五話
俺の目に映る物が、地獄のような燃え盛る炎から、木造の家で行われているパーティー会場へと変わる。
つまりは俺の家だ。
「うお! どうしたんですか正樹!? 服が焦げてますよ」
「その話は後だ。フェンリル! なな! 俺につかまれ! さっさとここから逃げるぞ」「正樹! フェンリルちゃんが……」
「あ?」
なんだよ!?
この忙しいときに。
フェンリルがまたよくわかんないこと言って動こうとしないのか?
そう思い、俺がフェンリルの方を向くと。
「え? なんで、爪出して……」
「そんなの、フェンリルちゃんの目を見れば分かるでしょう!? 殺す気だからですよ!
ど、どうしましょう!? 私達じゃ勝てませんよ!?」
くそっ、テレポートが使え無いときに限って、こんな目にあうとか、今日の俺はどれだけ運が悪いんだ。
「……あら、随分と楽しそうじゃない」
今、フェンリルとの戦闘が始まろうとしているときに、フレイさん登場。
『プライベート・テレポート』の効果が切れたのだろう。
『プライベート・テレポート』の効果は、その空間から、使っている本人、つまり俺が消えた場合、数分後に解除される。
だから、俺がいなくなったあの空間は、消えてしまい、テレポートする前のこの家に戻ってきたのだろう。
まずいな。
二対二じゃ勝てない。
それよりか、死ぬ。
テレポート系の魔法は、連続で使用することができない。
発動するまでに数分の間隔を空けなければならない。
「グルルルル……」
フェンリルが、まるで狼のような黒いうめき声をあげ、俺たちに殺気を向けて、腰を低くして、戦闘態勢になる。
その瞬間、俺は魔法を一つ、唱える。
『ゲイル』
フェンリルが脚に力を入れたのか、ぺキリという、板が折れる音が鳴る。
が、その後、フェンリルは姿を消した。
俺が、辺りを見渡し、探していると。
「――ッ」
フェンリルは俺では無く、俺の隣に居たななの左脇からたてた爪で、ななを攻撃しようとしていた。
とっさに、俺の身体が動く。
なにか作戦を立てていたわけでもなんでもなく、単純に身体が動いたのだ。
そして、俺の身体は、疾風の如く速さで、ななの身体を抱いて、俺の腹の下へと潜りこませた。
「ぐあ……!」
思わず声が出てしまう。
真っ赤な鮮血が、桜の花びらの如く宙を舞う。
花びらが落ちるように、ポタリ、ポタリと一滴ずつ落ちていく俺の鮮血を見た、一瞬のことで、状況が理解できていないなな。
しかし、その鮮血が落ちる速度は、ななに理解させる時間を与えてはくれなかった。
止むことなく、ななの目の前に落ちていく鮮血たち。
それが映っているであろうななの瞳は、俺の目にはだんだんと映らなくなっていく。
出血で、俺の意識が遠のいていく。
くそ、ここで死ぬのか。
そう、思った瞬間。
俺の感覚が、俺にこう言った。
――『テレポート』を使えばいいじゃないか――?
でも、まだ時間が。
――じゃあ、そのままななを守れずに死ぬの――?
…………。
――それがいやなら、自分の身体に無理をさせろ――。
『テレポート……』
意識が消えかかっていた俺の声は、若干かすれてはいたものの、ななには聞こえたようで、俺身体をギュッとだく。
絶対に離れないようにと。