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03.善人、水道工事をする

 女騎士のゼラ改めリーチェ姫。

 姫の姿のリーチェ改めゼラ。


 この二人と、魔法学校から連れてきたシャオメイ。

 総勢四人で、飛行魔法を使ってカーライルの屋敷に飛んだ。


「あの……アレクサンダー様」


 空の上で、シャオメイがおずおずと聞いてきた。


「なんだいシャオメイ」

「あの人達は何もしないままで良かったのですか?」

「リーチェ姫を襲った人達のことだね」


 頷くシャオメイ、つれて飛んでいるリーチェ姫もゼラも一瞬だけびくっとした。

 自分たちに関係ある事だから、気になるのだ。


「うん、何もしないよ。あのまま放っておけば自力で脱出して、噂を広めてくれるだろうね」

「噂、ですか?」

「そう。狙うとしたら騎士の方から狙わなきゃいけないという噂と、リーチェ姫は帝国の国父に保護されたという噂。この二つを広めてもらいたいから、あのままにしておいたんだ」

「そうだったんですね」


 シャオメイは静かに、納得した様子でうなずいた。

 同時にリーチェもゼラもホッとしたのが分かった。


 そんな三人を連れて飛んでると、すぐに屋敷に辿り着いた。


 庭の一角、あえて広くして何もないスペース。

 私が戻ってくる時の着陸用にしているスペースだ。


 そこに、三人の女性をゆっくり下ろす。


 少し離れた所にメイドがバタバタ走って行くのが見えた。

 なにやら慌ただしい様子だ。


「アグネス」


 私のメイドである彼女を呼びとめた。

 アグネスは立ち止まり、私だと知ると、嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませご主人様」

「うん、ただいま。それよりもどうしたんだい? なんだか慌ただしいみたいだけど」

「屋敷の水道がちょっと破損してしまったので、今修理している所なのです」

「それは大変だ」


 このカーライル屋敷や王宮、あるいは帝都など、ある一定以上の生活水準の建物や街には水道が作られている。

 安定した水の供給は衛生に大きく関わる、それがあるだけで病気にかなりなりにくい。


 建国したときにそこにかなりお金をかけた事が、その後の帝国の強さに繋がった。


「……」


 何となく水道建設を命じた初代皇帝が生まれ変わった時の魂のランクが気になった。

 そして前皇帝が色々やらかしても帝国は大して揺るがないのは水道のおかげが大きいのだと思った。


「そっか、ごめんね呼びとめてしまって。修理頑張ってね」

「はい! ご主人様」

「アレクサンダー様、私も手伝いに行っていいですか?」

「シャオメイが? そっか、氷の魔法が得意だもんね。頼めるかな」

「任せて下さい!」


 意気込むシャオメイはアグネスと一緒に去っていった。

 あの様子なら今日中に修理が終わるだろうと思った。


 さて、次は二人を安置する……と思って振り向いたが。

 女騎士姿、というより今となっては姫騎士だなというリーチェが、ものすごく驚いてるのが見えた。


「どうしたのリーチェ姫」

「あの子……アグネス・メンバーなのでは?」

「知ってるの?」

「ええ、メンバー子爵とはそれなりに付き合いが。最後にあったのはこれ位小さい時だったのだけれど」


 リーチェは自分の膝くらいの高さに手のひらをかざした。

 その位だと一歳か二歳かってくらいだろう。


 面影はあるかどうかだし、アグネスが気づかなかったのもうなずける。


 そんなリーチェとゼラを連れて、屋敷の中に入って、私の書斎に直行した。


 机にちゃんとした紙を出して、正式な文字で手紙を書いて、封筒にいれて私の印で封をした。


 そして二人が不思議がっている中。


「エリザ」


 影からメイドエリザを呼んだ。


「お呼びですかご主人様」


 相変わらず完璧にメイドとして振る舞うエリザ。

 彼女に封筒を手渡した。


「キミに任務、皇帝陛下にこれを渡してきて」

「陛下に、ですか」

「うん。100%陛下の手に渡る(、、、、、、、)。それが出来るのは君しかいないから」

「分かりました。お任せ下さい」

「陛下の返事ももらってきてね」

「はい」


 エリザは頷き、封筒を懐の中に入れて、メイドの一礼をして書斎から出た。


 それを見送ってから、二人の方を向く。


「何日かしたら返事が来るから、それまで待っててね」

「はい」


 二人は――特にリーチェは見るからにホッとした。


 それで力が抜けたのか、彼女はふらついて、そのまま崩れ落ちるように倒れてしまった。


「リーチェ!?」

「姫様!」


 姫姿のゼラが慌ててリーチェの上半身を抱き起こす。


「大丈夫……あれ、を……」

「はい!」


 ゼラは慌てて手のひらサイズの水筒を取り出して、リーチェの口元につけてやった。

 一瞬で紙のような顔色になって、まるで重病人のようになったリーチェは、弱々しく喉を上下させ、それを呑み込んだ。


 すると、真っ白だった顔色に少しだけ赤が戻ってきた。


「どうしたの? 何の病気?」


 弱って返事が出来ないリーチェに変わって、今まで一歩引いていたゼラが答えた。


「姫様は霊地からでたらこうなってしまうんです。霊地からでている大地の力がないと姫様は……」

「なるほど」


 ゼラの説明を聞いて一瞬で状況を理解した。

 霊地の中にいれば不老不死なのだろうが、逆に霊地からでたら死にかねない。

 条件付きの不老不死ってことだ。


「じゃあその水は?」

「霊地の中心、聖なる泉の水です。霊地の力を多く含んでいるこれを飲めば少しは凌げます」

「じゃあそれがなくなるとまずいんじゃ?」


 ゼラは重々しく頷いた。


「そっか、じゃあまずはそれをなんとかしないとね」

「み、水を手に入れて下さるんですか!?」


 まるで救世主を見たかのような、希望の顔をするゼラ。


「とりあえずついてきて。歩けるかな」

「はい……」


 まだ顔色がそれほど良くないが、それでも歩ける位には回復したリーチェ。

 そんなリーチェとゼラを連れて書斎からでた。


「リリィ」

「はい!」


 影からメイド・リリィを呼び出す。


「今空いてる客間は?」

「こちらです」


 リリィの先導で歩き出す。

 カーライル屋敷は元々公爵家の屋敷、賓客がかなりの頻度でやってくる。


 私がいなくても、皇帝が来る事も少なくない。

 そのため、客間はかなり豪華に作られている。


 そのうちの一つに、リリィの案内でやってきた。


「ご苦労様」

「はい!」


 ねぎらわれたリリィは嬉しそうに影の中に戻っていった。


 私はリーチェ達に振り向いた。


「この部屋で大丈夫? しばらく二人につかってもらうけど、気に入らなかったら別の部屋に変えてもらうよ」

「お気遣い感謝します。助けていただく身分で、それ以上のわがままは」

「そっか、じゃあここって事で」


 私は背負っている賢者の剣を抜き放ち、床に突き立てる。


 魔力を増幅して、まずは部屋に結界を張った。


「これで良し」

「感謝します」

「するのは後でね」

「え? この結界で私達を守るという事なのでは……?」

「ちょっと違う。ゼラ、さっきの水、ちょっとだけもらえないかな」

「えっと……」


 ゼラは主人であるリーチェに確認の視線を向けた。

 大事なもの、主の命を繋ぐもの。

 二重の意味で、彼女の一存では決められない。


 許可を求められたリーチェが静かにうなずくと、ゼラは水筒を取り出し、私に手渡した。


 私は水筒を開けて、少しだけ賢者の剣に垂らす。

 水滴は賢者の剣に触れた後、少し浮かび上がって、空中で球のようになった。


「ありがとう」


 水筒をゼラに返す。


 賢者の剣――ヒヒイロカネを通して、聖なる泉の水の力を感じる、覚える。

 そして覚えたものを、賢者の剣を通して、意識を広げていった。


 地中を通って、意識を拡大。

 同じ力を探して――あった。


 この水よりももっと濃厚な、もっと純粋で雑味のない。

 そんな大地の力を見つけた。


 力を込める、()を地中に作る。


 大抵の場合の()は水やニオイと同じように、多くて濃いところから、少なくて薄い所に流れる。


 地中に管という、力の通り道をつなげてやると、その力は管を通ってこの部屋に流れ込んできた。


 流れ込んできた霊地の力は、結界に閉じ込められ部屋を充満する。


 みるみる内に、関係のない私でも分かる程の、濃厚で通常とは違う「力」で部屋が満たされていった。


 さっきに比べて格段と顔色が良くなったリーチェ。

 一方で、何が起きたのか信じられないって顔をする。


「こ、これは……」

「霊地から力を引いてきた、これで大丈夫かな」

「え、ええ……こんなことが出来るなんて……」


 200年以上生きてて思いもしなかった、と。

 リーチェは驚嘆した。

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