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29.善人、大きく権限をもらう

「臣、アレクサンダー・カーライル。玉顔に拝し、恐悦至極でございます」


 広大な謁見の間で、私の声が響き渡る。

 周りにいる大臣や役人、兵士らが神妙な目で私を見ている。


 一方で、玉座に鎮座している皇帝、エリザベート・シー・フォーサイズその人は、心なしか不機嫌そうな顔をしている。


「面を上げるがよいアレクサンダー卿。余に殊更頭を垂れる必要は卿にはない」

「ありがたき幸せ」


 そう言って、片膝礼をやめて、立ち上がる私。


 エリザと目が会う。

 何をしに来た、という目が非難混じりで見てきた。


「陛下にお許し頂きたい事がございます」

「なんだ」

「貴族の称号をいくつか、準男爵の位をいただければ」

「なんだ、子でも成したか」


「おお」

「国父様もいよいよですか」

「いやしかし、アンジェリカ様とはまだご成婚なさってないのでは?」

「いやいずれにせよめでたい」


 周りからざわめきが、そして歓呼に近い声が上がった。


 エリザのそれは皇帝と貴族の間によくある冗談のパターンだ。

 高位の貴族は、子供が生まれた時に、子供に貴族の位をもらえるかどうかが、自分の地位と権力を測るパロメータになっている。


 かくいう私も、産まれた直後に父上がその気になって、男爵位をもらってきたため、私はハイハイが出来るよりも、父上と呼ぶよりも早く男爵になった。


 それくらい、当たり前の事だが。


「いいえ、そうではありません」

「それは残念。卿の血筋は後世に残すべきもの。そろそろ考えた方が良いぞ」

「ありがとうございます」


 エリザのからかいと、ある意味社交辞令のそれをさらりとかわして、本題に入る。


 今日、ここに来た本題。

 アヴァロンから帝都に直接出向いて、皇帝陛下に謁見した理由を切り出した。


「商人に、与えるためです」

「商人?」


 ざわつきが大きくなる。


「卿が売官の副業を始めたとは驚きだ」


 エリザはものすごく楽しそうにに笑い。


「売官くらいしてくれた方が余は安心だ。卿は完璧すぎる」

「ご冗談を」

「して、どういう者だ?」

「まだいません」

「……一から説明せよ。卿のなす事には耐性がついてきたつもりだが、さすがに何も想像つかぬ」


 エリザがそう言うと、周りの大臣達はこくこくと頷いた。


「たいした事ではありません。アヴァロンに商人を誘致したいのです」

「つまる所エサか」

「はい。アヴァロンに産業を持ち込んだ商人に授けようかと考えております」

「それに限定する理由はなんだ」

「産業を持ち込むと大きく括っておりますが、ようは紡績など、器具がいる産業を呼び込みたいのです」

「ふむ」

「農地と同じでございます、陛下。農民は手塩に掛けて育てた土地から離れられません。そこに投じた労力と、一からやり直す労力を天秤に掛ければ。商人も同じでございます。大きな投資を必要とする商人をひとたび引き込めば、十年、いえ二十年は同じ土地にとどまってくれるでしょう」

「ふむ」


「なるほど、さすが国父様」

「民と土地の事はわかるが、商人まで考えがいたらぬ」

「私も住み慣れた屋敷から離れられないしな」

「そなたのは貧乏性なだけだ」


 大臣や役人達の冗談が飛びかう。

 冗談で流されてるけど、住み慣れた屋敷から離れられないのはまさにそうだ。


 家を借りてる人間は移動したりするが、家を買った人間は長年その土地に縛られる。

 同じことだ。


 エリザは考え込んだ。

 商人に貴族号を与える。


 前代未聞とは言わないが、生粋の貴族からすればそう面白くはないのは知ってる。

 だからこそ私自ら出向いて、公の場で頼んだ。

 それでもダメかな。


 と、思っていたその時。


「分かった」

「おお、ありがとうございます陛下」

「うむ。国父アレクサンダー・カーライルよ」

「ははっ!」

「そなた以下の位なら、自由に授けて良いぞ」

「ありがたき――ええっ?」


 言いかけて、驚いた。

 盛大に、ひっくり返る位驚いて、エリザをまじまじとみた。


「あの……陛下? 今なんて?」

「むぅ? すまぬ間違えた」

「ですよねえ」


 私がほっとしかけたその時。


「副帝より下位の位なら自由にしてよい。さすがに副帝を乱発されるのは困る」

「えええ!?」


 またびっくりした。

 間違えたってそこ!?


 私の好きにさせるって、そんなのいいの?


「報告もいらん、アヴァロンに限れば領地も勝手に振り分けていい」

「あ、ありがとうございます」


 予想以上の答えに若干タジタジになる私。


「さすが国父様だ」

「陛下との信頼がお堅い」


 周りのざわざわも、好意的なものばかりで、ますますタジタジになるのだった。

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