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12.善人、メイドたちに求められる

「アメリア、ちょっといいかな」


 屋敷の中、お掃除をしているメイドのアメリアを呼びとめた。

 私に呼ばれたアメリアは掃除するをとめて、手をエプロンで綺麗に拭きつつ、こっちを向いた。


「はい。なんでしょうかアレク様」

「ちょっと協力、いや手伝って欲しい事があるんだ」

「……」


 アメリアは口をあんぐりと開け放った。


「どうしたのアメリア、そんなに驚いたりして」

「――はっ! いえなんでもありません!」


 アメリアはブンブン手を振りながら。


「アレク様のお力になれる事なら何でもします! なんでも言ってください!」

「ありがとうアメリア」


 アメリアに影の件を説明した。

 私の影に入ると、その人が持つ能力を私にも使える様になる。

 その事と、今の所ドロシーでしか試していない事を説明して。


「だから、アメリアに入ってもらって、アメリアのスキルを僕にも使える様になるか試してみたいんだ」

「はい! 頑張ります!! でも……アレク様に出来なくて私に出来るようなスキル? なんてあるのかな」

「謙遜しないで」


 僕はアメリアに微笑んだ。


「アメリアはすごいメイドだよ。アメリアに出来て僕にできない事がいっぱいある」

「……」


 またまたポカーン、としてしまうアメリア。


「これこそ釈迦に説法だけど、メイドのお仕事って知識だけあってもだめな事多いよね。見てて分かるよ。階段の手すりの磨き方一つとっても力加減が違う。入ってくる時の角度が一番ピカピカに見える様に磨いてるよね」

「……」

「アメリア?」

「……はっ、すみませんジーンって来ました! そんなに見てくれてたんですね」

「うん。いつもありがとうねアメリア。それで、協力してくれるかな」

「もちろんです! アレク様のためならなんでもします。私を好きに使ってください!」


 気合を入れるアメリア。

 彼女の協力を取り付けた事で、影斬りの短刀を渡した。


「では、失礼します……」


 アメリアは短刀を受け取って、おそるおそる、って感じで私の影の横にしゃがんだ。


 貴族の屋敷はガラスをふんだんに使って採光をよくしているから、室内でも普通に影が出来る。


 その影をアメリアが斬って、中に潜り込む。


「……来たか」


 アメリアが私の影に入ったことで、彼女のスキルが使える様になった。

 頭と体、両方で何となくやり方がわかった。


 アメリアの仕事を引き継いで、部屋の中を掃除する。


 実はかなり昔に試した事がある。

 賢者の石を手に入れた直後に、メイドの知識を引き出してみたけど、知識だけで色々とうまくはできなかった。


 その時とはまったく違った。

 同じ知識で同じことをやっても、今度は上手くいった。

 アメリアの経験、それとスキル。

 それらが、メイドのお仕事を上手くいかせた。


 私は一通り、キビキビとした動きで部屋の掃除を終わらせた。


「こんな所かな。うん、もういいよアメリア。出ておいで」

「……」


 私に呼ばれて、影から出てきたアメリア。


「アメリア?」


 彼女は何故かぼうっとしている。


 目がトロンとしてて、肌が上気している。


「アメリア?」

「――はっ!」


 ちょっと強めに呼んでみると、彼女は我に返って、慌てて取り繕った。


「す、すみませんアレク様!」

「どうしたの?」

「その……アレク様の中がポカポカしてて」

「ああ、ドロシーもそんな事いってたね」


 そこは同じ風に感じるのか。


「それで体が熱くなって、なんだか気持ちよくなって、なにも分からなくなってしまって……」


 影の中にいるのを思いだしたのか、アメリアは上気したまま、頬を抑えて「ホゥ」と吐息を漏らした。


 同じような感覚でも、ドロシーとは感じ方が違うみたいだな。

 まあ、そういうのは個人差があって当然だろう。


 人の趣味は千差万別、同じ食べ物でも熱いのがいいって人もいればぬるいのがいいって人もいる。


「ありがとう、アメリア」

「ううん……こちらこそ」


 それにしても面白い反応だ。

 まるで……いやそれは考えすぎか。アメリアに失礼だ。


     ☆


 その日の夜、メイドサロン。


 カーライル屋敷ではメイドの住むブロックと屋敷の主達の住むブロックで分かれている。

 同じ屋敷内だが、構造的に隔離、独立されている。


 庶民で言うところの二世代住宅、それをもっと大げさにしたのがカーライル屋敷だ。


 そのカーライル屋敷で、独立したブロックの中に、メイド達が共通で使えるスペースがある。


 朝は点呼、業務連絡のため。

 夜はメイド達のプライベートの連絡のために。

 と、朝夕でその役割が大きく違うスペースだ。


 そのサロンで、アメリアと仲の良い数人の若いメイド達が喋っていた。


「それ本当?」

「うん、本当。熱いくらい温かくて、気持ちよくて、すごく満たされて……。あんなの初めて」

「わあ……」

「それって、あたしも話でしか聞いたことないけど、……と同じだよね」


 若いメイドの一人がアメリアに聞く。

 一番重要な単語が恥じらいのためものすごい小声になって聞き取れなかったが、その場にいるうら若き乙女メイドたちは全員がその意味を理解していた。


「私も経験ないけど」


 アメリアはそう前置きした上で。


「でも、同じだと思う。アレク様を思って自分で――の時と似てるから」

「そっか……」

「いいなあ……」


 アメリアが語る体験を、メイド達は憧れの目で思いをはせた。


「ねえ、それ、私達もだめかな」

「え?」

「だってそういう事(、、、、、)じゃないし、アンジェ様に遠慮する事もないでしょ」

「「「たしかに!」」」


 メイド達が声を揃えていった。


 全員が同時に目を輝かせた。


 アレクは知らない。

 アンジェが常にそばにいるのと、精神年齢が枯れる域に片足を突っ込んでいる事もあいまって。


 お膝元で、彼を強く慕う妙齢の女性達が多いことを、アレクは気づいていなかった。


     ☆


 翌日。

 朝起きて、アンジェを練習のためにカラミティの所に送り出したあと。


 さて今日は何をするか、と思っていたその時。


 コンコン、とノックされて、大勢のメイド達が入って来た。


「どうしたのみんな。アメリア、これは?」


 先頭に立つアメリアに聞く。

 メイド達は全員期待しているような顔をしているのを不思議におもった。


「アレク様、お願いがあります!」

「うん? なに?」

「みんなも、アレク様の中に入れさせてください!」

「僕の中? 影ね」

「「「お願いします!!」」」


 毎日顔を見ている若いメイド達が、一斉に私に頭を下げてきた。


 私は少し考えた、アメリアを見た。

 彼女の魂が少し浄化されている。


 それは他のメイド達にも同じ影響が出るのだろう。

 お願いしてきた理由は分からないけど、影の中に入れる事は悪いことじゃない。


「断る理由がないね」


 私がそういうと、メイド達は一斉に顔をほころばせて、ものすごく喜んだのだった。

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