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03.善人、お嫁さんと抱き合う

 領主の館、書斎の中。


 私はメイド長のアメリアと二人っきりで向き合っていた。


「どう? 民の反応は?」

「歓迎がおよそ半数、と言ったところです」

「半分?」


 眉間に皺が寄った。

 思ったよりも、遥かに低い数字だ。


「どうして? そんなに僕とアンジェの結婚を歓迎してない理由は?」


 調査に出てもらったアメリアに理由を聞いた。


 私とアンジェが結婚することをアヴァロン中に流してもらって、反応を集めてきてもらったのだ。

 反対してるからといってやめる訳じゃ無い、むしろアンジェとは祝福された中で結婚したいから、反対の声があれば前もってつぶしておこうという考えだ。

 それが意外にも反対の声が多いようで、若干困惑していた。


「はい、適齢の女性がほとんど反対です。『国父様狙ってたのに』『側室狙いに切り替えるわ』『わしが後80若ければ……』などなど、です」

「……えっと」

「つまりはそういうことです」


 違う意味で困った。

 そういう意味での反対だと、どうしようもないじゃないか。


「どうなさいますか」

「うーん、そういうのはしょうがないね。アンジェは僕の正室、これは譲れないから」

「ご主人様はモテモテですね」

「そうなのかな」「はい、一部、賢しい女性を中心に、貴族に取り入って養女にしてもらうのが流行ってます」

「どうして?」

「貴族の娘なら、ご主人様のメイドになれるからという噂がまことしやかに。そこまでしてでもご主人様と、お近づきになりたいのです」

「そうなんだ」


 頷き、アメリアからうけた報告を考えた。

 やっぱりどうしようもない。

 まあ、そういう反対は有名な役者や詩人に憧れるのと一緒。

 自然に任せて消えてくれるのを待つしかない。


「そういうの以外での反対は?」

「ほぼ、ございません」

「うん、だったらいいや。ありがとうアメリア」

「恐縮です」


 ほめられたアメリアは嬉しそうに、私の影の中に引っ込んだ。


 アメリアに限らず、メイド達は仕事の後、特に私に労われた後に速攻で影の中に引っ込む傾向がある。

 詳しい事は知らないけど、そうした後の彼女達はいつも嬉しそうだから、深く突っ込まないことにしている。


 コンコン。


「アレク様……今大丈夫ですか?」


 ノックをして、現われたのはアンジェだった。

 彼女はおそるおそるドアから顔を出して、こっちの様子をうかがう。


「大丈夫だよ。僕になにか用かい?」

「はい! アレク様に是非見て欲しいことが」

「僕に? なんだい」

「えっと、庭に」

「わかった」


 何をするつもりなのかは分からないが、アンジェの頼みだ、断る理由はない。


 私はアンジェと連れだって、廊下に出て庭にむかった。


 アンジェに連れてこられた、ぽかぽか陽気の庭の一角にカラミティがいた。


 帝国の守護竜、空の王カラミティ。

 とある一件で私を主と認め、以来、屋敷に住み着いている。

 元々はカーライル屋敷住みだったのだが、アヴァロンの屋敷が完成したのをきっかけに、こっちに移住してきたのだ。


 普段はほとんど見かけないのは、屋敷の庭で食っちゃ寝と、アンジェの相手だけしているからだ。


「今日も元気そうだねカラミティ」

「主様もご壮健でなにより」

「それで、アンジェ。カラミティがどうかしたのかい?」

「はい、見ていて下さい。ごめんなさい守護竜様、お願いします」

「造作も無いことだ」


 カラミティはそう言って、口を使って、前足を一本引きちぎった。


 噛みついての引きちぎり、血が大量に噴き出されて、辺り一帯が血の海になった。


「カラミティ!?」


 驚いた私のそばから、アンジェがそっと進み出た。

 手をかざして、カラミティのちぎれた前足に添える。


 アンジェの魔力が高まっていくのを感じた。

 ムパパト式の魔力運用、最高点を探知して限界の出力を出し続ける技法。

 アンジェはそれで治癒魔法をかけた。


 得意の治癒魔法だ。

 私と初めて魔法の家庭教師から学んだときから、アンジェはずっと、治癒魔法だけを鍛え続けてきた。


 その結果が――今、形になった。

 カラミティの耐性、回復にすら耐性を持ってそれを減衰するカラミティに治癒魔法が通って、みるみるうちに前足が再生されていった。


 一分もしないうちに、カラミティの前足が全くの元通りになった!


「ふう……アレク様!」


 一息ついて、まるで子犬のように私に寄ってくるアンジェ。


「ああ、すごいよアンジェ。まさか出来るとは思わなかった」

「アレク様のおかげです」

「うん? 知ってたのかい?」

「はい。アレク様のお嫁さんにふさわしい子にならなきゃって、頑張って守護竜様を治せるようにしました」

「……ああ、そういう意味か」


 アンジェの健気が嬉しかった。

 私のお嫁さんにふさわしくなりたい。


 目標があると人間はより成長しやすいとは言うが、さすがにこれは驚いた。


「そういう意味……? どういう事ですか?」

「実はね、アンジェに意地悪をしてたんだ」

「私に?」


 まったく心当たりがない、って感じで首をかしげるアンジェ。


「うん、カラミティの耐性をこっそり、少しずつ上げてたんだ」

「……えええええ!?」

「どれくらい上げたかな?」


 カラミティに聞く。


「主から得た力、元の倍には」

「ば、倍ですか!?」

「こっそりちょっとずつ上げてアンジェを鍛えてたんだ。ほら、苗木を植えて、毎日飛び越えてちょっとずつ跳躍力を鍛える方法があるでしょ。アレみたいに」

「はあ……」

「だから僕のおかげって言った時、それがばれたのかって思ったけど、違ったんだね」

「全然気づきませんでした……」

「すごいよ、アンジェ」


 私は手を伸ばして、アンジェの頭を撫でた。


 いつもの様に撫でて……から思い直して、アンジェをそっと抱き寄せた。


「ありがとう、アンジェ」

「アレク様……私、アレク様のお嫁さんにふさわしくなれましたでしょうか」

「もちろん、僕のお嫁さんはアンジェ、君で良かったよ」

「……えへへ」


 アンジェは嬉しそうに私の胸に顔を埋めて、ぎゅっ、と抱きついてきた。


 しかし、今のカラミティをこうも治せるとは。


 治癒魔法だけで言えば、アンジェは私を上回っているのかもしれない。

 私の為にここまで頑張った。

 そんなアンジェが、とても愛おしく思えて、私もぎゅっ、と彼女を抱きしめ返した。


 屋敷の庭で、私達はお互いの温もりと心臓の鼓動が感じられる位、強く抱きしめ合ったのだった。

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