13.善人、素材から最高だった
「うーん、後で大工さん呼んでこれを消させないと」
「がっはっは、このままにしとけよ」
ホーセンが豪快に笑いながら言った。
「義弟のここが伸びた時、その時のも書いて並べて比較しようぜ」
「柱の背比べの跡じゃないんだから」
私は苦笑いした。
「それじゃな。伸びたら教えろよ義弟」
ホーセンはまたガハハと笑いながら去っていった。
教えるも何も、査定するのはホーセンなんだけどな。
まあ、そんな性格も彼の魅力の一つだ。
「よし、行こうか」
「はい!」
リリーを連れて再び歩き出す。
今度は途中何者にも邪魔されずに、私の書斎に到着した。
中に入って、椅子に座るやいなや、コンコンとノックをされた。
「どうぞー」
応じると、リリーがドアから離れて道をあけて、そのドアから二人の女が現われた。
一人は男装を解いた、いつも通りのエリザ。
私服お忍びモードのエリザだ。
耳にあるオリハルコンのイヤリングが綺麗な輝きを放っている。
もう一人は姫ドレスを纏ったミア、ミアベーラだった。
「お待たせ」
「私に用があると聞いた、神よ」
ミアは私を神と呼んだ。
出会った時、彼女達一族の土地を取り返した直後にそう呼ばれた。
その時はこそばゆくてやめさせたのだが、その後私が神格者になったことを知ってからは、誰はばかることなく私を「神よ」と呼ぶようになった。
そんなミア。
また、綺麗になっていた。
「うん、ちょっとミアに頼みたい事があるんだ」
「何でも言ってくれ」
「リリー、彼女はミアベーラ。こっちはリリーだ」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく」
ものすごい美人に気後れするリリー、一方で素っ気ないミア。
ミアの方はいつもこうで、私以外の人間には素っ気ない。
「えっと……こちらの方は?」
ミアの美しさに気後れするリリー。
少しでも話題と意識をそらすために見つけたのがエリザだった。
男装を解いたエリザ、変装技術が完璧だっただけに、リリーには初対面みたいな感じになった。
だからそれを聞いたのだが。
「皇帝だ」
ミアがあっけらかんと答えた。
「……えええええ!?」
盛大に驚くリリー。
私が正体を明かした時と同じ反応だ。
「こ、皇帝様なのですか?」
「かしこまらなくていいのよ。この屋敷にいるうちはお忍びだから」
「は、はあ……」
リリーは視線をさまよわせて、私の所に止まった。
皇帝という存在に怯えるリリー、救いの目を向けてきた。
エリザの事は徐々に慣れてもらう事にして、今はまず話を戻そう。
「リリー、キミにはしばらくの間ミアと一緒に行動してほしい」
「はい、何をすればいいんですか?」
「綺麗になって」
「え?」
「ミア」
「何だろうか、神よ」
「彼女に色々教えてあげて。そして出来ることなら一緒に綺麗になっていって」
「神の言葉なら従う」
ミアは何も聞かず即答した。
私に対する感情がもはや信仰の域に達しているミアらしい反応だ。
一方で、リリーは。
「あの! 私は恩返しを」
「その下準備なのよ」
エリザが代わりに答えた。
「下準備?」
「アレクは国父、そして副帝、ついでに男爵。つまり貴族中の貴族。だから他の貴族と会うことが多い」
エリザはそう言って、目で二人に「ここまでは分かった?」と聞いた。
彼女の視線に促されて、リリーはおどおどしながら頷く。
「あの手の貴族の男はね、美女を侍らすのがステータスだと思ってるの、実に俗物的だけどね」
エリザは肩をすくめた。
そういえば最近、彼女の口から「俗物」って言葉をよく聞くようになった。
「貴族同士で会う時、より美女を連れてる方がうらやましがられるのよ」
「はあ……」
まだよく分かっていないリリー、エリザが更に続ける。
「騎士が戦場で必要なのは剣と盾。それと同じ、貴族が社交の場で必要なのは美女なの」
そういって、リリーに近づき。
「どんな貴族もうらやむくらいの美女になって、アレクの武器になりなさいって事なのよ」
「――はい!」
話を理解したリリー、さっきまでの「恩返しをさせてもらえなかったらどうしよう」な不安が一気に吹っ飛んだようだ。
いい事だ。
「神よ、それは本当なのか?」
ミアが疑問を呈した。
私の言葉じゃなく、エリザが説明したから疑問を感じたようだ。
「うん。せっかくだし試してみようか」
「どうすればいい」
「ミア、とリリーは見るだけ。せっかくだから効果を体感した方がいいよね」
「わかった」
「わかりました!」
「エリザ。悪いけど、協力してくれないかな」
「雰囲気を変えればいのね」
「うん」
エリザは静かにうなずき、まずは目を閉じた。
すぅ……と静かに息を吸ってから、目を開ける。
「こ、これは……」
「皇帝……様だ……」
ミアとリリーはエリザの変貌に息を飲んだ。
普段は見せないエリザの一面、皇帝としての威厳やオーラを解放するとこうなる。
さすがだなあ、と思いつつ、書斎にある素材袋を手にとった。
「作るのか?」
「うん」
「余にふさわしいものにするのだぞ」
「僕の見立ての、二人が一番綺麗になった時、にするつもりだよ」
「なるほど、ならば問題はない」
袋の中に手を突っ込んで、魔法を使う。
目を閉じてイメージする。
エリザに話した、ミアとリリー、二人がこの先綺麗になった時の姿をイメージ。
そのイメージでホムンクルスを作った。
魂の入れ物、空っぽの肉体。
ミアとリリーの二人ににたホムンクルスを作って、エリザのそばに並べた。
絶世の美女二人、皇帝の足元に傅く光景。
エリザがさっき語ったことの完成形だ。
それを作った私は、二人の方を向いて。
「こんな感じだね」
「……」
「……」
「ミア? リリー?」
二人は呼んでも反応がなかった、手を目の前にかざしても反応しない。
「あれ? どうしたの?」
「お前までとぼけるな」
「ん?」
「お前が集めた女のスペックが高すぎて、男だけじゃなくて女相手にも効いたということではないか」
「ああ」
ポン、と手を叩く。
そして二人を見る。
うん、確かにそれっぽい。
二人は見とれてるの半分、気圧されてるの半分。
そんな感じだ。
「さすがSSSランクの人生。集まってくる素材からしてひと味違う」
エリザは、本気で感心した顔で言った。