七話
「え、なに? 先生って悪魔なの? 初耳なんだけど」
「あら、そうだったかしら? 私、ちゃんと自己紹介のときに言ったはずよ?」
先生が不思議そうな顔で俺に問う。
あれえ?
そんなこと言ってたっけ?
「だから、確認したはずよ。『浄化しないでね』って、新藤くんに」
ああ、あのときか。
確かあのときは……。
「その時ぼーっとしてました!」
大声で聞いていなかった宣言をした俺を見て、苦笑を浮かべるななと、もう卒業したわけだし、特に怒ることもない先生。
「やっぱりかー……」
いや、先生の口調から諦めたという可能性が浮上したきた。
「正樹って、授業とかちゃんと受けてなかったんですか?」
「えーっと、多分ちゃんと受けてたとは思うけど……」
「いいや、受けてないわよ」
「先生ひどい! ちゃんと受けてたでしょう!」
「魔法の実技だけね」
「意外と、ふざけていたんですね。正樹って」
なんだか、ななに俺の学校生活を見透かされたような言い方をされる。
「いやいやいや。そんなことないから! 一応、実技以外の授業もちゃんと受けてたからね!?」
「一応だけどね」
「一応なんですね」
「先生! ななに無駄なこと言うのやめてください!」
「はいはい」
くそ、この人絶対やめないよ。
さっきから、俺がななに説明する度に無駄なことを耳打ちしてくる先生。
「先生。質問いいですか?」
「よろしい」
こういうやりとりを見ていると、失礼だが、宮先生は、本当に先生なんだなー、と、改めて実感した。
「正樹って、なんか悪魔に対して強いんですか? さっきの話を聞く限りだと、正樹が意外と強そうに聞こえるのですが……」
なながちらりとこちらを見る。
あいつ、疑ってやがるな。
しかもさっき、意外とって言ってたよな。
「ななちゃん。いい質問ね」
あ、ななの名前が略された。
どうやら、先生も略したようだ。
「新藤くんの家は、『新藤家』って言われる魔法の名門なのよ。で、その新藤家が得意とする魔法が、悪魔や巨人などに対してのみ爆発的な威力を発揮し、大抵の悪魔や巨人、いや、全ての悪魔や巨人が死ぬ、浄化魔法なのよ。正確には、最強の浄化魔法であれば、なんだけどね」
「へえー。すごいですね!」
ななの俺を見る目が、さっきの疑いの目から、憧れと尊敬の目に変わり、若干恥ずかしくなる。
「……あ、でも先生。正樹の使える魔法って、速度上げる魔法と、障壁発生させる魔法と、瞬間移動系の魔法だけですよ? たくさん見てきたわけではないですが、私、正樹が浄化魔法が使えるとは思えませんが……」
おい。
「ななよ。それは言わないで欲しいのだが……」
「そうなの、新藤くん?」
「いっ!?」
先生の背後から邪悪なオーラが……。
「ざまあ」
こいつ!
「お前わざとやったのか!?」
「さあどうでしょう?」
くそ、こいつ本性を現しやがったな。
「せ、先生?」
「はい?」
あ、ダメだこれ。
もうなにを言っても意味が無いときの笑顔を浮かべている。
「ねえ、ななちゃん。新藤くん借りてもいい?」
「はい! 喜んで借しますとも!」
「ありがとう。新藤くん。こっちに」
最後の『こっちに』だけがすごく暗くて、なにか邪悪なものを感じるし、すごく怖いのだけれど。
「俺、死なないよね?」
俺が先生にそう聞いた理由は、先生に昔殺されかけたからである。
正確には、先生の使い魔に。
使い魔が居る小屋に、授業中寝ていた罰として突っ込まれた俺は、使い魔には餌扱いだったのか、超襲われた記憶がある。
多分、先生も俺が浄化魔法を使えないと思っていなかったのだろう。
なかなか出してくれずに、見つかったときは、もう三時間は優に過ぎていて、俺の魔力
は尽きかけていた。
まあ、直ぐに助けてくれたのだけれど。
しかし、今回はこれを知って、またあれをやろうとしているのだ。
どうなるかわからない。
「多分大丈夫よ」
「多分!?」
「とりあえず、二時間は頑張ってみようか」
に、二時間。
「そこはせめて三〇分に……」
「ダメです」
「いやー!」