさん、えっと、アンジェでいいです」

「主のご内室、呼び捨てに等できぬ」


 堅苦しいカラミティ、アンジェはキョトン、と首をかしげてから。


「あっ、もしかしてアレク様の部下さんですか?」

「どうもそうらしい」

「わあ、すごいですアレク様。ドラゴンさんを部下にするなんて」

「おおおおお!? 義弟よ、それってもしかして、我が帝国の守護竜じゃねえのか?」


 暑苦しい声がやってきた。

 ドラゴン飛来の報告を受けたのか、屋敷の主であるホーセンがやってきた。


 彼はカラミティを見て、嬉しそうに目を見開いた。


「そうだよ。守護竜カラミティ――でいいんだっけ」

「主の呼びやすいように」


 完全に部下、というか(しもべ)として振る舞うカラミティ。


「えええええ!? 守護竜様だったんですか!?」

「はっはっはー。伝説の守護竜を配下につけるたあ、さすが義弟。いやこれくらい当たり前だな、うん」


 お願いだからそんな父上のような納得とハードル上げはやめてくれ。

 親友だからか、ホーセンは父上と本当に似ている。


 そして父上で思い出した。


「ちょっと屋敷までひとっ飛びしてくるよ」

「屋敷って、カーライルの屋敷ですか?」

「うん。父上に許可をもらわないとね」

「あっ、そうですよね。こんなに大きいドラゴンさんを飼うんですもんね」

「そう、僕はまだ父上のところから独立してない、カーライル公爵家に住まわせてもらってる身だからね」

「ヤツがダメつったら戻ってきていいぞ。義弟の配下ならいくらでも住まわせてやらあ」

「ありがとうございますホーセン様。では、ちょっと行ってきます」


 私はひょいとカラミティの背中に飛び乗った。


「もうひとっ飛びお願いね」

「承った」


 カラミティは羽を羽ばたかせて、大空に飛び上がった。

 実家、カーライル領がある方向を指示すると、その方角に向かってものすごい速度で飛び出した。


 普通の鳥の約三倍、ものすごい速度だ。


 馬車でちょっとした旅になった帝都と実家の屋敷までの距離を一瞬で駆け抜けた。


 さっきと同じようにゆっくり旋回して庭に降りていくと、窓の一つから父上の姿が見えた。


「カラミティ、あの男の人がいる窓のそばに行って」

「承知」


 命令通り、カラミティは窓に横付けしてくれた。


「父上……あれ?」


 窓にノックする直前に、私は様子がおかしい事に気づいた。

 珍しく、父上が悩んでいるように見えた。


 あの父上が悩むなんてよほどのこと、なにがあったんだろう。


 そう思っていると、先に父上に気づかれた。

 横付けしたカラミティの巨体で窓から差し込む日差しが遮られて、部屋が暗くなったので気づかれた。


 父上は振り向き、私を見て驚く。

 座っていたのを立ち上がって窓をあけて外を見ると、カラミティの姿に二度驚く。


「ア…アレク。なんだそれは」

「父上にご紹介をするね」


 私は窓から室内に入って、一連の出来事を説明した。


 エリザに副帝に取り立ててもらったことと、守護竜であるカラミティの石化を解いて、部下にしてしまったこと。


 帝都で起きた出来事を一通り話した。


「おおお! さすがアレク。私の想像したとおりだ」

「想像したとおり?」

「うむ! アレクほどの男、陛下ならば譲位か副帝を考えるであろうと思ったのだ」

「えっと……」


 苦笑いした。

 帝都に行く前にこれを聞いていたら「いつもの父上だな、はいはい」ってすんだ話だけど、実際に行って副帝にしてもらったせいで、なにも言えなくなってしまった。


 だから私は話をそらした。


「それよりも、父上は何を悩んでいたんですか?」

「なんでもないよ――いや、アレクにも聞いてもらうか」

「うん、なんでも言って」

「実は、今年が好天続きでな、領内の農作物の収穫が例年よりも遥かに多いのだ。大豊作だよ」

「いいことじゃないですか」

「それが豊作すぎてな、作物がだぶついた。このままじゃ価格が暴落してかえって農民が損するので、だぶついた分だけでも買い取ろうと思ったんだが……」

「だが?」

「買い取る事自体に問題はないが、保管場所の問題があり、管理にも人を使う。買い取ってそのまま処分するのも手だが……と悩んでいたのだ」

「なるほど」

「それに生産調整させるかも悩み所だ。作りすぎたから控えろ――といって来年の気候が悪かったら目も当てられない」


 父上の悩みと狙いがわかった。

 何か出来る事はないか、と考えた。


 私はある案を立ててから、賢者の石で実現可能かどうかを聞いた。

 答えは、私の魔力なら可能だと言うこと。


 だったらやるしかない。

 実現するために必要なものは、と聞くとカラミティの事をいわれた。


 それを聞いて、窓の外に滞空しているカラミティに振り向いた。


「カラミティ、悪いけど、爪を一本もらえるかな」

「承知した」


 カラミティはまったく迷うことなく、自分の――ドラゴンの爪を一本折って、私に差し出した。


 それを受け取って、魔法で作りかえる。

 ドラゴンの爪がみるみるうちに薄くのばされていき、布みたいになった後、それを魔力で縫い合わせて、袋を作った。


「できた」

「それはなんだアレク」

「父上の机を借りるよ」


 一言断ってから、父上の執務机を袋にいれた。


 7歳児の私が普通に持てる小さな袋に、立派で大きな執務机が吸い込まれた。

 あきらかに体積が見合ってない収納に父上が盛大に驚いた。


「な、なんだそれは?」

「収納袋だよ。中の広さは持ち主の魔力に比例する」

「持ち主の魔力――おお! つまりアレクが持てば世界と同じくらい広いのか!」


 いやいや父上、なんでいきなり元気を取り戻したらそうなんですかあなたは。


 私は苦笑いして、続けた。


「世界ほどじゃないですけど、かなり広いです。それに」

「それに?」

「魔力に比例して、時間の流れが遅くなります」

「なるほどわからん!」


 父上は胸を張った。


「つまりこの中に入れたものは腐らないということです。私の場合ほぼ時が流れないのですから」

「おおお!」

「ということで、父上。だぶついたものを全部買い取ってください。領地にある、全てを」

「なるほど! アレクが保管してくれるのだな!」

「はい」


 私は頷いた。

 そして、更に先の構想を話した。


「これからも買い取りましょう、僕が保管します。容量は……たぶん領民全員の必要分を5年間まかなえる位は入りますので、普段から備蓄して、もしも飢饉が起きたり、不作が起きたときに放出すれば、領民はたすかります」

「おおおおお! さすがアレク、そこまで考えてくれたか!」


 父上は大興奮した。


「さすがアレク、稀代の名君の素質十分――いや既にそうなっているな!」


 父上のいつものそれ(、、、、、、)に苦笑いした。


 こうして、カラミティの爪でつくった袋のおかげで。

 カーライル領は生産調整させることなく、農民達は毎年安定した収入を得るようになったのだった。


 問題があるとすれば、たった二つ。

 買い取りと備蓄の仕組みを、父上がアレクシステムと名付けた事、収穫祭がアレク祭に名前を変えられて、

この先毎年、収穫の季節にちょっと恥ずかしくなるって事だけだった。

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[気になる点] 魔力に比例して アレクしか使いえませ アレク不老不死てはあリませ 永久に救済はあリませ
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