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07.善人、被害を最小にする

 霊地フラジャイルから徒歩で半日くらい離れた所の、何もない草原。


 王国が帝国に反旗を翻す場合、軍が必ず通過するここに、私は一軒家の仮設住宅を立てた。

 素材袋の材料を使って作った、1LDK間取りの家。


 雰囲気はテント、実際に住む感覚は民家。

 そんな感じの家のリビングで、メイド・エリザのご奉仕でくつろいでいると。


「お待たせ」


 シュタ、と天井からドロシーが跳び降りてきた。

 天井を見あげた、私が立てたばかりの家で。


「穴とか、ないよね」

「ないよねえ。不思議だね」


 給仕中のエリザと首をかしげあった。


「報告」


 古のニンジャを彷彿とさせる様な動きと淡々とした声で、ドロシーが報告する。


「王国軍出陣、総勢3000。こちらに向かってくる」

「そっか、やっぱり帝国に行くにはここを通るって事だね。ありがとうドロシー。すごく助かった」

「……」


 ドロシーは無言で、しかし嬉しそうに頬を染めて、そのまま再び影に潜り込んだ。


「ゼラ」


 静かな声でゼラを呼ぶ。

 彼女は奥の部屋にいた。


 ベッドの横に座っていて、心配そうな顔でベッドの上に寝かしているリーチェの肉体を見守っている。


 リーチェの魂がホムンクルスに入ってつかまって以来、ゼラは主の肉体をこうしてみまもり続けている。


「なんですか?」

「3000という数字だけど、どう思う?」

「どうって?」


 首をかしげるゼラ。


「ご主人様、質問はもっとわかりやすくした方がいいかもしれない」

「そっか」


 エリザとならこれで通じるから、ちょっぴり横着してた。


「3000は反乱軍の何割くらいになると思う?」

「ほとんどだと思います。1000人くらい霊地に残してると思います」

「なるほど」


 つまり全力か。

 そうだ、念の為。


「エリザ、3000の反乱軍は帝国からしたらどう?」


 今度はエリザ本人だから、またちょっと横着させてもらった。


「方面軍だけでどうとでもなると思うわ」

「なるほど」


 敵にもならないって訳だ。

 リーチェの危惧が正しかったわけだ。


 そんな戦力差、帝国なら撃退ついでにじゃあ滅ぼすか、ってなってもおかしくはない。


 やっぱりここで食い止めなきゃな。


 私は立ち上がって、外に出た。


 風に吹かれて波打つ草原の遙か彼方に、うごめくレベルで何かが動いているのが見えた。


「あれが反乱軍か」

「どうするのご主人様? 倒してしまう?」

「僕が?」

「うん、ご主人様なら出来る……出来ない?」

「出来るけど、それはダメだね。国父・アレクサンダーが介入したってはっきり分かるのはダメだよ」

「すっとぼければいいよ」

「それで苦労するのはエリザだけど?」

「構わない――と言うと思う」


 それはそれでどうだろうな、と思いつつ、賢者の剣を抜き放った。


「三千人か……ちょっと骨が折れるね」

「ご主人様なら余裕だと思う」


 私を見つめながらそう言い切ったエリザ。

 本当にそう思っているようであり、私を励ますようでもある。


 彼女にかっこ悪い所は見せられないな。


 私は賢者の剣を地面に突き立て、魔力を増幅。

 自動魔トレ(、、、)をいったん止めて、全部の魔力をこっちに回す。


 魔力がヒヒイロカネを通して、虹色の光となって拡散しだした。


「……むぅ」


 人間の思考が流れ込んできた、重い。

 ずしりと、熱い空気に全身を覆われたかのような感触。


 その思考を誘導して、更に別の相手の思考を書き換える。

 完全にあり得ない、考えもつかなかったことに書き換えるのじゃない、思考を「ありえる」方向に誘導していく作業。


 それを、一人一人――3000人分、順にやっていった。


 途中で慣れてきて、二人まとめて誘導する様になった。

 負荷が少し大きくなったけど、許容範囲内だ。


 思考の誘導をまとめてやっていった結果、約一時間で全部が終わった。


「ふう……」


 突き立てた賢者の剣に両手をついて、体重を預けて息をつく。


「お疲れ様、ご主人様」


 隣からそっと、冷たいおしぼり差し出された。

 メイド・エリザの仕事はいつも完璧で、このおしぼりも丁度いい具合に冷えてるものだった。


「ありがとう、楽になったよ」

「ご主人様、何をしたの?」


 エリザは私を見て、遠くを見た。


 進軍してきた反乱軍が、遠目ながら徐々に遠ざかっていく――


 引き戻していくのが分かった。


「ちょっとね、思考を書き換えたんだ。霊地ブランジャイルに戻るように」

「そっか、そこを帝国の首都に思う様にしたんだね」

「ちょっと違う。それじゃ後々大変でしょ。みんなが口を揃えて『帝都に攻め込むつもりだった』って言ってしまうと、皇帝陛下が対処に困るでしょ」

「……そうだね」


 じゃあ? って目で私を見るエリザ。


「思考をちょっと誘導した。実は霊地に残った人達はつかまったリーチェ姫を主に仰ぐリーチェ派だった。ってね」

「うわ、ありがち」

「でしょ。そうなると、後方であり本拠でもある霊地をリーチェ派に持って行かれたくないから、引き返して霊地を確保しなきゃいけない」

「内乱になる訳ね」

「うん」

「さすがご主人様。あとは3000人の攻撃と1000の防衛側。両方共倒れの全滅になったら万々歳だね」

「そこもちょっと思考を誘導した」

「どういうこと?」

「『リーチェ派とは言え同胞だから、なるべく殺さないように戦わなきゃ』ってね」

「手加減するの? どうして」

「全滅したらそれまでだからね、新しい反乱軍が作られないとも限らない。だったら、四千人分の足手まといになってもらおうかなって」

「そっか、負傷兵だと手当てするのに人をさくから」

「そのさきの事をやってる場合じゃなくなる」


 頷き、応じる私。


「すごいな……そこまで考えてたなんて。さすがご主人様」


 これで予定通り、大量の足手まといが出る王国の内乱になる。

 それで話が終わってくれればいいんだけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オモシロイ着想と思った。エンタメ小説とすればなかなかである。 世界観がある程度統一され、破綻が少い。 シーン展開がそれぞれに生かされている。 [気になる点] 世界観が狭窄視野で稚拙である点…
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