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03.善人、夜を克服する

 屋敷の庭、花壇の前で私は花を摘んでいた。


 花を植えて、魔法で成長を促進して、成長してきたのを摘む。

 摘んだ後はまた新しく植えて、成長を促す――それを朝から延々と繰り返していた。


 目的は狙ったとおりの花を育てること。

 半日かけて、ようやく狙ったものが何輪か育てられた所で。


「アレク様、お客様ですーーあれ?」


 屋敷の方から小走りでやってきたアンジェが私のやってる事に気づいて、立ち止まって首をかしげた。


「何をしてらっしゃるんですかアレク様。花占いですか?」

「盛大な花占いだね。でも違うよ。この花を育てたかったんだ」


 狙って育てた花をアンジェに見せる。


「わあ……綺麗ですね」

「気に入った?」

「はい、すごく綺麗です」

「じゃあこれはアンジェにあげる」


 私はその花を摘んで、アンジェの耳にかけてあげた。


「あっ……」

「うん、よく似合ってるよアンジェ」

「ありがとうございます、アレク様……」


 アンジェは嬉しそうにはにかんだ。


「ところで、僕に何かようだったのかな」

「あっ、そうでした。アレク様にお客様です」

「誰かな?」

「ハウ、って人です」


     ☆


 屋敷の応接間、ハウがメイドに通された部屋にやってきた。


「お待たせ」

「おう」


 メイドが出したであろうケーキやお菓子をガツガツ食べながら、顔だけあげたハウ。

 おかわりしたであろう皿がいくつも積み上がっている所と、お茶には手をつけてない所を見ると。


「甘いもの、好きなの?」

「ああ」

「もっと持ってこさせようか」

「いや、とりあえずもう良い」


 ハウは最後のケーキを口の中に押し込んで、豪快にゴックンと音を立てて腹の中に呑み込んだ。


「ごっそさん」

「お粗末様。それで、今日はどんなご用?」

「物が出来たから持ってきた」

「へえ、どんなのかな」


 物、とは言うまでもなくハウに研究・開発を頼んでいる、ソーラーフラワーの魔力を有効活用した道具のことだ。


 どんな物を作ってくるのかわくわくした。


 ハウは足元の小包をとって、テーブルの上に置いてそれを開いた。

 丸い、ガラスの玉のような物が現われた。


 ガラスの玉は台に乗せられていて、台にはらせん状のくぼみが掘られている。


「これはどういう物? 占いの水晶玉?」

「そんなつまらん物をつくるかよ。部屋を暗くしてくれ」

「わかった。お願い」


 私は影の中から令嬢メイドを二人召喚。

 メイド達は応接間のカーテンを全部降ろしてから、また影の中に戻った。


 メイドの召喚を見たハウは「ふーん」とそれなりに反応はあったが、大して驚きも興味ももたなかった。


 一方で、カーテンを降ろしたことで部屋の中が暗くなって。


「これでいい?」

「とりあえず充分だ」


 ハウはそういって、懐から小瓶を取り出した。

 小瓶の中には液体が入っている。


「ソーラーフラワーの魔力だね」

「ああ、これをここにたらすと――」


 ハウは魔力の雫をガラス玉の台、らせん状の溝に垂らした。

 雫は螺旋の溝に沿ってぐるっと何周も回って、徐々にまん中に近づいていき。

 やがてガラスの玉の真下に入ると――玉がひかった。


 透明で中に何もなかったガラスの玉が光を放つ。

 暗くなった部屋の中が一気に明るくなる。


 まるで昼間にカーテンを全開にした位の明るさだ。


「これがお前さんがくれた魔力の雫をつかった試作第一号だ。これがあれば夜でも昼間並みに明るくなる」

「すごいね」

「しかもこいつは魔力だからな、ろうとか脂とかと違って、匂いもしないしすすで部屋も汚れない」

「いいね。そして何よりこの溝がいい」

「溝? ああ、これでそそいだ分をゆっくり使う様に出来る――」

「ううん、それよりもっとすごいのが出来るよ」

「ん?」

「水道って知ってるよね」

「ああ、貴族とか金持ちとかの屋敷にあるアレだろ?」

「うん、水を安定して供給出来る装置。あれと同じ、例えば花畑から管を引いて、こういう装置に直結させたら、魔力の補給もいらなくなる、って思わない」

「――っ!」


 ハウは目を大きく見開き、愕然とした。


「たしかに、それだともっと便利になる」


 直後にうつむき、手にあごをやって、ぶつぶついう。


「そうか、水道の技術を流用できるのか。むぅ、魔力が液体化できるって見た時点で思いつくべきだった!」


 ぶつぶついうハウに、私は尋ねる。


「どう? いけそうかな」

「ああ、いける。……いややっぱりダメだ」

「うん? どうして?」

「こいつはソーラーフラワーで作ってんだろ」


 小瓶を持ち上げて私に聞く、私は頷いた。


「そうだよ」

「ソーラーフラワーは昼間しか雫を生産しない。この照明はむしろ夜に使われるようになるはずだから、そういうふうに供給を自動化しても恩恵がすくない」

「その事なら丁度今解決したばかりだよ」

「なに?」


 私は懐から一輪の花をとりだした。


 今朝から植えては摘んで、成長を加速させて品種改良(、、、、)をした、ソーラーフラワーの親戚の花。


「それは?」

「今日作ったばかり。名前はないけど、うん、普通にムーンフラワーでいいかな」

「ムーンフラワー……まさか!」

「うん」


 私は静かにうなずく。


「こっちは月光で魔力の雫を生産する。ソーラーフラワーと組み合わせれば、一日中ノンストップで魔力を供給出来るようにできるよ」

「……すげえ」


 ハウは、開いた口が塞がらなかった。

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