表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/198

10.善人、新薬を開発する

「アレク様、ご報告が」


 夜、この日も野営していると、メイドのアメリアが私の所にやってきた。

 深刻そうな表情をしている、メイド長になって冷静さを身につけつつある彼女にしては珍しい表情だ。


「うん、なに?」

「実は、行列の中程に流行病が蔓延している疑いが」

「……なるほど」


 これもいつか来るとは思っていた。

 10万人もいれば、これほど大勢の人間がずっと固まっていれば、流行病とか伝染病とか、そういったものも時間の問題だと思っていた。


 だから私は慌てず、アメリアに聞き返した。


「どういう状況なの?」

「病人はある程度一箇所にまとめてます。医者もいますが、見たことのない症状とかで」

「なるほど……じゃあ案内して」

「――はい!」


 アメリアの案内で行列を引き返していった。


「アレクサンダー様ーー!」

「国父様!!」


 アメリアに案内されて引き返す道中、同じく野宿してる民衆から次々と歓声を送られた。

 その歓声は次第に強くなる。


 病人が集まってる、隔離された所に近づけばつくほど、歓声が大きくなる。


 やがて、行列から枝分かれしたかのような、数十メートル離れた大きなテントに連れてこられた。


「これはひどいね」


 テントの中は寝かされている病人がいっぱい、ざっと見渡すだけでも百人以上はいた。


「ああっ! これは国父様!」


 看病している中年の男が私とアメリアの所に駆け寄ってきた。


「あなたは?」

「レッド・オーシャン。医者をやっている者です」

「そっか。原因は把握しているの?」


 アメリアから報告を受けているけど、状況が変わってるかもしれないからもう一度聞いてみた。


「恥ずかしながら……」

「なるほど」


 やっぱり分からないままか。

 私は一番近くにいる病人を見つめた。

 病人は苦しそうに呻いたかと思えば、そばにあるお盆を掴んでそこに吐いた。


 吐きすぎてもはやはける物もなく、水すらはけずにただえずいているような有様だ。

 さらには下痢もしてるらしい。


 他の病人も同じ状況で、テントの中は阿鼻叫喚な有様だ。


「まずは原因をはっきりさせよう」

「国父様は医学の心得もおありなのですか?」


 中年の医者は驚いた。


「厳密には違うけど、まあ見てて」


 私は身をかがめて、苦しそうにしてる病人から髪の毛を一本抜いた。


「国父様! 触れるとうつる可能性が――」

「静かに、みていて下さい」


 私を止めようとする医者を、アメリアがそっと引き留めた。

 行動はやんわりと、だが、口調と表情は有無を言わさない強い物だ。


 気圧された医者、どうしていいのか分からず、結果的に動きが止まった。


 その間も私は行動を続けた。


 病人の髪の毛を使って、素材袋から引き出した必要素材を合わせて、病人のホムンクルスを作った。


 そして――比較。

 病人本人と、髪の毛をベースに作った、本人とまったく同じ(、、、、、、)肉体を比較した。


 ホムンクルスは本人の「基礎」だ。

 それに比べて本人は「余計な物」がある。


 比較して、その余計な物を――ホムンクルスに比べて増えてる(、、、、)物を突き止めた。


 病人の下腹部が光った。

 光にそっと手を当てると、光が私の手に乗り移った。


 やがて、光が収まって。


「なっ!」


 私の手のひらの中に残ったものをみて、医者が驚愕した。


「虫だったね」


 手のひらにあるのは虫、寄生虫だった。

 それがうじゃうじゃとうごめいている。


「お腹に寄生虫、って事は水かな、原因は」

「……」

「どう思う?」

「え? ああっ! そ、そうですね!」


 絶句していた医者、更に聞いてみると、彼はハッと我に返った。


「そうだと思います」

「うん、この虫なら――」


 現物が目の前にあるなら、対処は簡単だ。

 虫の名前と、その対処法を賢者の剣に聞く。


 この世界に存在しているありとあらゆる知識を持っている賢者の剣。

 すぐに虫の名前と、それを体から駆除するための薬の作り方の知識を私に教えてくれた。


「……」


 私は少し考えて、薬を作った。


 素材袋に手を入れて、必要な材料で薬を作る。


 次に手を出した時には、手のひらに豆粒大の丸薬がわしづかみしたぐらいに、数百個あった。


「これをみんなに飲ませて」

「分かりました! すぐにここにいる人達に飲ませます」

「ううん、みんなに」


 手をかざすと、アメリアが近づいてきた。

 そのアメリアに丸薬を全部手渡して、もう一度素材袋に手を入れて、同じ数の丸薬を作って取り出す。


 最初の分だけでも既にここにいる患者の数を上回る数だったのだが、そこから更に追加だ。


 私の言葉と、そして行動。

 それを見た医者が首をかしげた。


「みんな、ですか?」

「うん」


 もう一度アメリアに渡して、三回目の薬を作った。


「もちろん発病した人優先だけど、してない人にも呑ませて」

「虫への耐性をつけるわけですね」


 納得顔の医者、それは彼の医学の常識からの判断だろうけど。


「違うよ。この薬、体の中にこの虫がいなければ効果を発揮しないで、体の中に残るだけ。それで虫が入ってきたら効果を発揮する」

「えっ?」


 驚く医者、ぽかーん、って顔をする。


「残るとは? 消化や排泄は?」

「しないよ」

「そ、そんな薬聞いたことが……」


 唖然とする医者。


「今作った物だからね」


 最近、私の考えに少し変化があった。


 あらゆる知識をもってる賢者の剣、しかしそれは「今ある知識」だ。

 アレクの光――あの街灯の開発以降、私は「もう一歩先へ」と思うようになった。


 この薬もそう。

 今治すだけじゃない、将来も治す。


 そう思って作った薬だ。


「さあ、どんどん作るから、みんなに配って来て」

「は、はい!」


 自分の医学の先を行かれた医者は、尊敬の眼をして頷いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ