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24.善人、自分の本質を知る

「なにとぞ、なにとぞよろしくお願い致します!」


 産まれたばかりの赤ん坊を抱いた母親と、それに寄り添う父親。

 二人は私に更に頭を下げてから、若干気落ちした様子でテントから出て行った。


「珍しいわね、あなたのところからしょんぼりと肩を落として帰るのって」


 その入れ替わりに、エリザが入ってきた。

 またまた、お忍びでやってきたエリザ。


 今日も一段と綺麗に見える格好で、テントに入って私の横にやってくる。


「何があったの?」

「名前をつけて欲しいっていわれたんだ」

「名前? ああ、産まれたばかりの赤ん坊にね」


 頷く私。

 若夫婦が抱っこしてる生まれたばかりの赤ん坊。


 特に気にも留めないありふれた光景だが、言われれば間違えようがない特徴的な光景でもある。


「産まれた子に是非名前をつけて欲しいって、今日だけでもう五組目だよ」

「しょんぼりしてたって事は、断ったのね。どうして?」

「両親がちゃんと健在な子はやっぱりご両親につけてもらうのが一番だと思うんだ。名前って、親からもらう一番最初で、最後まで使う、一番大事な贈り物だから」


 そう、だから私も「アレクサンダー」を名乗っている。

 前世の記憶を持っていても、感覚上では父上も母上も私より年下――若い人間だけど。

 それでも、両親からの贈り物、名前を大事にしている。


 前世の名前は数十年使ったから今でも良く覚えているが、生まれ変わってから一度も使ってない。


 マルコシアスとも、サンとも訳が違う。

 ご両親が健在な子供の名前を私がつけるのはいかがなものかと思う。


「だったら、真名とか、洗礼名とか、色々あるじゃない?」

「うん?」

「あんた、神」


 エリザは立ったまま、ビシッと私を指さした。


「……うん、そうだね。厳密には神格者だけど」

「神でいいのよ、人間からしたら同じ」

「そうだね」

「実際に神っぽいこともしてる、女神も天使も配下にしてる」

「……そうだね」


 今までやってきた事を羅列されるだけで、なんかちょっと気恥ずかしくなってくる不思議。


「特に最近のことも聞いてる。このアヴァロンの民にとって、あなたは神も同然なのよ。領主というよりはね」

「なるほど、そうかもね」

「だったら、両親がつける名前とは別に、神がつける、神にしか名乗っちゃいけない名前。というのをつけてやればいいんじゃない」


 エリザが提示する解決案は結構シンプルなものだった。

 というより。


「僕が複雑に考えすぎてたかもね」

「アレクのクセだからね」

「僕のクセ?」

「あんた、お人好し」


 ズビシッ!

 と、本日二度目の指さされ。


 それは割と、新鮮な評価だった。


「そうかな」

「それかサービス精神旺盛すぎ。いい? アレク、あんたの本質は『一歩先』なのよ」

「一歩先?」

「何かを解決しなきゃいけなくなったとき、アレクはいつも普通の解決よりも一歩先の、更にいい解決をしてる。力があるからそうなってるのか、それとも性格がそうなだけなのか」

「ふむ……なるほど」


 少し考えてみる、今までの事を振り返ってみる。


 思い当たる節は……割とある。


「まあ、それをいつも出来てるのがすごい――いやとんでもないんだけど」


 エリザは呆れた笑顔を浮かべた。


「でもそれって基本的にお人好しなのよ。今回も、つけるならつける、つけないならつけない。それでいいはずなのに、アレクは自分の……まあちゃんとした理屈があって、それに反するから、『両親につけさせる前提でその両親も満足する何か』を考えてたんでしょ。だから悩んでる」

「すごいね、完全に僕の思考を見抜いてる」

「付き合いの長さは伊達じゃないのよ」


 胸を張るエリザ。


「まっ、別にいいんだけどね。その考え方があるから、あんたは最近、いろんな新しい事を産み出してるんだし」

「ああ……なるほど、それもここから来てるんだ」

「だから悪いとは言わない、むしろすごいって思う。その上であえて言う――あんたお人好し!」


 三度、ズビシッとゆびさされる。

 三回もやられると、その上懇切丁寧に説明をされると。

 なんだか面白くなってくる。


「そうだ、エリザに相談したいことがあった」


 私は少し話を変えた。


「なに?」

「さっきの赤ん坊もそうだけど、ここに来てから何十人も赤ん坊産まれてきて、それを見たけど」

「うん」

「全員が、Bランク以上だったんだ」

「そう」

「そうって、反応が薄いね」

「そりゃそうよ。そうなるんじゃないかって思ってんだもん」

「え?」

「魂のランクは生まれる場所にも反映する。高ランクほどいい場所に生まれてくる」

「そうだね」


 だから私は公爵家だし、皇帝なんかほとんどがAかSランクだ。


「アレクサンダー・カーライルが復興した理想郷アヴァロン。これ以上ない環境じゃない。あんたが生きてる間、ここに良質な魂が生まれてくるって踏んでたのよ」

「……エリザすごいね、人間の力――為政者の力だけで魂の流れをコントロールしてる」

「実行してるアレクの方がよっぽどすごいけどね」

「それはいいんだけど、ここにエリザがいう良質の魂が集まってくるって事は、他にもしわ寄せがいくってことなんじゃないのかな」

「相談ってそれ?」

「うん」


 頷く私。


「そしてアレクはそれを憂いてるけど、ここの開発をやめるつもりは毛頭無い」

「……あっ」


 ちょっとだけ、顔がかあとなって、赤くなったのが自分でもわかった。


 話を変えたはずなのに、さっきと同じ話に戻ってきたのだ。


 そう、私はそれでもやめるつもりはない。

 やめないで、アヴァロンを発展させるのを続ける前提で、しわ寄せもなんとかしようと考えてる。


 エリザが指摘したことそのままだ。


「それも、あたしの罠」

「え?」

「こういうひずみを作れば、アレクがいずれしわ寄せのいった、低ランクの魂があつまってる地域、その人々も救いに行く。そして、歴史に名が残る」

「すごいね、エリザは。そこまで考えてるんだ」


 正直脱帽だ。

 私の力を搾り尽くそうかという――まさに神の一手。


「何度も言わせないで」


 エリザはにこりと微笑む。


「本当にすごいのは実行してるアレク。あたしはそんなアレクを歴史に残したいだけ」


 やっぱりすごいな、と私はおもったのだった。

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