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25.善人、運命の地を書き換える

「ありがとうございます!」


 クジを引いた若い夫婦が、光に導かれてテントから出て行ったのを見送った後、同じテントの中にいたエリザが話しかけてきた。


「それが運命のくじ引きね。話は聞いてたけど実際に見るのは初めてだわ」

「そうだったの? なんだかんだでもう見てるものだとてっきり」

「私もそう。話は聞いてるから、なんだかんだでもう見てるものだと自分でも思ってた」

「不思議だね、それ」

「アレクのやることは想像つくし、最近はもう驚きも少ないからね」


 肩をすくめておどけるエリザ。


「アレクは引いたの?」

「僕は引いてないけど、アンジェは引いたよ」

「へえ、あら、何その照れ顔」

「……顔に出てた?」


 私は苦笑いした。

 これを言わなきゃ良かったって思うが、隠す様なことでもない。

 アンジェとしても「当たり前の事」だからあえて言うまでも無いことだが、そのうち世間話の中でポロッとでるものだから説明しとくことにした。


「僕だった」

「アレク?」

「アンジェの運命の居場所は僕のそばらしい」

「へえ。ひゅーひゅー、熱いね」


 エリザは普通に納得したが、直後に思い出したようにありきたりなからかい方をしてきた。


「こうなるとおもったよ」

「でも当たり前の事だもんね。確か彼女と私の魂、ほとんど同ランクだったのよね」

「うん」

「帝国皇帝に生まれるのに匹敵する居場所、まっ、当たり前よね」


 それで納得するエリザはすごい人だと思った。


「となると、私が引いたら帝都まで導かれるのかしら」

「玉座だね。うん、そうかもしれない」

「引いてみていい?」

「どうぞ」


 私はくじ引き箱を差し出した。

 空白のくじしか入ってない箱、引いたらその人の魂に反応して、運命の場所に導く魔法のしかけ。


 エリザは何気ない仕草で手を入れて、一枚のクジを引いた。

 クジはエリザの手の中で溶けて、光となった。


 蛍の様な小さな光はゆらゆら漂って――このテントを指した。


「あら、これってアンジェと同じって事?」

「ううん、アンジェの時は僕が光った」

「となると、居場所はアレクじゃなくて、文字通りここ(、、)ってことかな」

「そういうことになるね」

「うーん、そりゃ遷都も考えてたけどさ」

「え? そんな事を考えてたの?」


 驚く私。

 エリザがポロッと漏らしたとんでもない一言に驚いた。


「そりゃそうよ。アレクがここを発展させる、高ランクの魂も集まる。アレクが生きてる内は帝都以上に発展するのが目に見えてるじゃない」

「……なるほど」


 そういう言い方をすれば確かにエリザの言うとおりだ。

 帝都以上に発展するのが確実視しているのなら、遷都も視野に入っていなければおかしい。


「でも、帝都には伝統とかそういうのがあるんでしょ」

「そういうのにこだわって帝国の更なる発展の可能性を逃してたら馬鹿らしいじゃない」

「それはそうだけど」

「何はともあれ、私の居場所はここ。いずれここに来るのが運命なのね」

「一応ちょっと違う。ここに来なくてもいいけど、ここに来た方が一番いい、と言うことだね」

「一緒じゃないそれ」

「そうだね」


 世の中は運命に素直に従える人間ばかりじゃない、って言いかけてやめた。

 そういう事に、エリザはびっくりするくらい柔軟だ。


 皇帝でありながら、私に「副帝」と「国父」の称号を引っ張り出してきた時点でそうだ。


「……」

「まーた始まった」

「え?」


 少しだけ考えごとをしてたら、エリザがそんな事をいいだした。

 見ると、彼女はニヤニヤしていた。


「まーた始まったって?」

「今のやつ、私の運命の居場所が分かったから、何かを乗っけて更に一歩先の何かを考えてたんでしょ」

「あはは、すっかりばれてるね」

「付き合い、長いからね」


 何日前にエリザに言われた事。

 エリザもその事をしっかり言葉にしたことで、今までよりもはっきりしたって感じだ。


「うん、何かできる気がするんだ。遷都まで行かなくても、何かね」

「私の居場所ね。ここに墓立てるのは? 皇帝の墓って生前から立てるし」

「そういえばそうだね」


 皇帝を相手にする時に様々なタブーはあるが、意外な事に、死後の墓の事を検討することはタブーでは無い。

 皇帝の墓はどの時代もかなり巨大で豪華なものを立てるし、当然生前から建設を進めないと間に合わないし、ある意味「終の棲家」で、後世まで残すものだから、皇帝によっては自分の趣味全開だったり、事績をこれでもかってくらい宣伝する為の作りになってたりする。


 元々私との間にタブーのないエリザだから、余計にあっけらかんと墓の話になった形だ。


「そうかもね、お墓が運命の場所ってパターンもあるかも。人によっては即身仏とか、人柱とかで土地と一体化するし」

「まっ、どのみち最終的にはここに来るって事だね」

「……」

「何か思いついた?」

「めざといね。うん、一ついいことを」

「何?」

「ちょっと待ってて」


 私は素材袋から小さめの人形を作った。

 人の形をした、子供のおもちゃくらいの人形だ。


 それを持ったまま、魔法を掛けてから、エリザの目の前で引き裂く。


 すると、人形は光と化して、テントの中の左右――まったく反対となる二箇所に出現した。


「ふむ、どういう事?」


 現象は理解した、と言外に匂わせつつ、説明を求めてくるエリザ。


 私は片方を指して。


「魔法学校」


 といい、もう片方を指して。


「ここ」


 と言った。


 エリザは賢い、一瞬きょとんととなった後。


「アレすらもダミーにするのね」


 私は頷いた。

 魔法学校は、帝国皇帝が戦争や内乱など逃げるときに最後の砦に使う場所だ。


 しかしそれは、ある程度公然の秘密でもある。


 私は今、天使アザゼルの力を使い、エリザに何かあったときに直接あそこに飛ぶ魔法を掛けている。

 それは魔法学校の校長を含め、何人かが知っている。


 逆を言えば、何人「も」知っている。

 そこに更に保険を掛けるというのだ。


「運命の地、その力を利用すればもっと確実に、フェイント込みでも確実にここに飛ばせる」

「さすがね、その発想」


 エリザはにこりと笑った。異論は無いようだ。


 彼女の首肯を得たので、私は彼女にかけているいざという時の術式を組み替えることにした。

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