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01.善人、馬車の姫を助ける

「じゃあ、シャオメイは預かるよ」


 魔法学校の入り口、私とシャオメイと校長のイーサン。

 定例の授業を済ませた後、私の所で研修をする事になってるシャオメイを連れていくことにした。


「シャオメイ君を宜しくお願いします」

「それはいいんだけど……どうして向こうにあんなに生徒達がいるの?」


 気になった私は校長に聞いてみた。

 校長の向こう、魔法学校の敷地の中。

 物陰に隠れて――大勢過ぎてまったく隠れてない、生徒達がこっちを見ていた。


「みんな自発的に集まったのです。副帝……いえ、国父殿下に直々に連れていってもらえるシャオメイ君が羨ましいのでしょうな」

「なるほど」


 確かによく見れば大半の生徒達は目をキラキラさせている、一部ハンカチをかんで悔しがってる人や、涙を流して悔しがってるのもいる。

 羨ましい、か。


「だからシャオメイ君。ちゃんと勉強をしてくるんだよ」

「はい! 校長先生」


 シャオメイが返事したあと、私は彼女に手を差し伸べた。

 シャオメイはおずおずと私の手を取った。


 生徒達から歓声が上がった。


「じゃあ、いくよ」

「はい」


 シャオメイを連れて、飛行魔法で空に飛び上がった。

 他の生徒達にもよく見えるように、ゆっくりと飛び出して、カーライル屋敷の方角に向かった。


 徐々に速度をあげていく私、シャオメイがぎゅっとしがみついてくる。


「大丈夫? 速度を落とそうか?」

「だ、大丈夫です」


 慌てるシャオメイ。


「大丈夫ならいいんだけど、そうだね、安全のためにもっとしがみついてもいいよ」


 怖いのを認めるのが恥ずかしいかもしれないシャオメイに、別のいい訳を与えた。


「はい……」


 するとシャオメイは恥ずかしそうに頬を染めながら、さっきよりも更に強くしがみついてきた。

 怖いかも知れないのなら、あまり高速で飛ばないほうがいいだろうな。


 私は普段の七割程度の速度で飛んで、ゆっくりと屋敷へ戻っていく。


「あれ?」


 気になるものを見つけて、私は空中で止まった。


「どうしたんですかアレクサンダー様」

「あれ」


 指さすさきをシャオメイが見た。


「あっ、人が襲われてます」


 魔法学校と帝都を繋ぐ、ものすごく整備された高速街道に一台の馬車が走っていた。

 それを数頭の馬に乗っていた人達が追いかけて、攻撃をしかける。


 馬が殺され、馬車は横転した。

 横転する直前に乗っていた者――二人の女の人が抜け出して、今度は走って逃げた。


 それはすぐに追いつかれた。


 片方は鎧をまとった騎士姿の女だった、こっちはまだいい。

 もう片方は上質なドレスを着た、お嬢様だかお姫様みたいな格好の子だ。


 見た目通りあまり走れないその子をつれて逃げる女騎士はすぐに追いつかれて、馬にのった連中に取り囲まれる。


 これは……どう見ても。


「たすけなきゃ」

「だよね」


 私は再び飛び出した。

 さっきに比べるとナチュラルに私にしがみつくシャオメイを連れて襲撃の現場に飛んでいく。


「げっへっへ……手こずらせやがって」

「こっちもおおっぴらにうごけねえんだ、あんまり手間かけさせるんじゃねえよ」

「それもここまでだがな」


 着地する寸前、聞こえてきた言葉、見えてきた襲撃者の格好。

 てっきり盗賊か追い剥ぎの類だと思っていたが、どうやらそうじゃなく何か訳ありのようだ。


「さあ観念しろ」

「くっ――」


 女騎士が腰の剣に手をかけ、抗おうとする。


 そこに私が飛び込んだ。


 シャオメイを抱いたまま着地して、背負ってる賢者の剣を抜き放ち、襲撃者全員の武器を破壊する。


「なっ!」

「てめえ何者だ!」


 私の出現に驚く襲撃者達。

 困惑に動きを止めている所に、更にたたみかける。


「いって、みんな」


 号令をかけると、男達の背後からメイド達が出現した。


 遮蔽物のない街道、密集している所に繋がっている私と男達の影。

 私の影に住んでいるメイド達は、繋がっている別の影からも出てくる事ができる。


 令嬢メイドが一斉に男達の背後から出て、手際よく彼らを縛りあげた。


 男は全員馬から転がり落ちて、メイド達は再び影の中に戻る。

 ひとまず場が収まったのを確認して、私は襲われた二人の方を向いた。


「大丈夫なの――大丈夫だよ」


 声のトーンを意図的にやさしくする。


 襲われて逃げていた二人。女騎士はお嬢様の方をかばって、私に剣を向けている。

 向こうからすれば私も警戒対象にみえるんだろう。


「通りすがりの者だけど害意はないよ」

「……」


 女騎士は私を値踏みするかのようにじっと見つめる。


 こいつは信用出来るのか……という声が聞こえてきそうな視線だった。


「失礼ですよ、ゼラ」

「おひ――リーチェ様……」

「剣を納めなさい。どう見ても私たちを助けてくださった方ではありませんか」

「……御意」


 ゼラと呼ばれた女騎士は言われた通り剣を納めた。

 警戒は解いていないあたりが、生真面目というか忠誠心が高いというか。


 一方で、シャオメイが私に男達の処遇を聞いてきた。


「アレクサンダー様。この人達はどうしますか?」

「アレクサンダー!?」


 それに激しく反応したのがゼラだった。

 彼女は更に私をじっと見つめる。


 さっきとは違う種類の視線で。


「年齢は合う……特徴も……本物なのか?」


 ぶつぶつと何かいってから、おそるおそると聞いてきた。


「もしや、アレクサンダー・カーライルなのか?」

「うん、そうだよ。キミたちは?」

「ほ、本物である証拠は」


 ゼラはそれを聞いてきた。


「難しいね。一応こういうのを持ってるけど」


 私は常に肌身離さず持ち歩いてる、必要な時に使う紋章入りの羊皮紙を取り出した。


「本物ですわ」


 反応したのはリーチェだった。

 彼女は一枚の封書を取り出した。

 開封されているが、封の所に私の印が押されているもの。


「失礼しました!」


 ゼラはパッと頭を下げた。

 疑う所も、すぐに頭を下げるところも、いかにも堅物の女騎士っぽい。


「僕を探してたの? 何の用かな」

「姫様の、リーチェ王女殿下の亡命を手伝っていただきたく!」


 亡命?

 私はリーチェの方を見た。


 彼女は、救いを求める目で私をじっと見つめていた。

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