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20.善人、自分への批判を喜ぶ

 姿を変えて、服装も貴族のものから庶民のものに着替えて。


 私はアンジェ、そしてエリザの三人と一緒に出かけた。

 大人になった私とアンジェが左右に、まん中には子供の姿に戻ったエリザ。


 三人で手をつないで歩く姿は、仲睦まじい三人親子の姿そのものだ。


 それは、だが。


「大丈夫かいエリザ」


 見た目が大きく変わっているから、呼び名は気にしないでいつもの呼び方をする事にした。


 その、私と手をつないでるエリザ。

 何故か体が強ばってて動きがギクシャクしてる、その上握ってる手がものすごく熱い。


「熱でもあるのかい」

「だ、大丈夫!」


 エリザはかなりの剣幕で否定した。

 手を額に当てて熱を測ろうとしたが、体をよじって避けられた。


「そう?」

「大丈夫だと思います、あなた」


 まるで助け船を出すかの如く、アンジェが反対側から言ってきた。


「そうなの?」

「ええ、この年頃の女の子は、男の人よりも体温が高めですから」

「なるほど」


 念のために見えないようにカモフラージュしつつもいつもの様に背中に背負ってる賢者の剣に聞いた。

 すると「そういう人もいる」「人による」という答えが返ってきた。


 まあ、そういうことならいっか。


 それ以上気にしないことにして、歩き続けた。


 アヴァロン、数日前まで荒廃した毒々しい大地だった場所。


 その毒々しさはすっかり抜け、あっちこっちで人々が家を建てたり、畑を開墾したりしている。


 土地があっちこっちぼわぁ……と、淡く光っている。

 色がそれぞれ違うそれは、民がくじ引きで引いたてい(、、)の、彼らにとって運命の場所だ。


 その光る場所は自然と区画化されていて、まだまだ途上だが既に町っぽくなっていた。


 そんな町っぽい中三人家族で歩いてると。


「あなた、あれをみて下さい」


 ふと、アンジェが立ち止まって、離れた場所を指さした。

 そこは一際光る場所が広い所だった。

 まだ(、、)住宅街の中にある空き地の様なそこに、三十人近くの若者が集まっている。


 若者達は跪いて、正面に置かれた木材に向かって拝んでいた。


「なんだろうあれ、宗教かな」


 おそらくあの区画は今後神殿になるだろう、そして木材は代理か、それを使って神像をほるんだろう。

 そう思わせるほど、男達は敬虔にそれを拝んでいた。


「ああアレクサンダー様、アレクサンダー様よ」

「我らが救世主よ」


 風に乗って、男達の声が聞こえてきた。


「どうやらあな……アレク様を称えてるみたいですね」

「なるほど」

「よかったじゃん」


 さっきまで微妙に不機嫌だったエリザが、子供らしい口調で言ってきた。


「副帝の治世を称える声が普通にあるって事は、大丈夫ってことだね」

「そうだね」

「なにかご不満ですか?」


 アンジェが首をかしげて聞いてきた。


「うーん、不満って訳じゃないんだけど」


 曖昧に返事をすると、アンジェとエリザが互いに顔を見比べて不思議がった。


「とにかくもうちょっと見てみよう」

「そうですね」

「わかった」


 二人を連れて、仲睦まじい親子を演じたまま、更に街中を歩く。

 一回見かけると、それがよく目につくようになった。


 区画が分かれてて町っぽくはあるが、建物がほとんど建ってないため、数軒先にいるもの達も見えてやりとりもよく分かる。


「今度は子供達ですね」

「歌だね」


『神よ皇帝アレクサンダーを守りたまえ、我らの良き皇帝アレクサンダー』


 子供達が歌ってるのは私を相手にした賛美歌だった。


「皇帝になっちゃってますね。やめさせた方がいいのかな」


 アンジェはそう言って、エリザをちらっと見た。

 本物の皇帝がこれをどう思うのかって視線だ。


「いいじゃない? こういうのって本人を担いで反乱しない限り問題ないし、担がれて反乱する人?」


 エリザはそう言って、私を見あげた。


「しないね」

「だったら問題ないね」

「良かったですね――あれ? まだ困った顔をしてますね」

「なにが問題なの?」

「うーん」


 二人にどう説明するか、って頭を悩ませていると。


「げっげっげ……ガキまで洗脳するたあ、稀代の大ペテン師だな」


 背後から老人の声が聞こえてきた。

 振り向くと、鹿かなにか、獣の肉を料理したものを肴にのんでる老人の姿が見えた。


「ご老人、稀代の大ペテン師って誰の事?」

「あの副帝様だよ」


 老人は不敵な顔で言い放った。

 アンジェが困った顔して、エリザがむすっとした。


 今にも飛び出しそうなエリザとつないでる手に力を込めて、引き留めつつ更に聞く。


「どういう事なんですか?」

「分かるだろ? ついてきた連中は誰も彼もがそいつを称えてらあ」

「そうですね。おじいさんはしないんですか?」

「俺には関係ねえ話やな。ついてきたのもここでなら食いっぱぐれねえって思っただけよ」

「ふむふむ」

「連中は気づいてねえがな、あの副帝様、知れば知るほど人間じゃねえ。ありゃあな」


 にやり、と口角をゆがめて、歯の欠けた口で愉快そうに笑った。


「人間を幸せにする機械だ。やる事なすことに血が通ってるように見えねえ」

「なるほど!」


 それは斬新な意見だ。

 血が通ってない、人間を幸せにする機械。


 初めて聞いたけど、ちょっと面白い。


「あれが本当な訳ねえ、ぜってえなにか裏がある。そいつの化けの皮が剥がれるのが楽しみなのよ」


 老人はそう言って、更に酒をあおった。


 エリザがわなわなと震えた。

 顔が真っ赤になって、怒りに震えている。


 エリザからすれば老人のそれは「放言」の類に聞こえたんだろう。


 私はエリザの手を握る力をちょっと強めて、微笑みかけて、彼女をつれて老人から離れた。


 老人に声が届かないところまで来ると、エリザは。


「あんな事言わせてていいの!?」


 と、はっきりと怒っていた。

 一方で、アンジェは。


「あなた……さっきと違って嬉しそう」


 と、やや困惑していた。


「うん、これなら大丈夫だよって思ったの」

「どういうこと?」

「おじいさんの顔見た? 血色が良くて、昼間からお酒を飲んで、僕――政権の批判をしてる」

「してますね」

「そういう余裕と自由があるのが一番いいんだ。善政は善政だと思われてない位の方がいいんだ」

「……カルス帝のお言葉」


 つぶやくエリザ、頷く私。


 生活が安定して未来が見えて、政権批判も出来る。


 どうやら、税金の件は私の思い過ごしで。

 民衆は、余裕があってそれが出来ているみたいだ。

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