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03.善人、神の使いを洗脳する

 しんがりのメイド達に一足飛びで追いつき。


「裁きの雷!」


 魔力を高め、空から轟雷を召喚し賢者の剣に宿す。

 雷をまとった一撃で天使っぽい何かを押し返す。


「ご主人様!」


 ケガを負って奮戦していたメイド達が私の登場に驚く。


「大丈夫? 他に残ってる人は?」

「お逃げくださいご主人様!」

「そうです、ここはわたくしたちに任せて」


「――」


 無言でメイド達を見回した。

 メイド達はそれだけですくみ上がった。


 睨んだ訳ではないが、不快感が少しあったのは否めない。


 私は密かにため息をつきつつ、


「他に残ってる人は?」

「い、いません。私達が最初です。ご主人様がすぐにお目覚めになったから」

「それなら良かった。後で皆を集めて言うし明文化もするけれど、今も言っておくね」


 もう一度ぐるりとメイド達を見回す。

 今度はできるだけ不快感を表に出さないように気をつけて。


「僕のために命を賭けることは今後許さないよ」

「……はい」


 メイド達はまばらに頷きながら、とりあえずは私の言ったことを受け入れた。

 が、目の奥の光は変わっていない。


 同じ状況がまた来るような事があれば、その時も同じく命を賭ける。


 そんな風に密かに主張している目だ。

 しかたない、それは追々諭していこう。


「僕が目覚めたからにはここは任せて、影の中に」

「「「はい!!」」」


 メイド達は全員が即答して、次々と私の影の中に戻っていった。

 こういう命令は素直に聞くんだよな……。


「――と、そんな事を考えてる場合じゃなかった」


 神格者の能力も使った必殺剣で追い返した奴らが戻ってきた。


 改めて見てもやっぱり天使っぽい連中だった。


 白色がベースの服、背中に羽ばたいてる四枚羽、わずかに差してる後光。

 パッと見「ありがたい」感じのヤツが、合計で十人いた。


 そいつらが一斉に襲いかかってきた。

 持っている長物――杖とも槍ともつかないもので攻撃してきた。


 攻撃自体は鋭いが、物凄く強いかと言えばそうでもない。


 ホーセンの二刀流の方がよっぽど早いし強い。


 まずは受けて、動きを止めてから魔法で。

 そう思って賢者の剣で先頭の二人の攻撃をガードした。


「――っ!」


 受けた瞬間、体に例えようのない喪失感がかけぬけた。

 体の中の何かがごっそりと持って行かれた感覚だ。


 地を蹴って距離を取る。

 着地すると同時にダメージの確認。


「……え?」


 ダメージは無かった。

 体力も魔力も何一つ減っていない。

 それでも喪失感があった。


 何かが失われた。

 体力でも魔力でも無い何かが。

 それは確実だ。


「ガードも上策じゃないね」


 気を取り直して再び天使もどきの中に飛び込んでいった。


 今度は四人、上下左右を取り囲む槍と杖の猛撃。

 それを避けた。

 包囲網のほんのわずかな隙を縫って攻撃を躱す。


 今度は何も起こらなかった。

 追撃してくるのが一人、それをうけると――また喪失感が私を襲う。


 やっぱり受けてはダメだ。

 避けなきゃ。


 攻撃はどうか?

 そう思って一番近くにいるヤツの攻撃を避けつつ賢者の剣で変哲のないただの斬撃。


「むむ」


 天使っぽいのはとっさに飛びのいたせいで浅かった。

 しかしそれは問題ではなかった。


 問題は二つ。


 まず、斬った瞬間また喪失感が私を襲った。

 接触はどうやら良くないようだ。


 もう一つは――


「アレク!」

「エリザ!?」


 驚愕する私。

 振り向きもしないまま、魔法で障壁を張りつつ、聞こえた声でエリザの居場所を判断して、そのまま彼女の前に飛び出た。


 天使っぽい連中からエリザを守る、そんな格好になった。


「なんで戻ってきたの?」

「動きがにぶい、何があったの」

「わかっちゃうんだ」

「ずっとあなたを見てたから」


 なるほど、それで私の異変に気づいて戻ってきた訳か。

 ちなみにメイド達の気配はない。残して来たみたいだ。


 その事にちょっとホッとしつつ、喪失感の事を説明する。


「天使がそんなことを……?」

「ううん、天使じゃないよこいつら」

「天使じゃない?」

「うん、天使っぽいけど天使じゃない。正確に言えば天使の肉体だけど、魂が入っていない」


 そう、それが気づいたもう一つの不思議な所。

 賢者の剣で斬りつけた瞬間分かったのだ。

 相手には魂が入っていない事が。


「魂がなくて動けるものなの?」

「だから困ってるし迷ってる」

「……たしかに」


 納得したエリザ。

 そこで彼女は彼女なりの分析をした。


「これを送ってきたって事は、あれは当分ないって事ね」

「あれ?」

「神罰。アレクを初めて気絶に追い込んだほどのあれ、もし二発目を連続で撃てたらアレクはもう消滅しているわ」

「……たしかに」


 あの、天と地が万力になって押しつぶしてくる様な強大なプレッシャー、創造神の天罰。


 エリザのいうとおり、こんな奇妙な兵隊を追撃に送り込んでくるって事は後が続かないって事だ。

 あれが当面ない、そう分かっただけで気がすこしは楽になる。


「それはそうと、とりあえず倒して。倒せるんでしょ」

「そうだね。色々吟味するのは一旦落ち着いてからにしよう」


 私の担当天使がやってきてから緊迫の連続だ。

 ここで一旦落ち着かないとエリザもメイド達も気が休まらない。


 私は賢者の剣を握り直した。


「いいの? 喪失感があるんでしょ?」

「目の前の十人を倒す分にはたいした問題にならないはず」

「分かったわ」


 エリザは納得して、この先は傍観すると気配が伝わってきた。


 私は賢者の剣を握り直す。

 押し返した後、体勢を整えていない天使っぽい奴らにこっちから飛び込んでいった。


 動き自体やっぱりたいした事はない。

 飛び込んだ私は、快刀乱麻の如くそいつらを斬りまくった。


 一人一斬。

 ある物は左上、ある物は右下と。

 それぞれがばらばらの翼を一枚ずつ斬り落とした。


 三枚羽になった天使達は動きが止まって、どさっ、と地面に倒れ込んだ。


「さすが、迷いがなくなれば一瞬で」

「うん、賢者の剣で対処法は聞いてたから」

「そうなの――アレク!」


 ホッとしたエリザが叫んだ。

 倒れた10人の天使もどきが一斉に立ち上がったからだ。


「大丈夫だよ」


 やる事をやって、成功を確信した私が言う。

 天使もどきは動かなかった。


 立ち上がりはしたが、視線は私に向けられていて、その視線に敵意はない。

 その視線の正体を、エリザは真っ先に気づいた。


「命令を待っている?」


 皇帝エリザベート。帝国臣民数千万を侍らす彼女はこの手の視線や感情にものすごく敏感だ。

 だから、すぐに気づいた。


「どういう事なの?」

「因果応報って言葉があるよね。あの四枚羽はそれぞれその四文字をかたどっている物らしい。そこで『因』を断って、新しいものを割り込ませた」


 私が説明している間も、変化は起きていた。


 私が斬り落とした羽の断面から新しい羽が生えてきた。


 真っ白な物じゃない、かといって黒でもない。


 限りなく光の色に近い白色の羽が生え替わってきた。


「新しい『因』……あなたが新しい主ね」

「そういうこと」

「はあ……まったく、いつもいつも予想の上を行くわねあなた」


 エリザは呆れたため息をつきつつも、どこか嬉しそうだった。

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