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六話


「うっ!」

「正樹!」

 テレポートした俺は、出血していたのにもかかわらず身体に無理をさせて、発動間隔を早めたので、身体が悲鳴を上げ、もうすでに虫の息だった。

「わ、私のせいで正樹がこんな目に……。ど、どうしましょう!?」

 俺は、お前のせいじゃないと言ってやりたかったのだが、もうそんな言葉を発する気力も体力もない。

 最後に俺は、力を振り絞ってななにこう告げた。

「……俺は、今から少し眠る。だから、心配しなくていい……」

 これさえ言えれば満足だ。

 そうして、俺はゆっくりと目を閉じた。


 どこかで見覚えがある、均等に五ミリメートルくらいの穴が開いた、白く塗られた木製の天井。

 俺は今、寝てるのか?

「……ここは?」

 俺の隣にいる、白衣を着用した、女の人に聞く。

「医務室よ」

「医務室?」

 医務室といえば、俺が前に行ってた学校にもあったな。

 俺は、起き上がって周りを確認しようとする。

 が、背中に痛みが走り、腰を少し上げたところで、諦める。

「無理はしない方がいいわよ? 新藤くんの背中の傷、まだすごいことになってるから。ねえ、ななちゃん?」

 なな?

 というか、何故この人は俺の名字を知っている?

 ……なな?

 なな……?

 ん?

 なな、だと?

 俺は、白衣を着た人が、話し掛けた方向に目を向ける。

 で、その方向というのが。

「うお! 近ッ!」

 真横だった。

 腰を下ろし、俺の顔が垂直に見える位置、そこにななの顔はあった。

 ななの瞳は、泣いた後のようで、頬にも少し、涙がつたった証拠である、赤い線の痕が見える。

 さらには、俺と目が合った瞬間、瞳に新たな涙が溜まる。

 そして。

「正樹!」

「イテッ!」

 俺の名前を呼びながら俺に抱きついてくる。

 ななの手は、俺の腰に回され、丁度傷の上にのる。

 その瞬間、激痛が生じた。

 が、それよりかヤバいものを俺は感じた。

 背中から、魚の内臓とかを持ったときのような、グチュッて音と感触が、俺の感覚と耳に伝わった。

「おい、なな。感動のシーンなのは分かったから、ちょっといったん、離れてはくれないか? なんか嫌な予感がする」

「はい……。どうぞ」

 俺は、自分でも痛いと知っていながら、腰の傷口に手を伸ばす。

 グチュリ。

 ああ、やっぱりこの音俺か。

 めっちゃ気持ち悪いんだけど。

 ななが、うわあというちょっと引いたような顔を見せる。

 包帯の上から触れたが、ななにも聞こえたのだろうか?

「なな。あのときのフェンリルの様子、どうだった?」 

「……すみません。見ることができませんでした……」

 ななが俯きながら、実にもうしわけなさそうに謝る。

「別にいいよ。俺だって、知ってるとはおもってないもん」

 ただ、圧倒的なおかしさを感じたのだ。

 俺の見た感じじゃフェンリルの様子で特に変わったことはなかったのだが、どう考えても、いきなり攻撃してくるなんて異常だ。

「それより、あんまり傷には触れないでほしいのだけれど……」

 さっきから無言で、人形のようにベッドの横に立っている白衣を着た女性が、俺に注意をする。

「えーっと。あなたはどちら様で?」

「あら? 新藤くんったら覚えてないの? 先生悲しい」

 ポケットからハンカチを出し、それを目元に当てて、わざとらしく涙をぬぐう素振りをみせる。

 この人どこかで見覚えが……、あ。

「もしかして、宮先生?」

 その白衣を着た女性はニコリと笑うと。

「はい。その通りです」

 まるで、学校の先生のように、正解であることを伝える。

 いや、本当に学校の先生なんだけどね。

「正樹。この人は誰ですか?」

 さっきまで話についていけず、困っていたななが、俺に耳打ちして解説を求めてくる。

 それに対して、俺ももちろん耳打ちして返す。

「宮先生って言って、俺の通ってた学校の、ずっと一緒だった担任の先生。結構面倒見てもらったりしたんだ。いわゆる、恩人的な存在の人だよ」

「あら、新藤くんってば、私のことそんな風に思っててくれたなんて。先生感動でないちゃうわー」

 俺の耳が、ほんのり赤くなる。

「今の聞こえてたの?」

「もちろんよ」

「見事なヘル耳ですね。先生」

「地獄耳と言え、地獄耳と」

「で、あなたは何て言うの?」

「ああ、自己紹介がまだでしたね。先ほどは、正樹を助けていただき、ありがとうございました。私は、前田ななみというものです」

 見た目の幼さの割にしっかりとした自己紹介をしてみせるななを見て、先生は驚きの顔を見せる。

「で、どうしてここに?」

「それは俺から」

 俺は、ななへの質問を代わりに受ける。


「――へえー。ここまで逃げてきたの? 奇遇ね、私も使い魔に追いかけられて、ここに逃げ込んだのよ。私今日、休みの日だったのに、学校にくると、なんか仕事しなくちゃいけない感じになって、いやね」

 先生の、職業病みたいな癖を聞いて、思わず苦笑してしまうななと俺。

 先生って大変なんだなー、と、常々思う。

 て、ちょっと待てよ。

 今先生、『使い魔』っていったよな。

 通常、使い魔を使えるのは、悪魔とかそういう系統の者だけなんだけど。

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