表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/198

13.善人、トラブルメイカーも受け入れる

 夜、カーライル屋敷。


 サネット村のお祭りが終わって、屋敷に戻ってきた私は父上の執務室にいた。

 執務室の中には父上と私、そしてチョーセンの三人。

 座っている父上、横に立つ私、正面に罪人の如く立たされるチョーセン。


 私の書斎ではなくここなのは、チョーセンは今父上に預かってもらってるからだ。


「なぜサネット村にいた」


 詰問も、私ではなく父上が行った。


「こ、国父様のメイドだからですわ」


 父上に気圧されつつも、チョーセンは強がって答えた。


「私は屋敷にいろ、と言った」

「うっ……」

「アレクのそばにいたい。それ以外の申し開きは」

「ありませんわ」


 チョーセンは即答した。

 トラブルメイカーだが、すがすがしさも感じる。


「わかった。アレク」

「はい、父上」

「処分はお前に任せる」

「いいのですか父上」


 思わず眉をひそめて聞き返した私。

 もちろんこの件だけの話ではない、字義通りではない。


 チョーセンが姿を見せる前、つまりソウルイーターが現われる直前に、父上とエリザの話をしていた。

 エリザが「チョーセンを切れ」と忠告してきたことを父上に話している。

 それなのに、父上はチョーセンを私に返してきた。


 ……いや、それだから、か。


「なにをいう、お前のメイドだろ」

「……それもそうですね」


 私はゆっくりチョーセンに向き直った。


「待ってください国父様」

「なんだい? 何か追加で申し開きが?」

「いいえ」


 チョーセンはものすごく落ち着いていた。


「もう少しで到着するはずですわ」

「到着?」

「ええ」


 どういう事なのかと不思議がっていると、執務室のドアがノックされた。


 入って来たのは、父上のメイド。

 元メイド長で、アメリアにそれを譲った後は父上の身の周りの世話だけをしている。

 一応目付け役ということだが、アメリアはちゃんとやっているのでそれも有名無実だ。


「旦那様、お客様がお見えになられてます」

「客? こんな時間にか?」

「オーイン公爵のご家人との事で」


 私と父上が揃ってチョーセンを見た。


「来ましたわね」


 チョーセンが笑顔でいうと、私は父上で互いを見比べたのだった。


     ☆


 玄関に出ると、そこに二人の少女がいた。


「お姉様!」

「来たわよ」


 二人は私の隣にいるチョーセンにまず視線がいった。

 すぐに駆け寄らなかったのは、私と父上――公爵と国父が目の前にいたからだろう。


 その二人の向こうに荷物がある。

 どう見ても旅程度じゃすまない、引っ越しのような荷物だ。


「これはどういう事なのチョーセン」

「妹達を全員呼び寄せましたわ。どうか国父様のメイドにしてくださいませ」


 猪突猛進でトラブルメイカーだが、私への信奉は本物のチョーセン。

 彼女はこいねがうような口調で、私に言ってきた。


「それはいいんだけど、全員?」

「はい、わたくしたちは三姉妹ですわ」

「それは、いいの?」


 さすがに驚いた。


 私の周りに次々と令嬢メイドが送られてきたのは、本人達はともかくその父親達からすれば、一種の政略結婚のように捉えている。


 正室はアンジェ、そう決めて公言もしている私は、今まで山ほどのお見合いのような話を断ってきた。


 ホーセンの「1000から先は数えてない!」がその数の多さを物語っている。

 それをメイドなら受け入れる、というのが知れ渡ったものだから、みんなこぞって送ってきた。


 だからこそ、そういう性質があるからこそ、みんな「一人」だけなのだ。


 娘が複数いるところは一人を、娘がいないところは急遽養女にとってそれを送り込む。

 そういうのがほとんどだった。


 養女を取ってでも私の所に送り込んできたのは、貴族になって十数年たつとはいえ、初めての事でちょっと驚きもした。


 それはともかく。

 どこもかしこもコネを作る為に一人だけ送ってきたのに、チョーセンは自分だけじゃなく、妹達も招いた。

 しかも、全員。


「本当にいいの?」


 びっくりしすぎて、思わず二度聞いてしまった。


「おっしゃりたいことは分かります。ええ、お父様とケンカになりましたわ。もちろんねじ伏せましたけど」

「そこまでしたの?」


 これは完全にオーイン公爵が正しい。

 卵を全部一つのバスケットにぶち込むのは戦略的に愚かな行為だ。


「当然ですわ。国父様のおそばが世界一幸せなのです。お父様は男だからおわかりになってませんの」

「私は男だが分かるぞ」

「公爵様はもっと、国父様のお父様という立場が、いかに恵まれていると自覚なさった方がよろしいですわ」

「……うむ、これは猛省案件だな」


 いやいや父上、そこで納得させられてどうするんですか。

 というかあなた今軽く説教されましたけどいいの? 内容アレなんだけど。


 ……いいんだろうなあ、父上のことだから。


 一方で、父上をしかりつけた(、、、、、、)チョーセンは、私の事をまっすぐと見つめて、許しを乞うてきた。


「妹たちも、どうか国父様のメイドに」

「……」


 本物だった。


 思い込みが強くて言うことも聞かないしそれで色々トラブルを起こしてきたけど。

 チョーセンの思いは本物、そう感じた。


 まずは……二人の妹はまだ何もやらかして(、、、、、)ないから。


「分かった。二人ともメイドにするよ」

「ありがとうございます! ほらあなた達も」

「あ、ありがとう!」

「ちゃんと働くわ」


 そして、チョーセンは……。


「チョーセン、キミの事だけど」

「はい」


 チョーセンは迷いのない目を私に向けて来た。


「キミも僕のメイドに戻って」

「いいのかアレク」

「はい父上、目の届くところにおいた方が、まだ」

「そうか、それもそうだな。ではチョーセン・オーイン、お前の罰を今この場を持って解く。これからちゃんとアレクのために働くように」

「もちろんですわ」


 チョーセンはさも当然と言わんばかりに、胸を張って言い放った。

 メイドの態度じゃないねそれ。


「あれ?」


 話が一段落したところに、屋敷のドアが開いて、エリザが入って来た。


「ご主人様? どうしてこんな所に? それにお客様?」


 屋敷に入ってきたエリザは私を「ご主人様」と呼んだ。

 それはつまり、またメイドをしに来たと言うことだ。


 そのエリザに対して、チョーセンが。


「あなた、またサボってましたの?」


 と怒った。


「サボリじゃないわよ、ちゃんとご主人様に認められてる休暇なんだから」

「いいえサボリですわ。そもそもあなたは国父様のメイドだという自覚がないのですか。なぜこうもいちいち休暇を取っていなくなることが出来るのですか?」


 思いっきり説教してしまうチョーセン。


 なんともすごい光景だった。

 公爵令嬢が皇帝に対して「メイドの自覚はあるのか?」と説教している。シュールな光景だ。


 もっとすごいのは、父上もチョーセンもそれをおかしいと思ってなくて、さらに――


「あるわよ、メイドの時はちゃんと働いてる」


 エリザさえも同じリングに立って話をしている所だ。


「……ねえチョーセン」

「なんですか?」

「もしもさ、ものすごい人が僕のメイドだったら、どうする?」


 あまりにもエリザとのやりとりがすごかったので、思わず聞いてみた。

 その質問をされたチョーセンは迷いなく即答した。


「アスタロトの事ですわね」

「え?」

「国父様が神を従えているのは周知の事実。しかし例え神だとしても何も変わりませんわ。国父様のメイドなら何者だろうとただのメイドですわ」

「いや神じゃなくて、もっとわかりやすいすごいの」


 皇帝とか。


「なんであれ一緒ですわ」


 やっぱり迷う事なく即答するチョーセン。


 ……すごいな。

 私が思っているより、チョーセンはすごい女の子だった。


「メイドとしての自覚って話ならこっちも言わせてもらうけど、ご主人様の命令無しに勝手に動くメイドってどうなのよ」

「うっ、そ、それは……」

「自分の判断で動きたければせめてメイド長になりなさいよ。ただのメイドにそれはありえない。そうでしょう」

「ぐぬぬぬ……」


 同じステージでエリザにやり込められているチョーセン。


「国父様ならその程度の事でびくりともしませんわ」

「ご主人様に迷惑だってわかってかけるんだ、メイドが」

「ぐぬぬぬ……」


 更に反撃しようとするが、やっぱりやり込められるチョーセン。


 彼女は屋敷に来たときと何も変わらないし、これからも多分なんだかんだでトラブルを起こすだろうなあ……と思ったけど。


 ぎゃあぎゃあいいあうチョーセンとエリザの姿を見て、多分大丈夫かなあ、と私は思ったし。


「あ、あの……これからよろしくお願いいたします」

「あなたのために働くわ」


 チョーセンの妹達は嬉しそうで、早速幸せそうな顔をしているので。

 これでいっか、と思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
それでいいのか。仮に、鷹狩りのこととかを許すとしても、「姉妹をほかの貴族の嫁に行かせるのではなく、メイドとして働かせるっていう表向きの罰を与えて、実はアレクのもとで働けるという褒美なんだ」みたいなこと…
[気になる点] だだ甘裁定。 鷹狩りの場で仕出かした事は、不敬罪または国家転覆罪に問われて当たり前の事柄。 鷹狩りの場で許したとしても、仕える主に迷惑を掛ける時点で使用人として使い物にならず。 まし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ