05.善人、無限自動レベルアップする
庭でテストをした。
モリソン山モチーフの大岩、修復されて以来、本来の役割である景色の一部としてそこに居続けたが、またテストに付き合ってもらう事にした。
大岩に手をかざして、物質変換の魔法を使う。
人も登れる、登り切るには意外と体力が必要な大岩が黄金に変わった。
私の体から淡い光が放たれた。
魔力が回復した。
手をかざしたまま、更に物質変換の魔法。
黄金の大岩が、今度は白銀に変わった。
更に光が放って、魔力が回復。
今度は白銀を鉄に変えた。
鉄の次は銅、銅の次は元の岩に、そしてまた黄金と。
物質変換の魔法をループさせた。
魔法を一回使う度に、魔力が一割回復する。
物質変換の魔法は消費が一割以下だから、延々と、無限に魔法を使い続けられる。
消費一割以下の魔法――99.99%の魔法がそうだが――は、事実上無限に使い続けられる。
物質変換の耐久ループを、その場でし続けた。
朝起きた所で始めて、太陽が真上に来る真昼になっても、私の魔力は満タンのままだった。
これはかなり強い能力だ。
SSSランクの私であっても、あらゆる能力が「高い」だけで、「無限」ではなかった。
無限というのはまた別のステージだ。
「……これって、もしかして」
頭の中であるひらめきが浮かび上がった。
ひらめきを一度形にまとめて、賢者の剣に可能性を問う。
可能性はあるが、前例がないため確実にとは言い切れない、という返事が返ってきた。
「でも、理論上はいけるよね」
ならば、と。
私は試すことにした。
☆
モリソンの大岩を元に戻してからその場を離れ、カラミティを訪れた。
屋敷の一角で静かに眠っているカラミティ。
帝国の守護竜は、空の王カラミティ。
彼はこの屋敷に来てから穏やかな日々を過ごしている。
「カラミティ」
「主……私に何か用か?」
「うん、また体の一部をもらいたいんだけど、いいかな」
「喜んで」
カラミティは即答した。
迷いとか一切なかった。
「何をご所望だろうか」
「鱗を一枚」
「承知」
カラミティは鋭い爪で、器用に自分の鱗を一枚剥がして、私に差し出した。
それを受け取った。
龍の鱗、光に当てると微かに虹色に輝いて見える。
それにこうして持ってみると、ただの鱗なのに内包する魔力が相当なことが分かる。
「……」
カラミティは沈黙したまま何も話さないが、目はじっと私を見つめている。
好奇心に満ちた目だ。何をするのか、というのを知りたくてたまらないって目だ。
「これでちょっとしたアクセサリーを作るんだ。そうだ、カラミティ」
「なんだろうか」
「僕に似合うアクセサリーって何だと思う?」
「主に……女?」
「そういうホーセンみたいなのはいいから」
私は苦笑いした。
ホーセンの豪傑理論。男は酒と汗と女の臭いをひっつかせてなんぼだ、みたいな話をされた記憶がある。
カラミティの「女」というのはそれにすごく近いニュアンスを感じた。
「そうじゃなくて、一般的なアクセサリーという意味で」
「むぅ……」
呻くカラミティ。
空の王はしばし頭を悩ませた後。
「すまぬ主、私には知識の範囲外のようだ」
「そっか。しょうがないよね。男同士、そういうのはよく分かる」
私も自分でもよく分からないからカラミティに聞いた位だ。
自分に似合うアクセサリー。
イヤリングはなんか違う気がするし、チョーカーも違う。
ネックレスは普段見えないようにするからダメで、指輪はまずアンジェとのものをつけたい。
アクセサリー類の発想がそもそも少ない上に、あれこれと否定してったらなにもなくなった。
ちなみにこの場合賢者の剣も役に立たない。
あらゆる知識はあっても、「何が一番似合う」という判断力を問われるものには弱いのが賢者の剣だ。
「主は、その剣を振るっている最中がもっとも輝く」
意識が賢者の剣にいって、それをちらっと見たのを気づかれたのか、カラミティがそんなことを言ってきた。
「そうなの?」
「疑う余地もなく」
これまた即答で肯定してきたカラミティだった。
「そっか……賢者の剣か……」
私は少し考えた。
確かに賢者の剣はいつも持っている。
アクセサリーにこだわったけど、賢者の剣でも同じことが出来るじゃないか。
「ありがとうカラミティ」
「恐悦」
「じゃあ賢者の剣にするよ。上に被せるって感じでいいのかな」
そう言いながら、賢者の剣を抜き放つ。
刀身にそっと触れて、もらったばかりのカラミティの鱗をそっと当てる。
魔力を込める。
鱗が少しずつ溶け出して、賢者の剣と融合していく。
鱗が完全に刀身をコーティングした後、指でなぞって、魔法陣を描く。
術式が発動して――。
「光った……否、変化する?」
「うん」
頷く私。
賢者の剣は今までヒヒイロカネ特有の輝きを放っていたが、カラミティの鱗でコーティングした後は変わった。
一秒間隔で光を放って点滅し、虹のようにその色合いが徐々に変化していく。
「ふっ」
剣を軽く振ると、刀身が残光を曳いていた。
「上手くいったね」
「お見事」
「見た目もいいけど、カラミティなら何か感じる事があるはずだけど?」
「……魔力、であるか?」
「そっ」
にこりと微笑む私。
「この見た目の効果は、『自動的に所持者の魔力を消耗して維持する』ものなんだ」
「自動的に」
「一秒ごとに一割消耗」
「それでは十秒も持てば虚脱状態に」
「うん、でも僕は今、魔法使用で魔力回復の力を得ているから。使う度に一割回復」
「差し引きゼロ、永久に持てるという訳か。さすがは主。そして――さすがは主」
同じ言葉を二度言ったカラミティ。
さすがカラミティ、気づくのが早い。
魔力と筋力って実はかなり同じものだ。
使えば使うほど、鍛えられて向上していく。
魔力回復と、自動消費。
この二つの組み合わせで、私は、常に筋トレならぬ、魔トレをしているような状態になった。