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32.善人、最強の文字を発明する

 領主の館、書斎の中。


 私はペンを握って、紙の上に絵を描いている。

 それをそばでサポートしているメイドのエリザ。


 彼女はしばらくじっと私を見つめていたが。


「ご主人様、これは何をしているんですか?」

「指示を出すための絵を描いてるんだよ」

「指示?」

「お触れを出すとき、例えば農村とかだと、誰かが代わりにそれを読んで皆に伝えるじゃない」

「はい」

「だから文字が分からない人でもわかるように、こうしてお触れを絵にして出そうって思ってね。もちろん文字ありと併用するけど」

「そうなのですね」


 エリザが納得した所で、私は再び絵を描くのに集中した。


「ご主人様が絵を描く所はじめて見ました」

「ん? そうだったっけ?」

「はい、すごく上手いです。びっくりです」

「昔よく書いてたからね」

「そうなんですか? アンジェ様からはそんな事一度も聞いた事なくてびっくりしました」

「ああ……」


 思わず苦笑いした。

 私は手違いで、前世の記憶を持ったまま生まれ変わった。


 この「昔」というのは、生まれ変わる前の事、前世の事だ。

 だからずっと一緒にいても、アンジェが知らないのは当たり前だ。


「アンジェと出会う前の事だからね」

「そんな昔からこんなに上手く!? ご主人様すごいです……」


 エリザは驚き、()で感心した。


 そうこうしている間に絵を描き上げて、部屋の隅っこの机にいるマリを見た。


「マリ」

「はい」


 マリは慌てて、バタバタと駆け寄ってくる。


「これをみて、僕が伝えたいことを書き出してみて。素直に感じた通りに、でいいから」

「わかりました」


 絵を受け取って、自分の机に戻っていくマリ。

 最近は私の「文字がらみ」の仕事を一手に受けていて、それで自信をつけたのか、最初の頃のようなおどおどしたのはなくなってきた。

 もともと強い子だから、このまま順調に育っていってほしい。


 ……アンジェじゃなくて、マリにもちょっとお父さん視線入ちゃってるなあ。


 さて、これはとりあえずマリに任せて……あれ?


「どうしたのエリザ。珍しいね、メイドのお仕事してる時に考えごとなんて」

「あっ」


 私に指摘されて、ハッと我に返るエリザ。

 そう、彼女は天井をみあげて、何か考えごとをしているみたいだ。


「ごめんなさいご主人様!」

「いいよ。何を考えてたのか教えて。エリザの事だから、きっと大事なことなんだよね」

「ご主人様……」


 エリザは感激して、目を潤わせた。


「私の事……そんなにまで……」

「うん、僕はエリザをすごい人だと思ってるよ。清濁併せのんでいても、次の人生もきっとAランク以上、それくらいの人だと思ってる」

「ご主人様……」

「そんなエリザがただぼうっとしているはずがない。何を考えてたの?」

「はい、文字のことです」

「文字?」

「どうしたらもっと識字率を上げられるか、教育のことを考えてました」

「なるほど」


 それはメイドエリザじゃなく、皇帝エリザベートの思考だ。

 外見も仕草も、指摘される前後の口調も完璧にメイドにはなっているけど、やっぱり根本的な所では皇帝――為政者なのだ。


「文字は分かった方がいいよね」

「はい」

「私もそう思います!」


 仕事を振ったばかりのマリが強く主張してきた。

 彼女は私が「文字」を教えた子だから、実体験としてより強く体感しているのだ。


「そっか、識字率をあげるか……」


 私も考えた。

 それはかなり、重要な事なのだとおもう。

 なにかいい方法はないか。


 マリのように私が直々になんとかすれば文字は覚えられるが、それを全ての民にして回る訳にもいかない。


「ご主人様の絵のように、書けなくても読めたらそれでひとまず充分なのですけど」

「――っ! それだ!」

「え?」

「ナイスだよエリザ、それだ」


 きょとんとするエリザ。


 アイデアが、まるで天啓のように降ってきた。


 私は自分の机に戻って、ペンを取って、少し考える。

 考えて、自分に問いかけてから、紙の上にペンを走らせる。


「どう? 読める?」


 紙をかざして、二人に見せる。


「読め……ない?」

「読めないですね」

「おお。じゃあこれは?」

「ダメです」

「ダメですね」

「最後にこれだと?」

「ふざけないで下さい?」

「ふざけないで下さい、ですね」

「おー……」


 紙を再び机の上に置いて、それを見つめた。


 読めない。

 ダメです。

 ふざけないで下さい。


 二人が答えたのは、全部、私が紙に書いた文字だ。


「あれ? でも、今のって……なんで読めたの?」

「そういえば!」


 エリザもマリも、おくれてその事に気づいた。

 そう、私が書いた文字は彼女らには初めて見る文字。


 それどころか世界にまだ存在していない文字だ。


 なのに、見ただけで読めた。

 しかも二人とも、まったく食い違うことなく読めた。


「ご主人様、それはなんて文字ですか?」

「名前はまだ無い、僕が今作った」

「「………………えええええええ!?」」


 数秒間の間をあけてから、二人は盛大に驚いた。


「つ、つくった?」

「文字を作ったんですか?」

「うん、今作った。まだまだ文字数とか足りないけど、この方向性で作っていけばいいってのは分かった」

「作ったって……そんな……」

「すごい……」

「いやすごいのはすごいけど、もっとすごいのは――ご主人様、それ、だれが見ても読めるって事ですよね」

「あっ」


 エリザは真っ先に気づいた。


「うん、そうなるように作った」

「そういうからくりですか?」

「頭の知識で読むんじゃなくて、魂で読む感じかな。表魂(ひょうこん)文字、とでも言えばいいのかな」

「魂にダイレクトに働きかける、一種の呪文みたいなものだよ。人間の魂、輪廻転生を繰り返している魂なら、理論上は人間でも動物でも、神様でも悪魔でも読めると思う」

「「………………」」

「どうしたの二人」

「あっいや」

「すごすぎて……言葉を失っちゃいました……」


 二人に微笑み返して、もう少し考える。


 当面は使いながら作っていく。私以外が書くのは難しいが。

 まあ、全人類が読めるのなら、当面はそれで大丈夫だろう。

ここまで読んでくれてありがとうございます! 今回の話どうでしたか

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