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01.善人、神罰に打ち勝つ

 一人、また一人と私の影から出てきては、馬車の外に出て行く。


 ドロシーやメイド達、私の影の中に住む者達だ。

 影の中にいると会話が聞こえてしまうから、彼女達に出て行ってもらって――人払いをした。


 ちなみに目の前の天使の存在を誰も驚かなかった。


 アザゼルやマルコシアスなどで天使の存在は慣れてるし、アスタロトという女神まで私に付き従っている事を知っている。

 そのため、人払いは順調にいった……のだが。


「エリザも」


 最後の一人、エリザだけ馬車から出て行かなかった。


「ここにいるわ」

「しかし……」

「お忍びとは言え皇帝よ」


 エリザの言葉が字義通りでは無い場合が結構ある、今のもそうだ。


 今はメイドじゃないから命令は聞かない。

 エリザはそう主張している。


「どうしよう」


 私は天使の方をむいて、意見を求めた。

 エリザと話した直後だと私も言葉足らずになってしまう事があるので、急いで補足した。


「エリザも一緒でいいかな」

「……わかりました。帝国も無関係ではいられませんし」


 少しまよった後、天使は渋々ながら受け入れた。


 人払いが実質終わったので、私は天使に再び聞いた。


「どうして僕が死ななきゃいけないの?」

「13歳にしてもう前の人生を越えたから」


 天使は苦虫をかみつぶした様な顔で語り出した。


「人間は、人間に生まれた場合、審査がニュートラルのDランクに戻るの」

「ふむふむ」

「それはあなたも同じ、SSSランクであろうと、人間として産まれた場合、審査分がまったくなしのDになるのよ」

「それだと何もしなくてもその次は人間に産まれるけど、何回か動物に――ああそっか、人間に産まれた場合だね」


 天使は静かにうなずいた。


「懲罰的に何回か動物に生まれ変わらせる事はあるけど、そういう時は審査する時にマイナス分をあらかじめ魂に刻み込んどくの」

「そういうことになってるんだね」


 天上界、そして生まれ変わりのシステム。

 まだ色々私の知らないルールがあるみたいで、いつかそれを解明したいなという好奇心が首をもたげた。

 もちろん今は自分の事が先だけど。


「でもDになったのに、あなたは13年間の人生で前を越えた、SSSになった」

「当たり前ね、アレクが今までしてきた事を考えたらそうなるわ」


 エリザがちょっと半分威張るような口調で言った。

 それをやられるとちょっと恥ずかしくなる。


 天使は更に続いた――私の羞恥プレイなど目にも入ってないって感じで。


「13歳でこうなってるんだから、何処まで行ってしまうのか。だから」

「そっか」

「もちろん今死ねばSSSランクだし、神様にもなれるよ。それでもまだ人間がいいなら、今回みたいな人生になる様に出来るだけ生まれ変わりの手伝いをする」

「うん」

「もちろん違う事をして相殺するのがいいんだけど……無理だよねそれ」


 私は苦笑いした。


「進んで悪事を行いたいとは思わないね」

「悪事じゃなくてもいいの! 例えば彼女の父親、前の皇帝とか」

「酒池肉林の浪費三昧ね」


 エリザがものすごく端的に答えた。


 前皇帝のやった事をざっくりとまとめた。


「はい! もちろんやり過ぎないように私がメーター代わりになって補佐します。例えば……そう! 今のままなら1万人のハーレムを築いて、それを飽きたってオモチャのようにポイ捨てしても次はCランクの中流家庭に生まれることが出来ますよ」

「史上類を見ないハーレムね。帝国でもっとも多い時でも3000人だったわ。それにしたって侍女や洗濯女を全部入れた数よ」

「そりゃそうだよ。3000人なんていたら何日かかるのよってはなしだもの」


 私は苦笑いした。

 私も男だからハーレム願望は否定しないけど、3000人はちょっと色々と(、、、)違うと思う。


「なんでもします! 悪事ができないっていうのなら、そういう事が出来る性格にします!」

「性格?」

「はい! 生まれ変わる時に飲ませる――」

「ああ、記憶を消去する」


 頷く天使。

 終末の審査の後、生まれ変わる直前に記憶消去の薬を飲まされる。

 それでまっさらになって生まれ変わるのだけど。


「そっか、あれを使えば性格が変わるんだ」

「はい! だから……お願いします!」


 ものすごい剣幕で私に迫る天使。


 お願い事はできる限りなんとかしたいと思うけど。


「ごめん」

「え?」

「今死ぬのも性格変わってしまうのもお断りするよ」

「で、でも!」

したいこと(、、、、、)がまだまだあるんだ、だから何があっても、今の人生をまっとうする」

「だ、ダメです、そんな事を言ってしまったら!」

「え?」


 天使が慌てて立ち上がった。

 狭い馬車の中、頭をぶつけてしまう。


 それでも彼女は痛みを無視して、私を必死な目で見つめながら――。


「気にしてるわね」

「してるね」


 同席した聡いエリザがその事に気づいた。

 天使が私を見つめながら、空をずっと気にしていると。


 なにかあるのか――。


「ああっ!」


 悲鳴の様な声を漏らす天使。

 異変はすぐに分かった。


 普段からほの暗い馬車の中だが、より一層暗くなった。


 まるで通り雨が急にでも来たかのように暗くなった。


「逃げて!」


 天使の警告、しかしそれはすでに遅かった。

 暗くなった馬車の中で、私だけ明るく照らし出された。


 天井を貫いて、空から降り注ぐ――ピンポイントに私に降り注ぐ一条の光。


「二人とも逃げて!」


 賢者の剣を抜く、馬車を切り裂く。


 ばらばらになった馬車の中から天使とエリザの二人を弾き飛ばす。


「――!」


 直後、衝撃が体を突き抜ける。

 目の前の視界がぶれるほどの衝撃が全身を突き抜けていく。


 そして、圧力。

 空からのものすごい圧力がのしかかってきた。


 それだけで終わらなかった。

 灼熱、極寒。


 数千度の業火が体を焼くのと同時に、骨まで凍える寒さが襲う。


「ぐっ……うぅ……」


 それらに遅れてやってくる、ありとあらゆる苦痛。

 ピンポイントで降り注ぐ光の中で、私の体にありとあらゆる苦痛が襲った。


「アレク!」

「ダメです! あれは……あれは……もう!」


 かけよろうとするエリザを止める天使、その顔は悲痛の一言に尽きた。


 周りにいたメイド達はポカーンとしてて、ほとんどがへなへなとへたり込んでいる。


 更に痛みが増した。

 いや、痛みすら越えた痛み。


 神経にダイレクトで「痛い」と押しつけてくる様な、原初的な痛み。


 魂さえもすり減らされそうな痛みの中。


「う、おぉ、おおお……」


 賢者の剣を握る手に力が入った。


 抵抗する。

 体の中から反発する力を呼び覚まして、賢者の剣――ヒヒイロカネを通して増幅する。


 押し合いだ。


 天使すら絶望する力――光の柱を、増幅した力で押し戻す。


「まだ……まだだ……まだ私は!」


 が、向こうの力が更に増した。

 とてつもない巨大な力に押しつぶされそうになった。


 一瞬だけ、頭の中に走馬灯の様に、様々な人々の顔がよぎった。

 今までの、この人生で関わってきた人々の顔だ。


 それらの顔が次々と浮かんではきえていく。

 走馬灯の最後は――アンジェ。


 聡明にして怜悧な可愛い女の子が、ものすごく悲しそうな顔をしている。


 未だかつて見た事ない、悲しい顔。


「させて……たまるかああああ!」


 力が溢れる、全力を引き出した先の力。

 限界を超えた先の力――それが一気に溢れ出す。


 パリーン!


 乾いた、ガラスが割れた時の様な音。


 光も、痛みも。


 全てが、嘘のように消え去った。


「うそ……創造神様の神罰が……」


 さっきまで悲痛な顔をしていた天使が、何もかも信じられない。

 そんな顔をしていた。

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