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21.善人、パーフェクト暖房を発明する

 テントの中、メイドの一人、アグネスが一人の男を連れて来た。

 いかにもいい人そうで、素朴な農民って感じの青年は、テントに入るなり平伏した。


「こ、この度は拝謁(はいえちゅ)のえ、栄誉に――」

「リラックスして、慣れない言葉使いもしなくていいよ」

「は、はは――ありがたきし、幸せっ」


 私がいいといっても、青年はものすごく私に恐縮した。

 平伏したまま顔すら上げないで強ばって、固まってるのがその証拠だ。


「それよりも話を聞かせて。僕になにかお願いしたいことがあるんでしょ」

「お、お願いなんてとんでもない!」

「うん、だったら話を聞かせて」


 なにが「だったら」なのかという突っ込みが入りそうだが、緊張してる相手にそんな細かい事をいってもしょうがない。

 私はとにかく、話をするように促した。


「お、オイラ達はサンモールって村の出身です」

「うん、それで?」

「サンモールは温かくて、一年中が夏みたいな所です」

「……なるほど、ここは故郷に比べて寒いって訳だね」

「は、はい!」


 恐縮したまま、そしてやっぱり平伏したまま顔を上げずに応じる青年。


 ここしばらく肌寒くなってる、季節の変わり目だ。

 常夏の所から来た人達なら、過ごしにくいのは当たり前だ。


「分かった、なんとかしてみる。一晩待ってくれるかな」

「あ、ありがとうございます!」


     ☆


「それで、何をお探しなんですかアレク様」


 私に同行して、一緒に山を登っているアンジェが聞いてきた。


「リファクトっていう鉱石だよ」

「リファクト、ですか?」

「うん。アンジェ、屋敷にいたとき、特に冬は室内でも靴を履いてたよね。それはどうして?」

「え? えっと……やけどしちゃうから?」

「正解」


 段差をまず上がって、それから振り向き、アンジェに手を差し伸べ、引き上げる。


「カーライルの屋敷はハイポコーストっていう床暖房がある、でもそれはたまに熱くなりすぎる部分がある、だから部屋の中でも靴を履くんだ」

「はい」


 頷きつつ、私をじっと見つめてくるアンジェ。

 だから? と静かに私の説明を待つ。


「熱くならない為にいろんな工夫がある。炎を遠ざけたり、床の素材を厚くしたり、場合によっては上に何かを載せたり。いろいろ。でも僕はこう考えた」


 歩きながら、賢者の剣を抜きはなって構えつつ、更に続ける。


「この賢者の剣、ヒヒイロカネって普通はどんなに魔力をそそいでも変化しないよね」

「はい」

「それと同じ事をすればいいんじゃないかって」

「……はあ」


 今一つ分からないって感じのアンジェ。

 そうこうしている内に、私は目当てのものの存在を感じた。


 探索の魔法をかけ続けて、存在を探っていた。

 目当てのものすぐ真上に到着した。


「今から採るから、アンジェはちょっと離れてて」

「わかりました」


 言われたとおり、素直に離れるアンジェ。


 私は地面に、岩山の岩肌に賢者の剣を突き立てて、魔力を込めた。

 何の変哲もない、炎の魔法。

 ただし賢者の剣――ヒヒイロカネを通して威力を増幅させる。


 炎の魔法が下に向かって広がって、岩をドロドロに溶かした。


 溶けていく過程をじっとみまもる私、やがて。


「あった」

「何がですか?」

「見て」


 私が溶かした岩肌――地中を指さした。

 その行動から「もう大丈夫」だと察したアンジェは私のそばにやってきて、溶かして出来た穴をのぞき込んだ。


「あの変な形の岩ですか?」

「へんな形というか、地中にあって、周りが溶けてそれだけが溶けなくて残った結果だね。型に石膏を流し込んで型通りの物を作る。それとにた感じだね」

「これがリファクトですか?」

「そういうことだ」

「なるほど……すごいですね、アレク様が手加減したとは言え、それでも溶けないで残るのって」

「違うよアンジェ」

「え? なにが違うんですか?」


 私はちょっと腰をかがめて、リファクトをひとかけらつまみつつ、アンジェの手を取って、その手のひらに置いた。


「ひゃっ! 熱――く、ない?」


 驚き、手のひらの中のリファクトと私、そして穴を交互に見るアンジェ。

 穴はまだ赤く、周りがドロドロに溶けている。

 その中に焼け残ったリファクトがまったく熱くないことに、アンジェは思いっきり驚いていた。


     ☆


 次の日、テントの外。

 昨日陳情に来たサンモールの青年と、同じサンモール出身の人々が約五百人集まった。


 彼らの陳情、困っている事を解決出来たから、教える為に集めたのだ。


 私とサンモールの人達の間に岩でできた地面がある。

 その地面はわかりやすく横から穴が掘られてて、岩の板になってる地面の下で炎が燃え盛っていた。


 板の一角に四角いブロックがある。

 全体的にみれば、出っ張りのあるタイプのステーキ用プレート。

 それを大きくした感じだ。


 それを使って今から何かを焼くみたいな感じになっている。

 当然、それを見たサンモールの民達が戸惑っていた。


「さあ、その上に乗ってみて」

「えええ!?」


 青年が驚愕する、他の民達がざわつく。


「…………す、すみませんでした」


 青年は少し固まったあと、またまた私に平伏した。


「うん?」

「分をわきまえないで副帝様に迷惑をかけてすみませんでした。なにとぞ! なにとぞ命だけは!」

「ああ、刑罰だと思ったんだ。違うよ」


 私はにこりと微笑んだ。

 青年はおそるおそる顔を上げて、他の民達はますます困惑した。


 仕方ない、私がまずやってみせるか。


 靴を脱いで、石の板の上にはだしで乗った。


 瞬間、更にざわつく。


「これは僕が開発した新しい素材でね。いくら火をくべても、温度が人肌くらいまでしか上がらない素材なんだ」


「「「……………………えええええ!?」」」


 たっぷりを間を開けてから、その場にいる全員が驚きの声を上げた。


「普通は火をつけたら燃えるし、燃えなくても熱くなる。でも、この素材ならいくら燃やしても人肌くらいにしか上がらない。乗ってみて」


 更に促す。

 平伏してる青年が私を見て、同郷の者達を見る。

 それからおそるおそると立ち上がり、わらじを脱いで、岩の板に上がってきた。


「あたたかい!」

「ねっ」


 私はにこりと微笑みながら、そっと岩の板の上から退いた。


 青年の反応をきっかけに、次々とサンモールの民が板に上がってきた。


「本当だ、板の上は温かい!」

「むしろ周りの方が空気で熱いぞ!」

「おいこっち来て見ろ! この出っ張り小屋になってて中温かいぞ!」


 少し離れた所で、民達の反応を見守った。


 小屋を作ってみたが、狙い通りの効果になった。


 暖房は何種類かあるが、そのほとんどに共通している問題点として、熱いところと寒いままのところが出てしまうと言うことがある。


 床暖房は言うまでもなく地面が熱いし、暖炉とかだと炎にあたってるところが温かくて背中が寒いことがよくある。


 東の国の名産であるこたつというものも、使い方を間違えると風邪に一直線という弱点がある。


 それを克服したのが、リファクトを建材に使ったあれだ。


 建材そのものがリファクトなら、全周囲が人肌の温度を発し続けるので、部屋のどこにいても同じくらい温かい。


 強いていえば理論上中心だけ寒いが、それも次第に馴染んでいくはずだ。


「すげえ、こんなのあるなんて」

「俺てっきり家を早く建てたり、全部に暖炉つけてくれるとかだって思ってたぜ」

「さすが副帝様だぜ」


 500人が次々とリファクトの体験をして満足してる様に、私は新しい素材の成果に満足していた。

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