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01.善人、二世代先の技術に導く

「ようボウズ、ちょっといいかね」


 昼下がりの庭、エリザとそれに懐くアンジェの二人の姿を複雑な気分で眺めていたところに、珍しく一人でミラーが話しかけてきた。


 顔はますますシワが増えたが、その奥にある眼光は鋭く、まだまだかくしゃくとしている老人だ。

 そんなミラーに微笑み返す。


「もちろん。なにかようなの?」

「ボウズに紹介したい男がいてな」

「僕に紹介?」

「うむ、わしの領地に住んでいる男じゃが、話してる事がわしにはわからん。わしよりもボウズ向きの話じゃ」

「なるほど」

「といっても、この世の全ての事はボウズ向きじゃがな」


 ミラーはそういって、かっかっかと口を大きく開いて笑った。

 なにやら真面目な話だなと思い切り、すぐにまたそうくる。


 ミラーもやっぱり「父上と愉快な仲間達」の一員だなと改めて思う。


「ほい、ちょっとまってろい」


 あっ、もう連れてきてるんだ。

 ミラーはそう言って一旦立ち去った。


「何を話してたの?」

「エリザ、それにアンジェ」


 離れた所で雑談してた二人がやってきた。


「ミラーがね、僕に紹介したい人がいるって」

「珍しいわね、あの男がそんなまともな事をするなんて」

「どういう人なんですか、アレク様」

「それは僕も聞いてない。今連れてくるみたいだから、会えば分かるんじゃないかな」

「私達もいていい?」

「……もちろん」


 同意してやると、エリザとアンジェは私の背後に数メートル、会話が聞き取れる程度の距離に離れた。

 その間、いやそれよりも前から二人は手を繋いだまま。

 アンジェが「お姉様」と呼び、義兄弟ならぬ義姉妹な二人は、仲がよくて本当の姉妹にも見える。


 願わくばずっと仲のよいままで――と思っていると、ミラーが一人の男を連れて来た。


 三十代にさしかかったくらいだろうか。

 メガネを掛けているが、そのメガネはなんだかよれている。

 服もヨレヨレで、痩せ体型でなんだか頼りなさそうな印象を受ける人だ。


「こ、国父殿下にお目通りかなって――」

「いいよ、そういうのは。ここは公的な場じゃない、僕の家、プライベートな空間だから」


 膝をついて作法にのっとって礼をしようとする男を止めた。


「は、はははい! 寛大な心に感謝いたします、はい」

「それよりも名乗ったらどうじゃ?」


 男を連れて来たミラーが促した。


「ああっ、これは失礼を。私はクラウド・ホワイト。魔術師でございます」

「魔術師か。僕に何の用かな」

「こ、ここ国父殿下に援助をして欲しいのです、はい」

「援助?」

「こいつはのう、面白い研究をしておるのじゃ」

「へえ」


 興味深いな、という目を向けると、クラウドは説明を始めた。


「こ、こ国父殿下は魔力ストックの事をご存じですか」

「聞いた事はあるよ。魔力を文字通り人から取り出して貯蔵して、使いたい時に使うんだよね」


 ムパパト式とも関わりの深いそれ。

 私の行動範囲内では主に魔法学校がそれを使っている。


 帝国皇帝のいざという時の逃げ込み先として、武器や食糧と同じくらいの重要度で、魔力も貯蔵されている。


「は、はい。それで私考えたのです、魔力と同じ生体エネルギー、人間の生命力も取り出して貯蔵できるのではないか、と」

「ふむ」

「人体は健康な時とそうではない時、生命力に差がある。しかし弱まっている時も生命が維持できる。そこから逆に推測するに、健康な時は生命力を無駄に、言い換えれば非効率に使っていると思われる」


 頷きつつ、おもしろいと思いはじめた。

 クラウドという男、最初はオロオロして頼りなかったのに、説明を開始した途端ハキハキと喋るようになった。


「また、遭難した時はじっとして、体力温存、などという話もあります。つまり、生命力もある程度使う量をコントロール出来る。ならばそれは魔力と同じように取り出せると言うこと。私はその研究をしております。体力が普段からストックできれば、例えば魔法の効かない、体力との消耗戦になる大病の時はどんな薬よりも効くはずです」

「と言うわけじゃ。わしにはよくわからんが、こいつが領主のわしにパトロンになれとせまってきてのう」

「なるほど、それで僕に代わりにやれってことだね」

「やらんでもよいぞ? わしは金出す価値があるかどうか判断しかねるが、ボウズはわかるじゃろ」

「うん、わかるね」


 私はそういって、手を上向きにして差し出した。

 しばらくして、私の手のひらからぼう、と光る球が浮かび上がった。


 今までやったどのこととも違う、初めてだす球。


「アレク、それはなに?」


 背後からエリザが聞いてきた。


「僕の生命エネルギー、つまり体力のストックだね」

「なあっ!」


 クラウドが驚愕した。


「やろうとしてるのはこういうことでしょ」

「ど、どうして……もう実現していたというのですか……」


 実現というか、失伝というか。

 賢者の剣から得た知識だと、魔力のストックと同じように、これは数百年前に一度は確立した技だった。


 しかしいろいろあって魔力ストックの技術だけが残った。


「そんな……」


 それを再現してみせると、クラウドはがっくりうなだれた。


「革新的な発想だと思っていたのに……国父殿下が既に先にいっていたなんて……」


 クラウドは見てて可哀想な位肩をおとした。


「さて、研究費っていうのはどれくらい必要なものなの?」

「「「「「え?」」」」


 クラウドだけで無く、エリザ、アンジェ、ミラー。

 その場にいた全員が声を揃えて驚いた。


「金を出すのかボウズ」

「うん」

「しかし既にボウズはそれが出来る、なぜ金を」

「この技術の先にはね、命のストック、という理論が完成されてるんだ」

「命のストックじゃと?」

「うん、この玉――実際はこれの先の技法なんだけど、これをストックしておくと、ケガとかで死んだ時にこれが身替わりになってくれるんだ。自分の命だからね」

「そんな事ができるのか?」

「理論上は、ね。クラウド、今の話を聞いてどう思う?」

「…………可能だと思います。難しいと言う気もしますが」

「うん、だろうね。それをやってみる気はない?」

「――やります!」


 クラウドが食いついてきた。


「ふむ、専門的な話はわしにはわからんが、要するに」


 ミラーはあごを摘まんで、首をかしげながら聞いてきた。


「ボウズは、一つ先を行ってて、二つ先の道を示してやった、と言う事じゃな」

「そうだね、そういうことだね」

「わあ、さすがアレク様!」

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