09.善人、魂を浄化する
反乱を制圧した後、ほとんどは初めてだったからいつも通りに手にマジックカフスをかけて、主犯の男は首にかけた。
それでも……ならもうしょうがないだろう。
その処理を終えた後、飛行魔法で屋敷に戻った。
庭に降りたって、しばらく歩く。
目当ての相手を見つけた。
「カラミティ」
「主か」
守護竜は巨体をまるでネコの様に丸めて、庭の一角で寝そべっていた。
私がやってくるのに気づいて、顔を上げた。
「ちょっと協力して欲しい事があるんだけど、いいかな」
「主のためなら、身命すら慮りの外である」
「そんなに大それた事じゃないよ。魔法は出来るよね、一通り」
「どのようなものをご所望か」
「強化魔法、それと弱体魔法。簡単なものでいいから、すぐに効果が出るようなものを僕にかけて」
「承知した」
カラミティは魔法陣を展開した。
ドラゴンが寝そべったまま魔法陣を展開する姿は神々しく見えた。
魔法の光が私を包み込む。
「これでよいか」
「どうかな」
私は下を向き、問いかけた。
太陽を背負っているので影が前に来ている、そこから顔を出すドロシーと向き合う形になった。
「強くなった」
ドロシーはそう言って、すぐそばにある庭石に手を伸ばす。
親指と人差し指で庭石をつまんで、粉々にした。
「ちゃんとパワーアップしてるね。やっぱりパワーアップも君に行っちゃうんだね」
「うん」
「カラミティ、次お願い」
「承知」
カラミティは更に魔法をかけてきた。
上半身だけ出してきてるドロシーの目がトロンとして、そのまま眠ってしまった。
「睡眠魔法か」
カラミティの協力で、次々とテストした。
強化魔法、弱体魔法、そして純粋な攻撃魔法。
種類にかかわらず、私の影の中にいる時は、全てがドロシーがうける事になるみたいだ。
「……」
一通りテストを終えた後、ドロシーはなにも言わなかったが、目が輝いている。
これで恩返しが出来る――心を読めなくても、ドロシーがそう思ってるのがはっきりと分かる。
それなら、もうちょっと喜んでもらおう。
「カラミティ、もうちょっとテストに付き合って」
「なんなりと」
「今度は僕から行くよ」
目を閉じて、ドロシーの存在を感じ取る。
カラミティに魔法をかけてる間、念の為に色々分析をしてた。
その結果面白い事がわかったので、それを実行した。
目を開けて、カラミティを見る。
「あっ……」
まず反応したのはカラミティではない、ドロシーだった。
本人にはすぐに分かったみたいだ。
「どう、カラミティ。動ける?」
「動く? ……むぅ」
カラミティはびくっ、びくっとした。
もがいているが、動けない。
金縛りにあったような感じだ。
「これは主が?」
「私の魔眼……?」
カラミティとドロシー、二人に頷く。
「うん、ドロシーの魔眼だよ」
「うそ……それは私が生まれ持ってきたもの」
「使ってみてよく分かったよ。これは特殊なスキル、使うには血――血縁という意味の血がいるね」
「うん」
「ドロシーが影に入っている間僕にも使える、そうなったみたい」
「そう……」
ぼそりとつぶやくドロシー。
字面だけ見れば寡黙な人の無関心な反応だが、彼女の目はさっき以上に輝いている。
出会ってからで一番ってくらいの輝きだ。
魔眼によるカラミティの金縛りを解いてやった。
一連の事で、出来る事をまとめた。
ハーシェルの秘法をホムンクルスと影縫いの短刀と組み合わせた結果、私の影に入ってる人物の固有スキルを使えるようになるし、その相手は私にかけた魔法などを肩代わりする。
今だとドロシー、それにサンがそれを出来る。
色々使いでのあるコンビ技だ。
他に何か……と思っていると。
「主」
「うん? どうしたのカラミティ」
「その魔眼を本人に使えばどうなるのだろうか」
「なるほど。さすがカラミティ、着眼点がいい」
それも確かめた方がいいことだろう。
固有スキルを本人に使った場合どうなるか。
確かにやって置いた方がいい。
「という事で、使ってみるよドロシー」
「うん」
「じゃあ――え?」
彼女を改めて見た瞬間、思わず動きが止まった。
魔眼でとまったんじゃない、見えた「彼女」の存在でとまった。
「なに?」
キョトン、と首をかしげるドロシー。
そんなドロシーは白かった。
魂が、白かった。
神格者としての能力で、ちょっと前まで暗殺者のドロシーの魂が黒く見えていたのが、白く変わっていた。
その事を話すと、ドロシーは何が何だか、って顔をしたが。
帝国の守護竜でもとから超越した存在であるカラミティは。
「主を、神の身替わり、神を守るという行為が善行とカウントされたと推測する」
「……あ」
なるほど、そういう解釈か。
「主の奇跡、であるな」