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06.善人、ドラゴンの神になる

 しばらくして、ドラゴンがゆっくりと目を開けた。

 目だけで7歳児の私の体よりも大きかった。


「私の名はカラミティ、空の王カラミティ」

「アレクサンダー・カーライルです」

「エリザベート・シー・フォーサイズです」


 エリザは敬語を使った。

 皇帝でもなく、少女でもない。

 彼女の敬語口調は初めて聞いた。


「フォーサイズ縁の者か」

「はい、お初にお目にかかります、守護竜様」

「うむ」


 カラミティは鷹揚にうなずいてから、私とエリザを順に見た。


「して、私を長き眠りから解き放ったのはどっちだ?」

「僕だよ」


 私は即答で名乗り出た。

 ドラゴンの目がギョロ、と私だけを見る。


「そうか……運命の者よ、まずは礼を言わせてもらおう」

「運命の者?」

「うむ」


 カラミティはうつ伏せのまま、わずかにあごを引いた。


「私は運命の者に逢うために自らを石化させた。いつかこれを解いてくれる者が現われる事を願って」

「自分で……だから石化できたんだ……」


 横でエリザが納得していた。

 神にも等しい程の力をもったドラゴンが何者によって石化されてたのか疑問だったが、本人が自分でやった事なら力的に(、、、)納得がいく。


 だが。


「どうして自分を石にしたの?」


 力的に納得は出来るが、意図は未だ分からなかった。

 私が聞くと、一度は納得したエリザも、また真剣な目つきでカラミティを見つめて疑問への回答を待った。


「怪我だ」

「怪我?」

「私の怪我を治してくれる運命の人を待っていたのだ」

「特殊な怪我なの? 呪いとかそういうの?」


 怪我を治してくれと言われて、私は詳細を聞いた。

 どんな特殊な怪我でも、賢者の石ならば治し方は分かる。

 だから、詳細をまず聞く事にした。


「いや、ただの戦傷(いくさきず)だ。フォーサイズのために戦い、人間軍10万によってたかってやられた、ただの致命傷だ」

「それただのっていわないよ!」


 思わず大声を出してしまった。

 軍勢十万につけられた致命傷って……人間のスケールを軽く超越しちゃってる。

 というか、よくケガだけですんだなあ……。


「腹いせで跡形もなく消しとばした」


 カラミティにまるで心を読まれたかのように、補足説明をされた。

 10万の軍勢を「腹いせ」レベルで殲滅するなんて。

 ドラゴンが生物として遥か超越した存在なのがよく分かる。


 一方で、話は分かった。

 そういう事ならば話は早い。


「確認するけど、戦場でつけられたただの怪我だよね」

「うむ」

「わかった。致命傷って言うし、早めにした方がいいから、ちょっと荒めに行くね」


 そう言いながら手をかざして、まずは魔力を放出した。

 空中に放出した魔力をこねて、回して、いつもの魔力球にした。


 純粋な回復属性の魔力球、白の魔力球。それを10個。

 カラミティの体が巨大だから、その生命力に見合う分量としてとりあえず10個を作った。

 作った後、まとめてカラミティに押しつける。


 白い魔力球が溶ける様に、カラミティの体に吸い込まれていく。


 手応えはあった。

 最初は何か抵抗を感じたけど、魔力球の魔力量と回転を増やしたら、すんなりと抵抗を突破する事ができた。


 全部の魔力球をカラミティに投げ入れた後、ドラゴンは驚いた顔で寝そべっている地面から顔を上げた。

 さっきまでの気だるそうなのと違う、機敏な動きだった。


「完治した……だと」

「まだどこか悪い?」

「……」


 カラミティは信じられない様なものを見る目で、私を見つめた。


「やっぱりすごい……」


 隣からはエリザがそんな事をつぶやいた。

 カラミティとエリザ、二人とも驚いていた。

 なんでそんなに驚いてるんだ?


「どうしたの?」

「どうしたのって、分からないのアレク?」

「なにが?」

「ドラゴンってあらゆる魔法に耐性があるのよ。強すぎて、実質全ての魔法が無効になるくらいの耐性」


 エリザの説明を、賢者の石を使って確認。

 神にもっと近い種族と呼ばれているドラゴンは、エリザが話したようにあらゆる魔法に耐性を持ってる。


 そっか、さっきの抵抗はそういう事だったのか。


「そう、だから私の怪我は誰にも治せなかった。治癒魔法も耐性で無効化してしまうのだ」

「なるほど……でもそれじゃなんで自分で治さなかったの? 自分で石化出来たんだから治癒魔法も自分ですればよかったじゃない」

「それは無理だ」


 カラミティは器用に口角を持ち上げた。

 見慣れないドラゴンの表情だが、自嘲っぽく笑ってるのが雰囲気で伝わってきた。


「私は治癒魔法は苦手だ。必要無かったのでな」

「……そっか、強すぎた弊害ってやつだね」

「まさに」


 カラミティはくつくつと、のどを鳴らして笑った。

 そりゃあ、神様みたいに強くて、あらゆる攻撃を無効化するほどの耐性があったら、回復魔法なんてはなっから覚えないのも納得だ。


「それ故に私は自分の体を石化させて一切の生命活動を止め、いつかこれを解いてくれる運命の者の存在の出現を待った。その者ならばあるいは、と運命を託すことにしたのだ」

「なるほど」

「それがまさか……これほどの者だったとはな」


 舌を巻くカラミティ、私はようやく分かった。

 無効化するほどの耐性を突き破った回復魔法に驚かれていたんだ。


 カラミティは更に私をじっと見た。

 静かに、じっと見つめてから。


『問おう』

「――え?」

『直接心に語りかけている――問おう』


 聞き慣れないタイプの声に一瞬驚いたが、説明されて納得した。テレパシーの魔法だ。

 カラミティの目を見つめ返して、質問されるのを待つ。


『あなたが神か』


 一瞬、ギクっとなった。

 前世の査定、SSSランクの生まれ変わり。

 望めば神にもなれたあの時の事を思い出して、ギクっとなった。


『それほどの力、私をあっさり治した力。神としか思えない』

『ちがうよ、僕はただの人間。アレクサンダー・カーライルだよ』

『……』


 カラミティは無言で、じっと私を見つめた。


 しばらくして、今度は心に直接じゃなくて、声に出して語りかけてきた。


「であれば……ますます運命の者だったということだな」

「そうなるのかな」

「運命の者よ。救われたこの命、そなたのために使いたい」

「恩返しってこと?」


 カラミティは静に頷いた。

 しかし、その直後に。


「私の主になってくれまいか」


 ものすごい衝撃的な告白をしてきた。


「守護竜様のご主人様に……? すごい……」


 私も驚いたが、もっと驚いたのはエリザで。

 彼女は私の隣で、見た事もない様な顔で絶句していた。

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[気になる点] あらゆる魔法の耐性があるのなら、なんで自分にかけた石化魔法は効いたの?
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