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07.善人、自分を犠牲にして天使を助ける

「アンジェ、ちょっと取ってきてほしいものがあるんだけど」

「はい?」


 私はアンジェに耳打ちした。

 アンジェは頷き、


「お任せ下さい」


 と、屋敷の中に駆けていった。


 アンジェが動く一方で、父上と愉快な仲間達は完全に宴会モードに入ってる。

 そこはもうほっとこう。


 さて、拮抗する位の力を身につけた事だし、アンジェが戻ってきたら――。


「反撃しよう」


 いきなりエリザがそんなことをいってきた。

 彼女を見ると、目がかなり真剣だった。


「え? なんで?」

「なんでって……」


 今度はあきれかえった顔になった。


「狙われてたのよ、あんなヤバイので」

「そうだね」

「今まではどうにかなったけど、これからどうなるかは分からないじゃない。

あなたが――あなたの周りの人間が、いつとばっちりを食らうか分からないし」

「それなら大丈夫だよ」

「え?」


 勢いのまま私にまくし立てていたエリザが、きょとん、となってしまう。


「大丈夫って、どういう意味?」

「今回のでよく分かった、狙われるのは僕だけなんだって」

「……根拠は」


 エリザはやっぱりエリザだった。

 聡くて、理性的で。

 こういう時にありがちな「なんでよ!」と感情的になる事がない。


 だから私も、落ち着いて説明が出来た。


「まず、アスタロト、アザゼル、マルコシアス。神も天使も、この世界のルール、いい人だったかどうかのルールにはまってるのは分かるよね」

「うん、どれも何かをして堕天して、それをアレクがなんとかしたのよね」

「でね、今回の神罰が今までで一番弱い――じゃないね、鋭かった」

「鋭い?」

「うん、今までもそうだったけど、今回はよりピンポイントに僕を狙ってた。どういう事か分かる?」


 エリザは少し考えて、ちらっと父上と愉快な仲間達をみて。


「巻き込みたくなかった」

「そういうこと。創造神といえど、世界の理の中にいると思う」

「それは間違いないね」

「やけに確信してるんだね」

「ええ。……俗物だからよ」


 何かつぶやいたエリザだが、聡い彼女がはっきりと言わない台詞だから、あえて聞く必要もないと思ってスルーした。


「って事は、僕一人を殺してもそんなに善行――徳って言うのかは落ちないけど、無関係な一般人まで巻き込んだら駄々下がりだと思う」

「なるほど。でもそれだと、アレクがずっと狙われるのは変わらないじゃない」

「うん、それならなんの問題もないよね」

「………………そうだったわね」


 やけに長い沈黙を経て。

 途中でなぜかちょっと呆れたりもして。


 エリザは頷いて、納得顔をした。


「確かになにも問題は無かった。あなたが対処出来る物を、あなただけが狙われる分には」

「でしょ」


 これで説明は終わり、エリザも納得してくれた。

 というタイミングで、アンジェが戻ってきた。


「お待たせしましたアレク様」

「それは……袋?」


 戻ってきたアンジェが持ってるものをみて、エリザがまた首をかしげた。


「うん、食糧袋。普段は持ち歩いてるんだけど、さすがに神罰だし、専念するために賢者の剣以外の持ち物は全部置いてきたから」

「どうしてそれをわざわざ持ってこさせたの?」

「ちょっと待ってね」


 私は影の中から天使を出した。


 永久凍結で時間ごと止まらせた天使。

 氷の中で、彼女は未だに思い詰めたままの顔をしている。


 それを解凍した。


「――私」

「しっ……」


 戻った瞬間、覚悟を決めて話そうとした事を続けようとした天使。

 唇に人差し指を当てる古典的なジェスチャーで、彼女を黙らせた。


「え? あれ? ええ?」


 私のジェスチャーに勢いを削がれた天使、次は周りの景色が違う事に気づき、驚き戸惑った。


「どういう……ことですか」

「それよりもいい事を思いついたんだ」

「いい事?」

「うん、これって分かる?」

「それは……あなたが集めてる食糧」

「そう。領内の余剰分を買い取って溜めてる食糧。アレクサンダー同盟の領民全員を何年分かはまかなえる位のすごい量になってる」

「それがどうしたんですか?」

「でね」


 手をかざす、魔法を使う。

 大地から土を起こし、空気中から水を生成。

 その二つを混ぜて。


「泥水?」

「うん、それだけじゃなくて、ちょっと物質変化をして、病気の源をいっぱいこの中に込めた」

「はあ……」

「それを……こう」

「「「ああっ!」」」


 天使、エリザ、アンジェ。

 三人とも、私の行動に驚いた。


 私は病気持ちの泥水を食糧袋の中に入れたのだ。


「ど、どうして」

「もったいないよね。今僕は、数十万人分の食糧を台無しにしたんだ」

「え?」

「……悪い事をしちゃったね。酒池肉林どころの騒ぎじゃないわ」


 そうエリザが言うと、天使とアンジェがハッとした。

 エリザが更に言う。


「皇帝がいくら贅を尽くしてもこんな無駄は中々出来ないわ」

「そういうこと」


 私はにこりと、天使に微笑んだ。


「これからも定期的にやるから。キミの任務も果たされたね」

「――ありがとうございます!」


 天使は、やってきてから初めてとなる、

 ものすごくホッとして、ものすごく嬉しそうな顔をした。


     ☆


 天使がアレクにお礼を言い続けているのを、エリザは一歩引いた所から見守っていた。

 アレクの顔、そして天使の顔。


 人間と人間の欲をより多く目にしてきたエリザは正しくそれぞれの顔の意味を理解した。


(まったく、また罪なことを一つしたね。まっ、それは今更だけど)


 天使の顔、自覚しない好意をエリザは微笑ましく見守ることに決めた。


 そして、アレクの顔。

 穏やかに、満足げに微笑むアレクの顔を見た後、エリザは空を見上げた。


(SSSランクまで積み上げたのは結果でしかないのよ俗物。アレクは善人、感謝されて嬉しい、それだけの事)


 エリザの口角が微かに歪んだ、見あげているのに、瞳はとてつもなく冷たくて、相手(、、)を見下ろしていた。


(しがみついてるといいわ。長ければ長い分、創造神(あんた)とアレクの器の差が露呈するだけのことよ)

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