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17.善人、システムをどんどん作る

 次の日、テントの中。

 私はアンジェと一緒に、メイド達から次々と上がってきた報告を聞いていた。


 ちなみに部屋の隅にはマリがいる。

 彼女には記録係として、私が聞いたこと言ったこと、全てを記録してもらう様にしてる。


 正直を言えば、あまり意味はない。

 私に起きた、そして必要なことは「知識」に変換して、賢者の剣に蓄積されるからだ。

 それでもマリにさせていた。


「北西七キロの山に鉄鉱脈発見との事です」

「こちらは南に向かった養蚕の一族、桑の群生とそれに適した土地だったみたいです」

「親子三代で『渡し』をしていた家族はいち早く川のそばに誘導されて、今は船を作ってるみたいだよ」


 メイド達が次々と報告してくるのは、「抽選」というてい(、、)で、その人の最も適した土地に導いた民衆から上がってくる報告だった。


 得意や専門に沿った誘導だから、大半が「むかしのまま仕事が出来る」という感謝で、その一部に――


「結構な勢いで資源が発見されてるね」

「はい」


 報告を統括している、メイド長のアメリアが頷いた。


「報告のおよそ三分の一がそういったものです」

「……」

「どうしたんですかアレク様」


 黙って考え込むと、そばのアンジェが不思議そうに聞いてきた。


「少ないって思って」

「すくない、ですか?」

「僕についてきた民衆は十万、そして彼らを誘導したのは、この先一番いい暮らしが出来る運命の土地。そういう魔法。そしてここはかつて楽園と呼ばれたアヴァロンという土地」

「あらゆる意味で肥沃な場所、もっと報告があってしかるべき、と?」


 私の言葉を引き継ぐアメリア。


 立場は人を作る。

 私が何でもやるせいで、アメリアもメイド長ながら、領主の参謀みたいなポジションでものを見て、意見が言える様になっている。


「うん、僕はそう思う。もっと上がってきていいはずなんだ」

「恐れながら申し上げます」

「うん?」

「考え得る可能性は二つ。一つ見つかっていないこと」

「見つかってない?」

「時間がかかるもの――例えば住んでしばらくたっての人間に関わるものとか。あるいはこの先ご主人様が発展させるものとか」

「なるほど、今はまだ、って事だね」


 頷くアメリア。


「もう一つは?」

「庶民ですから」


 私もそうだから分かる、という、副音声が聞こえた気がした。


「いいものを見つかったらひとりじめするために隠したがるものです」

「なるほど」


 そういうものなのか。

 でもアメリアの副音声が聞こえて、彼女がはっきりと自信持って断言した以上そういうものなのかもしれない。


 私は更に考え込んだ。


「見つかったものを取り上げないってお触れを出せばみんな報告するかな」

「……ナイスだアンジェ」

「するんですかアレク様」


 意外そうな顔をするアンジェ。


「うん、お触れ()出す。アメリア」

「はい」

「鉄の精錬と、糸の色の染め方を教えるから、代表者や希望者はこっちに来てと伝えて。見つかったものの効率的な活用法を教えるから、というお触れも」

「わかりました」


 アメリアは頷いて、他のメイドと一緒にテントを出た。


「あっ、そっか……」


 アンジェはハッとして、その直後に恥じ入った表情でうつむく。


「アレク様は罰じゃなくて、ご褒美を与える方針ですもんね……」


 その事をわすれて「取り上げる」といった事を恥じ入った様子だ。


「気にしないでアンジェ。それよりも『お触れ』がすごいヒントになった。ありがとう」


 私にお礼を言われて、アンジェはますます複雑そうな顔をした。


     ☆


 翌日、今日もテントの中で執務をした。


 領主の館を建てるのは造作も無いことだが、民衆が落ち着くまで私が土地を取りに行くのはどうなのかと、実際エリザがここをどうするつもりなのかもう一度聞かなきゃって思っている。

 だから、館とか屋敷とかは後回しにして、テントで執務を続けていた。


 その中で、アメリアは昨日と同じように報告してきた。


「以上が、昨日お触れを出した後に報告してきた分です」

「うん、その人達には三日……ううん、一ヶ月後に教えるっていっといて。表向きは順番待ちって事で」

「かしこまりました」


 命令を受けて、それを伝達しにテントから出て行くアメリア。


 二人っきりになったところで、アンジェがパン、と笑顔で手を合わせる。


「そっか、こうすればこれからみんな隠さないで最初に報告するようになるんですね」

「え?」

「え?」


 私が聞き返すと、アンジェはつられてきょとんとなった。


「そういう事じゃないんですかアレク様」

「ああそっか、そっちもそうだよね」

「そっちも……もっと何かあるんですか?」

「うん、ぶっちゃけると、まだ少ないって思うんだ」


 私はマリから受け取った、昨日と今日の分の「報告」をまとめたものを見た。


「まだ少ないんですか」

「満足してる人がいるんだ」

「満足」

「僕についてきて、運命のくじを引いたからこの先はもう安泰だ、ってことで辿り着いた場所で満足して何もしなくなる人」

「なるほど」

「そういう人達に、『辿り着いても終わりじゃないよ、もっと頑張ればもっと生活が楽になるよ』ってメッセージ。これでみんな『早く探して早めに報告しよう』ってなるでしょ」

「なりますか?」

「なると思う。だって、同じ運命を引いたのに、周りが自分よりもいい暮らしををしてたらね。その原因が報告したから、ってなればね」

「なるほど!」


 とにかく動かそう。


 ひな鳥の様に、口を開けてればえさがもらえるって思う人達も一定数いるから、そういう人達もちゃんと働く――自発的に働く様な流れを作ろう。

 そのためにはもう一つ、いや二つ何かが必要かな。


 それをどうするのか、って考えていると。


「えへへ……」


 アンジェが、嬉しそうに私のそばで微笑んでいた。


「どうしたのアンジェ」

「アレク様って、やっぱり素敵だなって思いました」


 そう話したアンジェは、ますます嬉しそうに顔を綻ばせたのだった。

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