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03.善人、伝説の魔法を復活させる

 先生達がざわざわする。

 気になったから、校長のイーサンに聞いてみた。


「どうしてみんな驚いてるの?」

「ええ、まあ。副帝殿下の魔力がこれほど強大だとは予想外だったもので。おそらくこの学校のどの教師よりも……いえ、帝国中の魔法学校をすべて探しても殿下以上の人はおりますまい」

「それで驚いてたんだ」


 説明を聞いて納得した。

 私の魔力は父上曰く「史上最強」らしい。生まれ変わる前の転生も「SSSランク」とか「本当は神になれる」とか言ってた。

 その事に驚いているというのなら、納得だ。


 ついでにひらめいた。

 せっかくだし、これを利用しよう。

 エリザのために。


 私は意識して真顔になって、イーサンと教師達を見て、言った。


「僕が名誉校長に任ぜられたのは皇帝陛下の勅命。しかし何故そうなったのかわかる?」

「え? いえそれは……」


 イーサンは言葉に詰まった、ほかの教師達は複雑そうな顔をした。


「それはね、陛下のご慧眼だからだよ。子供だからという先入観なく、適材適所で僕をここに送ったってことだよ」


「「「おおおおお……」」」


 歓声に似た、感動の声が教師達の口から漏れた。

 一部の人が、思いをはせるような遠い目をする。


 もくろみは成功したみたいだ。

 上手くエリザの株を上げられたみたいだ。


 そんな中、イーサンがエリザに向ける尊敬の目を、そのまま私に(、、)向けながらきいてきた。


「副帝殿下に一つお願いしたい事がございますが……」

「なに? お願いって」

「時々で結構ですので、学校にお越し頂いて、実習の授業を受け持っては頂けないでしょうか?」

「僕が生徒達に教えるってこと? 名誉校長なのに?」

「はい! 教えていただいて――いえ、殿下の強大な魔力から繰り出される魔法を生で見るだけでも、生徒達にとって何にも勝る財産となるでしょう」

「なるほど」


 それは納得だ。

 若い内にいいもの、「本物」をその目でしっかり見ておくといいのは、イーサンの言うとおりだと思う。


「それに……」

「それに?」

「お恥ずかしい話、ここは帝国のお膝元なのに、ほかの魔法学校に比べて生徒が少ないのです」

「どうして?」

「ここだけなのです、実際にダンジョンに入って、戦闘実習がある魔法学校は。それはどうしても危険になりますので、敬遠されがちです。とは言え実習を無くすわけにもいきません」


 イーサンは苦虫をかみつぶした様な顔で言った。

 その口ぶり、校長のイーサンはここが皇帝の最後の砦の役割があるという事をしっかり理解してるみたいだ。


 たしかに、そういう時の為に、この魔法学校から実戦の実習を無くすわけにはいかない。


「副帝殿下がたまに授業を持って下されば生徒が集まります」

「それだけで集まるかな」

「集まります」


 イーサンは断言した。


「お恥ずかしい話ですが……私たったいま決めたのです。もし殿下が授業を持っていただけるのであれば、たった一人の孫をここに入学させようと」


 そう話すイーサン。

 お恥ずかしい話……というのはたった一人の孫だから危険な所には行かせないようにという親心、祖父心から来てるんだろう。

 それをひっくり返して、今ここにいれると決めた。


「殿下のお姿を拝見し、少しでも学べれば孫の一生の財産になるのは間違いありません」


「俺もだ、息子をここにいれる」

「私も娘を」

「弟が進路迷ってるけど、ここをすすめます」


 ほかの先生達も我先を争うように言った。

 さっきまでの驚いた目と違った目をしている。

 その目が一瞬父上とホーセンを彷彿とさせたがーー忘れることにした。


「わかった。でもそうなると一つ問題が」

「問題?」

「移動のことだよ。僕はずっと都にいるって訳じゃないから。実家の領地にもどるか、天領を任されるかもしれないんだ。どっちもここからは遠い。定期的に授業を持つのは……」

「殿下ほどの魔力なら飛行も可能では?」

「飛行」


 平坦なトーンでその言葉をつぶやく。

 そういえばそんな事は考えた事もなかった。


 飛行魔法は確かにある。

 魔力が高い人はそのまま飛べるし、ちょっと足りない人でもホウキとかの道具を補助に使えば飛べる。


 言われてみれば、距離が離れているなんて魔法で片付けられる事だった。


 私は肌身離さず持っている、あらゆる知識が入っている賢者の石に問いかけた。

 遠く離れた場所を簡単に行き来するための魔法。


 賢者の石はすぐに私の質問に応えてくれた。

 私は得た情報を頭の中で反芻、使う方法もシミュレート。

 それを一通りした後。


「飛行魔法であれば、馬車の倍の早さで――」

「ちょっと試しに行ってくる」

「――えっ?」


 イーサンやほかの教師達をおいて、私は魔法を使った。


 瞬間、体が空に向かって引っ張られる。

 まるで流星の逆で、空を切り裂いて飛んでいく。


 瞬く間に、思い浮かべた所にやってきた。


「アレク? ど、どこから入って来たの?」


 王宮、謁見の間。

 皇帝のエリザがいる場所だ。


「瞬間移動の魔法のテストだよ。エリザのところが一番思い浮かべやすかったから」

「わ、私の所が?」


 エリザの顔は火がついたかのように赤くなった。


 私は瞬間移動の効果に満足した。

 王宮から郊外の魔法学校、馬車で一時間以上はかかっていた距離が、ほんの十数秒でたどり着けた。


「ありがとう、そしてごめんね。いったん魔法学校の方にもどらないと」

「い、いいのよ。アレクなら……いつでも来たいときに来ていいの」

「ありがとう。じゃあまたね」


 何故か顔の赤いままのエリザに別れを告げて、もう一度瞬間移動魔法で魔法学校に戻った。

 十数秒で到着した。


 往復の道のり、合わせて馬車で三時間近い距離が一分足らずで行き来出来た。

 これなら、普段は離れたところにいても通勤は可能だ。


「で、殿下。今のは?」


 戻ってきた私に、イーサンはおそるおそる、って感じで聞いてきた。


「瞬間移動魔法だよ。試しに皇帝陛下のところに行ってきた。これがあれば授業は――」

「瞬間移動魔法!?」


 驚愕するイーサン、一斉にどよめき出す教師達。


「どうしたのいきなり?」

「しゅ、瞬間移動魔法と言えば遙か昔に失われたという伝説の魔法……殿下どうやって……」


 ……ああ、そっか。

 賢者の石はあらゆる知識を持ってる、それが失われた物であろうと、賢者の石は普通に持ってる。


 失われた伝説の魔法。


 そのフレーズが、私に教師達のどよめきを理解させた。


「「「すごい……」」」


 伝説の魔法を目の当たりにした教師達は、一様に尊敬の目を私に向けて来ていた。

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