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05.善人、家族のシステムを提案

 もう一度窓越しに封書の山を眺めてから。


「アメリア」

「なんでしょうか」

「あれの名前をリストアップして、後で僕の所に持ってきて。丁重に断る返事を出さなきゃ」

「それでしたら――ここに」


 あらかじめ用意していた物を取り出すアメリア。

 ペラ紙が数十枚集まった紙の束だ。


 それをアメリアの手から受け取って、表を眺めて――驚く。


「準備してたの?」

「必要かと思いまして」

「さすがアメリアだ」

「恐れ入ります」


 もらった紙の束をぺらぺらめくっていく。

 そこに書かれていたのは女の子の名前と、おそらくその父親の名前と、地位などが書かれている。


 ホーセンがはねた前回同様、多数の貴族や商人の令嬢が入っている。


「これで全部?」

「はい、ご主人様にご報告しに来た時点での、全てでございます」

「みんなの名前が一個も入ってないね」

「えっ?」


 驚くアメリア。

 怜悧な美貌が崩れかける。


「僕のメイドをしてるみんなの名前だよ、一人も来なかったの?」

「い、いえ。それらの物はリストアップする際に除外しました。皆、親の思惑よりも、ご主人様にメイドとしてこのまま仕えると意見が一致したためです」

「そうなんだ」

「それよりも……今のこの一瞬で誰の名前も無いとおわかりになったのですね……」


 目を見開き、驚くアメリア。


「うん、日頃からみんなに助けられてるからね、名前はちゃんと覚えてるよ」

「……ご主人様、今の話を皆に伝える許可を下さいませんか?」

「うん? 別に構わないけど」

「ありがとうございます、皆も喜びます」


 アメリアは「失礼します」としずしずと一揖して、庭に戻るのか私の前から立ち去った。


 にしても、困ったもんだなこれは。


「すごいですアレク様!」


 まるで入れ替わるようにやってきたのはアンジェ。

 彼女は無邪気な顔で駆け寄ってきて、私の横に立って窓の外を眺める。


「うん、すごい数だね」

「気持ちはすごくわかります」

「本人の気持ちならまだしも、このタイミングでこのやり方だと、9割9分が家の、親の意思だろうね」

「そうなんですか?」

「アンジェだったらどうする? 自分の娘が本気で誰かを好きになったら、あんな手紙一枚出すだけにする?」

「あっ……しません」


 はっとするアンジェ。


「そうですね、手紙だけじゃ無くて、もっと何か別の――体当たりでぶつかっていきます」

「うん、それに場合によっては諦めるように説得するな、僕は」

「わかります!」


 長くずっと一緒にいるだけあって、考え方が似通っているアンジェは私の意見に強く同調してきた。


「でも、困ったねこれ。こういう形はあんまり好きじゃないな」


 ちらっとアンジェを見る、外を見て複雑な表情をしている彼女は私の目線に気づいた。


「アレク様は、側室は作らないんですか?」

「アンジェはどう思う?」

「わたしは……あんなにいっぱいは困りますけど、アレク様を本当に好きな人なら、仲良くなれる気がします」


 だから作ってもいい、と言うことか。


「ふふ、あんなにいっぱいは困る、はアンジェと同意見だね」

「はい、あんなにいっぱいはちょっと困っちゃいます」

「じゃあこうしよっか。これから僕の側室になる人は、僕と、僕のお嫁さん全員が認めた人限定にする」

「アレク様と、アレク様のお嫁さん全員?」


 どういうことなの? と可愛らしく首をちょこんとかしげたアンジェ。


「簡単だよ、例えば次の人は、僕とアンジェが揃って同意したら。その人が入って更に次の人は、僕とアンジェと前の人の三人全員の同意、さらに次の人は四人全員の、同意、その次は五人全員の……って訳だね」

「わあぁ……」


 意味を理解したアンジェは瞳を輝かせた。


「それは素敵です!」

「そう?」

「あっ、でもあまり意味がないかもしれません」

「どうしてだい?」

「だって、アレク様が好きになった人なら絶対いい人で、私()も好きになるはずですから」


 ニコリと言い放つアンジェ、そこにあるのは私へ向けられた絶対的な信頼。

 そして、彼女の純粋さだ。


「そうでもないよ、人間って好き嫌いとかあるし、いい人と好きなのかどうかは別だと思う」

「うーん、そうなんでしょうか……」

「まあ、それは実際そうなってみると分かるよ」

「そうですね! あっ、でもじゃあ私から推薦? 提案? してもいいって事ですよね?」

「もちろん、全員の同意がいるっていうことは、誰からも提案していいって事だよ。提案した後の結果は保証できないけど。あっ、そうだ。心からの同意じゃないと意味がないから、その投票はちょっと魔法を使っちゃおう。いやだけど私に嫌われたくない、という同意じゃ意味ないもんね」

「大丈夫、この人ならアレク様も私も大賛成です!」

「ああ、聞いたのは推薦したいって事だからだったんだね」

「はい!」


 アンジェは大きく頷いた後、


「お姉様です!」


 と、わくわくする顔で私を見つめた。


 お姉様。


 エリザベート・シー・フォーサイズ。

 帝国皇帝であり、アンジェとは義姉妹の間柄であり、私のメイドもやっている複雑な女性。


「お姉様ならいいですよね!」


 今は二人、故に実質私の同意だけだと、アンジェは期待する顔で私に迫る。

 まあ、予想はしていた。

 というか、あえて言葉にしなかったが、遠回しにアンジェの後まで待ってもらっている。


「うん、もちろん。エリザは僕にはもったいないくらいのすごい女性(ひと)だからね」

「やった!」

「でもアンジェ」

「え? でも?」

「気が早すぎ」


 私はアンジェの顔に手を添えて、頬にちゅ、とキスをした。


「まずは、僕とアンジェの結婚式だよ」

「――はい!」

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