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15.善人、善人に思いをはせる

 延々と下に続く階段を降りていた。

 台座も支えもなくて、まるで空中に浮いているような階段。


「……」


 一緒に降りてきてるアンジェが不安そうに下を見ながら、私の袖をぎゅっと掴んだ。


「大丈夫だよアンジェ。僕がそばにいるから」

「――はい!」


 魔法の言葉でもないが、この一言でアンジェから恐怖が消えた。

 私の袖に掴んだままなのは変わらないが、それは恐怖から逃れると言うより、私とスキンシップを図りたい、という気持ちだけになった。


 安堵したアンジェと一緒に更に降りる。

 私たちの前方にあの人魚がいた。


 人魚は玉を抱えたまま、魚の下半身で器用に階段をおりた。

 その階段、永遠に続くのかと思いはじめた頃、終点が見えた。


 長々と降りてきたそこは、シルバームーンの「霊地」を連想させるような、清浄にして神秘的な空気が漂う空間だった。


「わあ……」


 普通ではないが、悪意や害意と言ったものがないからか、アンジェは純粋な興味だけであたりを見回した。


 そんな中、人魚は玉を空間の中心にある台座に乗せた。


 玉が――光った。

 一際脈打って、光を放った。


 すると空気が更に変わった、濃くなった。


 さっきまででも静謐だったのが、性質はそのままに、より強くなっていった。


「これは?」

「主は喜んでおられるのです。ここは玉座、主は数百年ぶりに帰るべき場所に戻って来られたことがわかったのだ。例え属性変化とやらで、元に戻るまでのわずかな間だとしても」

「なるほど」


 やっぱりシルバームーンの「霊地」と似たような系統の物なんだな。

 つまりは戻せて良かった。成り行きだったが、私はそれが出来て良かったと思った。


「改めて礼を言う、人間の王よ」

「僕は王じゃないよ」

「? あれだけの民衆を率いておいて王ではない、と?」


 人魚ははっきりと不思議がった。

 が、それも一瞬だけの事。


 私が王なのかどうかは興味が無いらしく、また台座に乗った玉――彼女の主の方に視線を向けた。


「あるべき場所に戻ってこられた主、あと1000年もすれば復活なさるだろう」

「そんなに掛かるの?」

「人間の尺度ではそうだろう」

「そっか」


 きっととても長生きの種族なんだろうな。

 あるいは神の一族?


 何となく分かってきたことだが、あの創造神は他の神を排除するクセがある。


 この人魚、そしてこの玉。

 神だと思えば1000年という尺度で話をするのも分かろうという者だ。


 同時に、それはありがたい事でもある。


「ねえ、そういうことなら、それまでの1000年間、この土地を僕たちに貸してくれないかな」

「土地を?」

「うん、あの民衆を住まわせる土地」

「それは……」

「代わりに守ってあげるよ、あの創造神から」

「……だめだ」


 人魚はすこし迷った後、はっきりと拒絶した。


「どうして?」

「お前の守りを借りるわけには行かない。お前は人間だ。100年もすればいなくなる。100年でいなくある相手を依存するのは危険だ。お前がいなくなった後元の属性に戻った主はすぐにやられる」

「それだったら実働は君がすればいい」

「無理だ」

「聞くけど、例えばあの神罰を100だとしたら、君の力はどれくらい? どこまでなら防げる?」


 聞くと、人魚は顔をゆがめて。


「0.1……1000で1なら」

「そっか」


 かなりの力の差があるのか。


「分かっただろ? 私では――」

「むしろちょうどいい」

「なに?」


 人魚はむっとした。

 主を守るのに力不足な事を「ちょうどいい」って言われて怒っている。


「ちょっとここの大地の力を借りるよ」


 私はそう言って、賢者の剣を抜いて、地面に突き立てた。


「どうするんですかアレク様」

「僕は何回もあれにやられてきたよね」

「はい! あっううん! アレク様はいつも勝ってます!」


 意気込んで自分の直前の言葉を否定するアンジェ。

 そういう「やられてきた」じゃないんだが、今はいい。


「何回もやり合ったけど、その度に全力同士のぶつかり合いだと、やっぱり疲れるんだよね」

「……わあ」

「どうしたのアンジェ」

「あんなすごいのが『疲れる』くらいの話なんだぁ……すごい……」


 眼をきらきらさせるアンジェ。


「疲れるのはやっぱり嫌だから、疲れない方法は無いかってずっと考えてたんだ。それが――これさ」


 ヒヒイロカネの刀身を通して魔法陣を広げて、結界を張った。


 プラウの結界をベースに、更に発展させた物。

 無敵性はなく、場合によっては敵にも有利になる――というか私相手なら敵が有利になる。


 しかし、その性質がかえって今は有効。

 そんな結界。


「な、何をした」

「新しい魔法ですか」


 これまでの流れで、アンジェは素早く察した。


「うん、魔法と言うよりは結界だね」

「効果はなんですか? 無敵ですか?」

「そうじゃないよ」


 私は賢者の剣を地面から抜いて、思いっきり――全力でアンジェを切った。


「――っ!」


 驚愕する人魚、しかし動じないアンジェ。

 もちろんアンジェでは避けられない速度だが、やった後もアンジェは疑問にすら思うことなく立っていた。


 私を信用しきっていると言うことだ。


「これが効果なんですか?」

「一言で言えば――大ダメージ無効かな。ある程度以上の力は全部無効化しちゃう、空間の中にいる敵味方関係なくね」


 私は賢者の剣を背中に背負いなおして、魔法で台座を作った。

 そこに肘を掛けて、アンジェに言う。


「腕相撲すればわかるよ」

「はい――あっ」


 声を上げるアンジェ。

 彼女を誘った腕相撲はまったくの互角だった。


「アレク様、本気出してますよね」

「もちろん。僕が本気出しても上限以上の力はカットされる。この中にいる限り敵味方――全員が、僕とアンジェも同じ強さになるって訳だ」

「なるほど。だったら神罰がいくら来ても大丈夫ですね!」

「うん――ということだ」


 アンジェとの種明かしが終わって、視線を再び人魚に向ける。


 彼女はまたまたきょとんとしていたが。


「これなら君が――ううん、誰でもあの創造神から君の主を守れるよ」

「……あっ」

「ちなみに結界を変えるか壊すかするのは結界以上の力が必要だから、実質不可能だよ」

「あっ……ありがとう!」


 状況を理解した人魚は、出会ってからで一番の笑顔でお礼を言った。


「と言うことで――この土地を一千年の間貸してくれないかな」

「……わかった!」


 すこし何か考えた後、主である玉をちらっと見た後。


 彼女は快く快諾してくれた。


 そっか。

 でも、考えればそうだ。


 創造神に狙われてるし。

 危険さえなければ、彼女の主はこういうのを快く受け入れるくらいのいい人なんだろうなあ。


 私は、いつか会ってみたいと、ちょっと思ったのだった。

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