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プロローグ 善人、生まれ変わる

 生前の行いで次の人生が決まる。


 罪を犯せば犯すほど次の人生は悲惨なものになるし、逆に善行を積めば積むほど生まれ変わった先で報われる。

 因果応報は、来世にも適用される話だ。


 私は今、死後の世界にいる。


「あーダメですね、あなた山賊やって人を461人も殺しましたね。Fランク。来世はミジンコ、再来世が豚。人間に戻るのはその次ですね」

「一人を事故で死なせましたね。でも治癒魔法で何人も助けてますね……差し引きCランク。次は平民の家に生まれ変わります」


 まるでお役所的な所で、ほかの死者が次々とジャッジされてる中、私は静かに行列に並んでいた。

 次々とランク分けられて、記憶を消去されて転生していく人達を見る。


 いろんな人の人生が見えて結構面白い。

 生きてるうちに絶対ばれない様な秘密も、こっそりやったいい事も、ここじゃ赤裸々に暴かれる。


「ふざけるな! この余が下賤な平民に生まれ変わるなど間違っている!」

「悪逆姦淫の限りを尽くしただろう、観念しろ!」


 たまにジャッジを聞いたあと暴れだして、文字通り往生際が悪いやつもいる。

 今もものすごい有名人、帝国の皇帝がDランクのジャッジを下されて、次の人生は貧民かつ運が悪い人生になることが決定してしまった。


 権威を笠に着せて暴れ回るが、そんなものが通用するはずもなくすぐに取り押さえられた、記憶消去の聖水を飲まされて、行列の向こうにあるでっかい穴に突き落とされて、新しい人生に転生していった。


 そうこうしている間に、私の番になった。


「えっと、魂ナンバー1986397479、人間名ジャンティ・カインドさんですね」

「ええ、魂ナンバーなんてのは初耳ですが」

「あはは、それを知ってたら逆に困りますよ」


 目の前の翼をもった女の人が屈託のない笑顔で笑った。


「今からあなたの生涯の善行と悪行を精算します、規則で三つまでアピール出来ますけど、どうしますか?」

「お任せしますよ。今までみてると何を言ってもたいしてかわりありませんので」

「いえいえ、とんでもない悪人が最悪の事態を免れる事もありますよ、ほら」


 女の人は横を指さした。

 そこであきらかに盗賊っぽい男が必死に考えた結果。


「あったぞ! あった、子どもを助けた。腹減ってるガキに残飯をくれてやった」

「確かにありますね。わかりました、じゃあ次の人生は犬です、ちゃんと犬としての人生をまっとうすればその次からまた人間に戻れます」

「えええええ!? いいことしたのに!?」


 男は記憶を消去されて、ほかの人間と同じように穴に突き落とされ、転生させられた。


「あの人、あれを絞り出さなかったら貝になってました。海底で100年近く生きることになるところでしたよ」

「なるほど」


 アピールはまったく意味がない訳でもないって事か。


「それでも大丈夫ですよ、もう終わった人生ですし、ジタバタしてもしかたありません」

「潔いですね、そういう人好きです。じゃあ精算、始めますね」

「お願いします」


 女の人――多分言い伝えにある天使だろう――はものすごい勢いで書類をめくり始めた。

 手元にある、見た事のない機械にその都度あれこれ書き込んでいく。


 急に、その手がピタッと止まってしまった。


「ふぇ!?」

「どうしました? そんな素っ頓狂な声をあげて」

「これは……いえしかし、ありえない」

「え?」

「すみません、ちょっと待ってください?」


 天使はそう言って、ほかの天使をよんだ。

 周りにいる多分同僚の天使が次々と彼女周りに集まって、おかげでほかの列が完全に止まってしまった。


「それはちょっとありえないだろ」

「私もそう思うわよ、でも検算しても同じ結果になるんだもん」

「私もいまやりました。彼女の結果で間違いないです。信じられませんが」

「僕も同じ結果出ました。いやあ500年ぶりですね、ここまでの結果がでたのは」


 天使達があつまって口々に何か言い合うが、どうやら最初の天使の精算でだした結果で間違いないようだ。


 それを全員が確認して、一度頷き合ってから、それぞれ担当の場所に戻っていた。

 そして、こっちの担当の天使は。


「お待たせしました。結果がでました」

「はい」

「あなたはSSSランク、びっくりする位の善行を積んできましたね」

「はあ」


 びっくりする位の善行って言われても。

 そりゃ、悪人ではないとおもうけど、というか悪人にだけはならないようにって生きてきたけど。


 びっくりする位の善人って言われてもピンとこない。


「SSSランクには特例として二つの選択肢が与えられます。一つは神になれること」

「神?」

「はい、ざっくり言うと私たちの上司ですね」

「はあ」

「興味なさそうですね。人間から神になれるんですよ。ちなみにSSランクだと私たちと同じ天使になります」

「なるほど、その差は分かります」


 SSSランクで神に、SSでその一つしたの天使に。

 はっきりしててわかりやすい。


「もう一つの選択肢というのは?」

「人間に転生する事です。神様になるほどのものじゃないですが、人間の中では恵まれた人生になります。まあ、とは言ってもせっかくのSSSランクですし、神様になることをお勧め――」

「では人間で」

「――しますってふぇっ!」

「人間でお願いします」

「いいんですか? SSSランクなんですよ? 神様になれるんですよ?」

「ええ、神様はよく分かりませんので。人間だと今回よりもいい人生になりますよね」

「SSSランクだからもちろんですよ! はあ……変わった人ですね。わかりました、ではSSSランクで人間に転生、ってことで」


 天使は手元の書類にポン、とハンコをおした。


「では、これから転生させますね」

「ええ、分かってます。あそこから跳び降りればいいんですね」

「はいそうです、その際――」

「分かってます。ごねませんよ、さっきからそれでご迷惑を掛けている人をたくさん見てきましたので」


 スタスタと大穴に向かっていく。

 さっきから転生する人はみんなこの穴に突き落とされてる。


 駄々をこねた人間ほど、手荒に突き落とされたりする。


 天使もみた感じ大変な仕事だから、せめて手間をかけさせないようにスルッと飛び込もう。


「では、お世話になりました」

「じゃなくて、聖水を――」


 天使が何かを言いかけたけど、私はひょいっと、躊躇なく穴に飛び込んだ。


 落下感が全身を包む、次々と体の感覚がなくなっていく。

 目が見えなくなって、耳も聞こえない。

 やがて落下してる感覚さえもなくなる。


 …………。


 どれくらい時間が経ったのだろう、少しずつ、感覚が戻ってきた。


 まず触覚だ。

 ぬるいお湯につかされて、ふかふかの布で包まれた。

 次に嗅覚だ、心が安らぐ、いいにおいが鼻をうった。


 そして、聴覚。


「おおおおお! これが私の子か!」

「あなた……」

「よくやった! よくやったぞお前! これが私の子かあ……」

「あなた、この子に名前を」

「もう決まっている。アレクサンダーだ!」

「まあ、それは我が一族の始祖様のお名前」

「うむ! それに相応しい勇敢な男に育つ意味も込めている」

「アレクサンダー……アレク……父上の期待に応えて立派に育つのですよ」


 どうやら今聞こえてる男女の声が、新しい両親の声だった。

 父親の声は勇ましく、母親の声は優しかった。


 いい両親みたいだ。


「そうだ、皇帝陛下に上申して、この子に爵位をもらってこなくては。私の長男、将来はこの家を継ぐ子だ、最低でもまずは男爵位をもらってこんとな」

「いいですわね」

「それと許嫁だ! 待ってろよアレク、この父が素晴しい許嫁を見つけてきてやるからな」

「それは待ってくださいなあなた。許嫁もいいですが、妻になるものはアレク自身に選ばせた方が良いのではありませんか?」

「なあに、好きな人が出来たらそれでいい。許嫁の事嫌いでさえなければ、両方と結婚してしまえばいいのだ。このカーライル家の長男なのだからな」

「それもそうですわね」

「ああ、アレクとその妻の子ども……きっと可愛い子になるのだろう」

「もう、あなたったら気が早い」

「そうか? それもそうだな、あはははは」

「うふふふふ」


 両親は声を出して笑い合った。


 いい両親なのは間違いないようだが、どうやらかなりの親馬鹿みたいだ。

 悪いことじゃない、むしろいい事だ。


 どうやら貴族の家に生まれたが、貴族であるのにもかかわらず色々と理解のありそうな両親。世界で一つあるかないかの珍しい組み合わせだ。

 SSSランクの家に生まれたんだな、という実感が少しずつ湧いてきた。


 ……あれ?


 生まれ変わった……んだよな。

 ならなんで、前世の記憶を持っているんだ?


 普通は記憶が消えるんじゃ……あっ。


 思い出す、転生する前には記憶消去の聖水を飲まなかったこと。

 転生先がきまったらすんなりと受け入れてさっさと転生したから、聖水を飲む事を忘れてたんだ。


 前世の記憶を持ったまま、赤ちゃんとして生まれ変わった。

 これって……いいのか?


 目の前がまぶしくなった、最後になった視覚がもどってきた。


 目の前に男女の顔があった、きっと両親だ。

 そしてその向こうに、半透明になってる見た顔、さっきの担当天使がいた。


 彼女は空にプカプカと浮かんで、困った様な顔をした。

 やっぱり困るよな、すまない。


 さあ記憶を消してくれ。それで新しい人生のスタートだ。


 と、覚悟を決めたのだけど。


「……」


 天使は困った顔で一つため息をついて、そのまますぅ、と消えてなくなった。


 消えた? どうして?

 疑問に思ったが、答えてくれる人はいなかった。


「懸案になってる蛮族の討伐をするぞ! 一掃して土地を奪って、アレクの最初の領地にしてやるのだ!」

「もう、あなたったら」


 聞こえてくるのは親馬鹿二人の声だけ。


 なにがなんだか分からないけど、どうやら。

 私は、記憶を持ったまま、SSSランクの家庭に生まれ変わったみたいだ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 461人殺してもその程度で済むのいいね まあ人殺しはしませんけど
[一言] YouTubeでクソラノベレビューでよく紹介されてますね
[一言] 2年ぐらい前に一巻買いました。 とても面白かったです。
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