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02.善人、結婚指輪を作る

「遅い」


 書斎に入ってきたエリザは開口一番そんな言葉を突きつけてきた。

 腰に手を当てて、やや呆れた目で私を見下ろしている。


「いきなりどうしたんだい」

「アンジェから聞いた。やーーーーーーーーーー」


 エリザはものすごい、肺活量の限界に挑戦するかって位タメにタメてから。


「――っと、結婚する気になったのね」

「そんなに遅いかな」

「十年以上待たせてるのよ?」

「むっ……」


 そういう言い方をされると、とんでもなく待たせているように思えてくる。

 いや、そういう事なんだろう。


 私もアンジェもまだ幼い、というのはもちろんあるが、私自身ずっとアンジェの事を父親的な目でしか見ていなかった事が大きい。

 永く待たせてしまった、という謗りには返す言葉がまったく無い。


「言いたいことは色々あるのだけど……アンジェがあんなに喜んでる姿を見るのは初めてだから、それで勘弁してあげるわ」

「そんなに喜んでくれたの?」

「人格が崩壊する位、にやけてた」

「それは……」


 ちょっと見たいかもしれないな。


「で、式は? まさか上げないとか言わないよね」

「それは言わないよ。アンジェがウェディングドレスに憧れてたのは知ってるしね。綺麗なドレスを用意して、盛大にお披露目する。それはちゃんとやる」

「ん、その辺は私に任せて」

「エリザが?」

皇帝()の妹のなのよ? やらせなさい」


 当たり前のような顔で言い放つエリザ。

 彼女とアンジェの仲の良さはよく知っている。

 まるで実の姉妹、いやそれ以上に仲がよくて、エリザはアンジェを思いっきり可愛がっている。


「ありがとう」


 だから、素直にエリザに任せることにした。


「うーん、となると……」

「何を悩んでるの?」

「指輪。ずっと身につけてもらう物だからね、ちゃんとしたものをってね」

「……アレクのちゃんとしたものって、なにか能力とか、効果をつけるって意味だよね」


 ふっ、と微笑み返した。


「そういうことだね。気持ちはもちろん込めるつもりだけど、実用性も込めるつもり。そのふたつは相反しない事だからね」

「まっ、それもそうね。なにか腹案は?」

「うーん、それがピンとこなくて。女の子が何が一番嬉しいのか、よく分からなくてね。かといってアンジェに聞くことも出来ない」

「そうね」


 エリザはクスッと笑った。


「本人に聞いたら何でも嬉しい、そういう系の答えしか返ってこないでしょうね」

「うん、すっごく有り有りと想像出来る」


『アレク様から頂いたものなら何でも』


 うん、絶対そういう答えが返ってくるはずだ。


「しょうがない、アドバイスしてあげる」

「本当?」

「アンジェのためだしね。私、見た目は女でも、中身は結構男のつもりなの。権力の中心にずっといるからね、そっちに慣らされちゃうのよ」

「……うん」


 その事に昔から(、、、)ちょっと思う所があるが、今は触れるタイミングじゃないから流した。


「でも、普通に女の子の気持ちもわかるわ」

「エリザはすごく女の子だと思うよ」

「例えばの話をしよっか。明日世界が滅ぶ、生き残ってるのはアレクとアンジェの二人。でもなにかしたら挽回できるチャンスがある。アレクならどうする?」

「……なんとかしに行く」

「アンジェはどうするの?」

「安全を確保した所に隠す」

「そ、それが男」

「……女の子は?」

「安全でも危険でもどっちもでいい、一緒にさえいられれば」

「……なるほど」


 気持ちは正直わからない。が、今まで見てきた人間の行動を振り返ってみると、エリザのいうとおりだって分かる。


「うん、よく分かるよ」

「ついでに言うとアレクはすごく男、100%男」

「だね」


 そういう分類なら、自覚はものすごくある。


「参考になった?」

「……うん」


 私は少し考えた。

 エリザのアドバイスから、アンジェに喜んでもらえそうな事を考えた。


「こういうのってどうかな」


 壁に掛けている素材袋を手に取って、その中に手を入れて、賢者の剣から聞いた魔法を付与しつつ、取り出す。


「……石が二つ?」

「見た目はね、効果が確認できたら指輪にするつもり」

「なるほど」


 納得したエリザに片方を差し出す。

 もう片方は私が持ったままにしておく。


 受け取ったエリザ、石を手のひらに載せてまじまじと見つめる。


「これがどうなるの?」

「ニュートラルじゃわかりにくいかな……ちょっと待って」


 私は石を握り締め、目を閉じて思い出す。

 アンジェにプロポーズをして、返事をもらったときのアンジェの顔を。


 あの、嬉しそうな笑顔を。

 嬉しそうなアンジェに、私までつられて嬉しくなったあの時の気持ちを思いだした。


「あっ……」


 エリザが声を漏らした、目を開けて彼女を見た。


「これが……今のアレクの?」

「そう、僕の気持ち。簡単に言えば感情を互いに共有する効果。共有する感情は色々設定できる」

「すごいわね……こんなこともできるのね」


 エリザは感心した表情で、石をまじまじと見つめた。

 しばらくして、顔を上げてこっちを向き。


「これって、伝えられるのは感情だけなの?」

「考えてることも共有することが出来るけど、四六時中それはちょっとどうかなって思う」

「なるほどね。いいと思うわ」

「そうか」

「アンジェのために一つだけアドバイスするわね」

「ん?」

「喜びだけじゃなく、哀しみや苦しみも共有しなさい」

「それはアンジェ側にはつけておくつもりだけど」

「こぉら!」


 エリザは私の頭をペシッと叩いた。


「さっき私がいったことをもう忘れたの?」

「……そっか、アンジェだけを安全な場所に置いてちゃだめだったんだっけ」

「そういうこと。ちゃんとやりなさいね」

「うん。そうする」


 エリザのアドバイスで、結婚指輪の目処がついた。

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