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14.善人、先読みして耐性をつける

 ちらっと人魚を見る、まだ起きそうにない。

 せっかくだし、アンジェにもう一つ教えておくか。


「アンジェは属性の耐性が強くなっていくと、どうなるって知ってる?」

「属性の耐性ですか? 無効化します」


 アンジェはまったく躊躇することなく答えた。


「うん、無効化。アンジェがカラミティ相手に長年頑張ってきたもんね」

「はい、いつかカラミティ様の治癒耐性を上回って見せます!」


 意気込むアンジェ。

 帝国の守護竜カラミティ。

 その肉体は高い「対治癒耐性」があり、並の治癒魔法は徹らずはねのけられてしまう。


 故に、アンジェは属性耐性の行き着く先というのをよく知っている。

 もちろんカラミティのそれは無効化まで行かないから、アンジェも頑張れるのだが――それは別の話だ。


「でも、無効化の上に何かがある気がしない?」

「何か、ですか?」

「うん、何か。無効化の更に向こう(、、、、、)に」

「――っ!」


 息を飲むアンジェ。

 最初は訳が分からないって顔できょとんとしていたのだが、私が「更に向こうに」と発言するとハッとした。


 ここ最近の、私のマイブームと言ってもいいことだ。

 技術や知識、賢者の剣を持って全て知っているからこそ、「全知」の更に向こうを目指すようになった。


 というよりは「発展」かな。


 それを知っている、そして指摘されたアンジェは真剣に考えた。

 考えた、が。


「ごめんなさいアレク様……わかりません」

「大丈夫。じゃあ実演してみよっか」

「え? も、もうできるんですか?」


 申し訳なさそうな表情から一変、目を見開き驚くアンジェ。


 私はにこりと微笑み返して、周りを見回す。

 すると、腰くらいの高さまで生えてる草に、雫程度の毒が残っているのが見えた。


「アンジェ、その草についてる雫を僕の腕に垂らしてみて。自分は触らないように気を付けてね」

「は、はい」


 アンジェは不思議がりながらも、それでも私の言葉に従った。

 草を丁寧に摘んで、付着してる毒の雫を私が袖をめくった腕に垂らした。


 すると毒が肌に触れた途端――光った。

 光を放って、まるで体の中に吸い込まれるように。


 それを見たアンジェは。


「……治癒?」


 治癒魔法が得意なアンジェは、一目で起きてる事を理解した。


「そう、治癒。回復だね、現象は。属性耐性がとことんまで行くと、受けると回復するんだ。吸収、と似てるね」

「そうなんですね……」


 アンジェは感嘆した。

 これがどう作用するか分からないが、アンジェは一つのジャンル――治癒をそろそろ極めようかというレベルまで来てる。


 これをあらかじめ教えておけば何かが生まれるかもしれない。


 アンジェの更なる成長に思いをはせつつ――。


「貴様達!」


 突然、怒鳴り声が私とアンジェの間に割り込んできた。

 人魚だ。


 さっきまで意識不明だった人魚が起き上がってて、私達に向かって怒鳴っている。


「あっ、あまり大声を出すとお体に――」

「黙れ! 貴様たち、今すぐここから出て行け。ここは――ああっ!」


 怒鳴った直後に、人魚は私を指さして違う意味で大声をだした。

 うん、体は戻ってるし、そこまでの声を出せればもう大丈夫だね。


 その大丈夫になった人魚は私がずっと持っていた玉を指さして。


「そ、それをどこで! いやそんな事はどうでもいい! それをすぐに離せ、元の場所に戻せ!」

「大丈夫、落ち着いて」

「いいから戻せ――ああっ!」


 悲鳴を上げた。

 天を仰ぎ見る人魚。

 うごめく天の空模様、それを見た人魚の表情が絶望に染まっていく。


「早くそれを――」


 言うやいなや、空から雷が落ちてきた。

 覚えのある攻撃だ。


 ――天罰。


 一時私がくらい続けていた、あの創造神の天罰だ。


 それが一直線に落ちてきた。


 私は持っている玉を軽く、真上に放り投げた。


「貴様ああああ!?」


 驚愕する人魚。

 真上に放られた玉に、天罰の雷が直撃した。


「ああ、ああぁぁぁ……わ、我が主が……」


 がっくり、絶望のままうなだれる人魚。


 あの玉が彼女の主か。


「貴様なんて事をしてくれたんだ! 私が! 私が数百年間、慎重に慎重に守ってきた主の血筋を!」


 絶望したかと思えば、今度は私につかみかかってきた。


「なるほど、やっぱり卵か」

「貴様知ってて!」

「うん、触れた瞬間分かった。外の薄皮一枚を毒に変化してカモフラージュにしたんだよね。毒の玉、それが毒沼の中にあれば見つからない、と」

「したり顔で説明するな! 貴様のせいで!」

「説明するのは、それをする余裕があるからだよ」

「え?」


 きょとんとする人魚。

 きょとん、と言うことは怒りがひとまずどこかへいって、落ち着いたと言う意味でもある。


 そんな彼女が見えるように、すぅ、と空を指した。


 彼女は振り向き、私が指した方角を見あげた。


「主!?」


 そこにあの玉があった。

 玉は空に浮かんだまま、天罰の雷を受け続けていた。


 ただ受け続けてるだけじゃない。

 光が発生して、それが取り込まれる――。


「アレク様! 耐性ですね!」

「さすがアンジェ。そう、さっきのと同じ。あの玉の耐性を上げたんだ」

「たい、せい?」


 一方で、よく分からない人魚は唖然とした。


「この土地を浄化する時にすぐに分かったんだ。感じたあの神の力は、例の創造神の物だってね。だから玉にそういう細工をしておいた」

「えっと、と言うことは……もうあの玉はこれからずっと大丈夫なんですね!」

「――っ!」


 アンジェの言葉に反応して、ハッとする人魚。

 私を見る目には驚きが残ってたが、その中に、確実に感謝の気持ちが少しずつ浮かび上がってきた。

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