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11.善人、才能を引きつけてしまう

「まったく、医者の不養生って笑い話にならないよ」


 小さめのテントの中、医者が青い顔で寝込んでいた。

 見舞いに来た私に医者は肘をついて起き上がろうとするが。


「起きなくて良いから。というか――」


 医者のそばで看病をしている女性――奥さんらしい人に向かって。


「こういう人?」

「はい、こういう人間なのです。医者気質と言ってしまえばそれまでなのですが……」

「じゃあ縛り付けといて。それから今後は僕には一切礼法とかなくていいから」


 最後は貴族・国父として、命令口調で言い放った。

 それでも医者の男はなにか言おうとしたが、彼の奥さんは軽く頭を下げて。


「ありがとうございます。ほら、国父様の命令に逆らうの?」


 といって、医者を黙らせた。


 民衆の行列に寄生虫の伝染病が大流行して、それを忙殺された医者が倒れたって事で見舞いに来た私。

 まさか薬が効かなくて? あるいは寄生虫に変異が?

 とか色々思ってやってきたら、そこにいたのは誰の目にもはっきりと分かる、過労で倒れた医者の姿だった。


 私は拍子抜けした。


「あまり長居すると却って良くないね」

「申し訳ありません。ちゃんと休ませますから」


 奥さんはそういって、ペチッと夫の頭を軽くはたいた。

 二人の力関係が垣間見える、これならまかせても大丈夫だろう。


 私はそう思って、食糧袋に手を入れて、作った豆粒大の物を取り出して、奥さんに渡した。


「これはなんですか?」

「名前はまだつけてないけど、一言で言えば『すごく消化が良くて栄養のある食べ物』だよ」

「わかりました。体が回復してきたら食べさせます」

「うん」


 医者の奥さんだからか、それとも元々賢い(ひと)だからか。

 彼女は私が渡した物の意味を理解して、一瞬で最高の使いどころを答えた。


 そんな医者夫婦を置いて、私はテントを出た。

 外は民衆が進行している。


 十万人の列というのは、先頭と最後尾で日単位で離れている物で、病気で倒れてテントで休んでても行列からは「置いて行かれない」ものだ。


 そんな行列をなんとなしに眺めていると。


「あれはダメなタイプの善人ね」

「エリザ」


 横に並んできたエリザ。

 格好はいつものお忍びのものだった。


「追いついてきたの?」

「歴史的な旅だもの、一緒にいられる時はなるべくね。

「なるほど。それよりもダメなタイプの善人って? 善人は良いことじゃないの?」

「それは次の人生。善人だったら最後の査定でランク高くされて、次の人生は報われるのは確実」

「うん」

「でも、いい人だからって、今世で報われるとは限らないでしょ」

「それは……そうだね」


 なんでだろう、と何となく考える。

 答えが出る前に、エリザが説明してくれた。


「あの手のは、自分の限界を超えて無条件に与えるから、悪い人間がたかってくる物なのよ」

「なるほど」

「それに比べればアレクは違う。出せる分だけ出しつつ、一方で自分の回復や成長をちゃんとする」

「……うん、そうだね」

「そうすると枯れない、そして利益目的じゃなくて、自分も成長できればっていう人間が集まってくる。あなたの周りにそういう者が次々と集まってるはずよ」

「なるほど、たしかに」


 言われてみればそうだ。

 私の周りには出来る人がたくさん集まっている。

 エリザの言うとおり、才能があって能力がある、そういう人間は少なくない。


「長々と理屈をこねたけど、一言でまとめられる話なのよ」

「一言?」

「人徳」


 エリザはにこりと微笑む。


「アレクの人徳が人を引き寄せてるのよ。目に見えないけど、地味にすごい事よ」

「てっきり生まれの、魂のランクのおかげだと思ってたよ」

「馬鹿ねアレクは」

「馬鹿かな」

「あなたの言葉を借りれば皇帝はSランク」

「うん」

「Sランクで好循環が常にうまれるのなら、生まれ変わるときFになる暴君は生まれないはずよ」

「なるほど」

「あなたの能力は前世の善行、でも、あなたの周りに人が集まってるのはあなたの人となりのなせるわざよ」


 エリザはそう言いながら、進行を続ける民衆を見た。


 言外の声が聞こえる。


 人間が集まる。

 質だけじゃなく、量もそう。


 十万人の民衆は、私の人となりが集めたもの。

 エリザがそう言いたげなのが聞こえてきそうだ。


「それを言いに来たんだね」

「ちょっと違う」

「うん? どう違うの?」

「見に来たのよ」

「見に」

「これを、あなたのすごさを見に来たのよ」


 エリザはそう言い、民衆とそして私を。

 それを見る目が、次第にうっとりとなっていった。

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