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27.善人、詐欺を閉め出す

「アレク様、ちょっとお時間いいですか?」


 建設中の屋敷、それのすぐ前の仮設テント。

 令嬢メイド達にあれこれ執務の指示を出していると、アンジェがやってきた。


 珍しく浮かない顔をしている。

 彼女がこんな顔をするなんて珍しい、私は手をかざして、メイド達を全員一時的にとめた。


「ごめんなさいアレク様……」

「いや、アンジェ――」


「アンジェ様がそんな顔をしてる方が一大事です」

「何かありましたか?」

「狼藉者なら私におまかせを」


 私が言いかけたのをほとんど遮る形で、令嬢メイド達が消沈しているアンジェの元に駆け寄った。


 私同様、そんな表情をしているアンジェがほっとけないようだ――なのだが。


「すこしやけちゃうな」


 などとつぶやいてしまった。


「ありがとうみんな。アレク様……これなんですけど」


 やっぱり私じゃないとダメなのか、アンジェは手に持っている一枚の札を手渡してきた。

 受け取って、表に裏にまじまじと見つめる。


 それっぽい(、、、、、)紋様が描かれている、ただの紙だ。


「これは何?」

「最近町で流行っている物です。えっと、お年寄りの方を中心に、皆さん寄付をする事が多くなってます」

「寄付?」


 首をかしげつつ、少し離れている場所に立っているアメリアを見る。

 メイド長という立場を守ったのか、彼女は他のメイド達と違ってアンジェには駆け寄らなかった。

 顔は心配しているのがありありだったが。


 私に次いで、というより一部の細かい事なら私よりも把握しているであろうアメリア。

 水を向けると、彼女は静かにうなずいた。


「はい、そのような傾向が見られます」

「どうしてなの?」

「寄付というのは、もっともわかりやすく、手っ取り早い『善行』です」

「うん」

「年寄りの多くは『次の人生は最初からアヴァロンに産まれたい』という願望が広まっていて、その表れでございます」

「なるほどね。うん、善行を積めば積むほどここに生まれやすいのは確かだね」


 何しろ、アヴァロンに来てこの地の再生を始めてからというものの、新たに生まれてくる子供の魂はほとんどがBランク以上だ。


 Bランクというのは、取り立てて大きな実績はないが、百人中九十九人が「あの人はいい人だ」と認めるような善人のランクだ。


 それを知っている訳ではないが、徐々に「楽園」と見なされて来たここに再び生まれ変わるには、善行を積むしかない。

 それは当たり前の発想だ。


「その事がどうしたの?」


 再び、アンジェの方を向く。


「最近、そのお札が売られているんです。功績符、という名前です」

「功績符?」


 なんか、きな臭い話になってきたな。


「えっと、売られてるというのも違って。寄付を受け付けた人が発行して、これを持ってると次もちゃんとアヴァロンに生まれ変わる、っていう」

「……アンジェの言いたいことはよく分かったよ、そんな表情をする理由も」

「はい……」


 またちょっと沈むアンジェ。


 アンジェが最初にその言葉を使ったように、この功績符とやらは実質「販売」されているものだ。

 そして、詐欺でもある。


 この紙自体、アンジェから受け取った直後に観察した通り、なんの効果もない、それっぽい紋様が描かれているただの紙だ。

 つまりはお年寄りの願い――いや不安か。

 それにつけ込んだ詐欺と言うこと。


「ありがとう、アンジェ」


 私は立ち上がって、囲んでいるメイド達をかき分けるようにして、アンジェの前に立ち、手をとった。

 包み込むように握って、微笑む。


「後は僕に任せて」

「はい! お願いします、アレク様」


「と、言うわけで、ひとまず全ての仕事を中断するよ」


 言って、ぐるりと周囲を見回す。

 メイド達が全員、はっきりと頷き、目に強い光を湛えた。


「いかがなさいますか?」


 聞いてきたのはメイド長のアメリアだった。

 それを皮切りに、他のメイド達が次々と意見を出し合った。


「そういうの、偽物だと注意喚起します?」

「ご主人様以外はこういうのやらないし意味がないって広めるのがいいと思う」

「厳罰するべき、それで止めた方がいい」


 「そんな事よりも、もっと根本的な事をしよう。」


「根本的な事?」


 小首を傾げて、疑問をしめすアンジェ。


「結局、次の人生がどうなるか分からないという不安がこうさせると思う。ちゃんといいことをしてきた人ならそんな不安を抱かないでしょう?」

「確かにそうですね」

「それを、可視化してあげればいい」


 手をかざして、力――神格者の神力を練り上げる。

 光の玉が目の前の空中に出現する。


「これは?」

「とりあえずプロトタイプ。そうだね……チョーセン」

「はい」


 令嬢メイドの一人、公爵令嬢のチョーセン・オーインが応じて、一歩前に進み出る。


「触れてみて」

「御意」


 チョーセンが言われた通り光の玉に触れた。

 光は広がり、彼女の身体の中に吸い込まれる。


「あっ……」


 小さく声を漏らすチョーセン。

 すこし申し訳なくして、でも嬉しそうでもあって。


「分かる?」

「はい。ありがとうございます、ご主人様」


 チョーセンは潤んだ目で私にお礼を言ってきた。


「えっと……?」


 アンジェを始め、他のメイド達は状況を理解出来ずに不思議がった。

 私は説明した。


「今のは、その人の善行度――と仮に名前をつけるけど、それをグラフみたいな感じで、触った本人が分かる様にしたもの。チョーセンに触ってもらったのは、みんなの中で一番『上昇』したはずだから」

「ご主人様に引き戻してもらえなければ、来世はどうなっていたことか……」


 感謝、そして若干の恐怖も顔に滲ませるチョーセン。

 私の元に来た頃はわがまま令嬢だったことをみんな知っていて、その度合いなら生まれ変わったあと低ランクになるだろうと皆予想がつく。


 それをはっきり見せたから、この表情になったんだろ、全員が一斉に理解した。


「これをもっと気軽にチェック出来るようにしよう。これが分かれば騙されないよね」

「はい! そう思います!」


「実際の最後の審判の模擬試験みたいなものか」

「これでテストしてやり直せる機会もできるしね」

「やっぱりご主人様はすごい」


 アンジェのキラキラした目と、メイド達の言葉に包まれながら。

 私は、一番使いやすい形を考案し続けた。

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