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四話

「やっと来ましたね」

「やっと……。ということは、あなたが最後のパーティーメンバーですね?」

「はい。フレイというものです。……あっ、これプレゼントです」

「あ、はい。ありがとうございます」

 俺は、いきなり渡されたプレゼントを戸惑いながらもとりあえず礼を言って受け取る。「ところで、なんでサンタなんです?」

「ああ、雪が降ってたからよ」

「それだけ!?」

 じゃあこの人、ほぼ毎日サンタコスじゃん!?

「いえ、それだけじゃないわよ。これが、パーティーだって聞いてたからよ。私、そんなにコスプレ好きじゃないもの」

 その言葉に俺は安堵する。

 正直、あんな姿を見ていたら、俺の身体は保たない。

 だって、この人の胸のサイズ、とても大きいんですもん。

 思春期の男子には意識せざるをえないサイズである。

 いや、多分大人でもそうだろう。

 この人、顔もスタイルも良くて、理想のお姉さんって感じなんだが、一つだけ問題があった。

 さっきの自己紹介でも言っていたのだが、この人はフレイなのだ。

 北欧神話でスレイ神と戦い、それを倒した後に世界を焼き滅ぼしたとされる、炎の巨人フレイ。

 普通なら、名前が偶然一致しているだけだろうと考えるだろうが、俺にはそう普通に考えられない理由があった。

 それは、フェンリルの登場である。

 もちろん、俺が今襟首を掴んでいるこいつがフェンリルだなんて本気で信じている訳じゃない。

 ただ、さっきこいつの耳に触れて気付いたのだ。

 こいつのこの耳は本物だと。

 人間の姿をしているのに耳が獣の生物であれば、獣人という可能性も考えたのだが、そもそも獣人は絶滅してしまったのだ。

 獣人は、かなり高い戦闘能力と、人間と互角、もしくはそれを上回る知能を持っている生物だ。

 何故そんな彼らが絶滅したのかというと、彼らの子孫は、非常に残しにくいのだ。

 獣人の子を産むには、非常に多くの魔力が必要なのだ。

 元々が人間と獣の融合態である獣人はその融合を行うために、かなりの魔力と体力を必要とする。

 それは、獣人同士でも変わらない。

 獣人の中には、魔力を持つ者もいた。

 ただ、次第に生まれなくなっていき、最終的にはゼロになった。

 こうして全滅してしまったのだ。

 しかし、もしその融合先の獣がフェンリルだった場合はどうだ。

 フェンリルというのは、かなり高い魔力を持っていて、きっとその魔力があれば、人間との融合も容易いであろう。

 それを考えると、この生意気で、女王様風の少女がフェンリルだということを、信じざるをえないのだ。 

 だとすれば、この突然現れたお姉さんがフレイだということも信じれないこともない。「あの、フレイさん。質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「あなた、どこから入って来ました? 俺、家の鍵もちゃんと閉めましたし、窓の鍵も閉めてありますよ?」

 フレイさんは、ニコニコと笑みを浮かべたまま、壁についている、一〇センチ程度の穴を指さす。

「あそこの煙突」

 フレイさんは、相変わらず気の抜けるような間延びした声でそう言った。

 違う、それ煙突じゃない。

 それ通気口。

 人間通れないやつ。

 サンタさんが入ってこない穴。

 俺は、この時点でこの人が本物のフレイだという事を悟った。

 

 ――食事中。

 俺となな、フレイさんとフェンリルで食卓を囲い、ななの目がお腹の減りすぎのせいか料理に釘付けになっているとき。

 俺の目は、別の物に釘付けになっていた。

 それは――。

「……正樹、そんなにフレイさんの胸を直視していると、焼き殺されますよ」

 フレイさんの胸である。

 なにやらEカップらしい。

 うん、でかい。

 そして俺の目は、フレイさんの持つ大きな胸という名の凶器に釘付けになっていた。

「だってさー。仕方ないじゃん。男子なんだよ? 思春期の。あんなでかいものがぶら下がっていて、見るなっていう方が無理だよ? しかも、フェンリルとななってちっちゃいじゃん。なんていうか、見慣れた感じで、飽きたんだよ。そうすると、次の獲物を探すわけ。それで見つかったのがフレイさんってわけ。それに、胸がでかいだけじゃ無く、肌が白いし、美人だし、すごく大人の女性って感じで……。まあ、お前らとはいろいろ次元が違うってことだよ」

 ななが口を開けて何か発言しようとした時、いつの間にかななの後ろに居たフェンリルが、トントンとななの肩を叩く。

「なな、こいつはもう諦めた方がいいわ。きっと、何を言っても聞かないし、それに対してクズ発言してくるだけよ」

 それを聞いて、やっぱりそうだよなーという顔をするなな。

 なんか俺、完全にただのクズ扱いされてない?

 ななの目が、フレイさんに向く。

「まあ、元を辿れば、フレイさんの胸がでかいのが原因なんですがね」

「たしかにそうね」

 フェンリルとななは、ぷくーっと頬を膨らまして、フレイさんを足をトントンして苛だちを抑えて睨み付ける。

 どうやら怒りの矛先は、さっきから直視していた俺ではなく、胸がでかいフレイさんに向けられているようだ。

「……私が悪いのかしら?」

 二人に睨みつけられ、困り果てるフレイさん。

「そうです。謝ってください」

 そんな困った様子のフレイさんに謝る事を促すなな。

 ――これ、フレイさんは完全にとばっちりを食らっているだけだな。

「ごめんなさい。私のおっぱいがでかくてごめんなさい?」

 とりあえず謝るものの、何故自分が謝っているのかが分からず、ごめんなさいの最後に疑問系がつくフレイさん。

 可哀想に。

 まあ、これ、俺がフレイさんの胸を直視した結果なんだけどね。

 元を辿れば完全に俺が悪いんだけどね。

 それが何故かフレイさんになっている。

 女の敵は女ということか?

 でも、そろそろフレイさんが泣きそうだから、ここは助けてあげることに。

『プライベート・テレポート』

「「へ?」」

 俺以外の三人の声がハモる。

 だって今俺が使ったのは、瞬間移動系の魔法で、最も習得が困難といわれた、『プライベート・テレポート』だもの。

 ――瞬間移動系の魔法は、主に習得するのが難しい。

 どれくらいかというと、一番初級の『テレポート』でさえも、他の初級魔法を取得するために必要な時間の三倍は特訓が必要である。

 しかも、無駄に魔力消費量が多いため、非常に扱いにくく、もし覚えられたとしても覚えない人がほとんどである。

 それを、俺は覚えた。

 最初は扱いにくかったのだが、使っているうちに、上手な使い方というものが分かってきて、今ではこの町、いや、この国で一番瞬間移動系魔法が得意な魔法使いとして、名をはせている程だ。

 いやー、覚えて良かった、この魔法。

 と、俺が自分の思い出に浸っていると。

「ここは何処?」

 見たことのない場所へ飛ばされたフレイさんが、困ったような声で俺に聞いてくる。

 フレイさんの困り方から想像するに、この人は多分、各地を旅していたんだろう。

 自分の豊富な知識の中で知らない物が出てきた人の困り方をしている。

 困るよりか、不安の方が大きい困り方をしているからだ。

 まあ、この場所を知っているのは、この世で俺と俺の母親しか、居ない、そんな特殊な場所だからな。

 だってここが――。

「俺が作り出した、俺専用の空間ですよ」

「!?」

 俺が告げた真実に、ひどく動揺するフレイさん。

 ただ、こういった空間が存在することは、『プライベート・テレポート』を使用する人であれば知っている事である。

 まあ、この国でこの魔法を使えるのは、俺と、あとは名前の分からない魔法使い一人だけなんだけどね。

「ここは、あなた専用の空間で、あなたと私以外他に誰もいないの?」

「ええ。今、この場にいるのは俺とフレイさんだけですよ」

 答えた瞬間、フレイさんの目つきが変わる。

 それはまるで、獲物を捕らえようと、茂みに隠れ、機会を伺うライオンのような静かな闘志と殺気を、むき出しにしている目だ。

「……人間のあなたにその魔法が使えるとは思わなかったわ。ねえあなた、私と勝負しない? もちろん、殺しはしないわよ」

「…………」

 いつもの俺だったら、こういった勝負のお誘いは相手が誰であろうと断る。

 が、このむき出しの闘志を俺にぶつけているフレイさんの誘いを断っても、きっと無駄であろう。

 なんとしてでも闘おうとするか、最悪の場合襲いかかってくるということもあり得ない話ではない。

 とにかく、こういった目をしている人の誘いは、断るともっと悪い方向へいく可能性がある。

 ので。

「受けましょう」

「フフ……。いい子ね。もし断ろうものなら、八つ裂きにしていたところだったわ。死ななくてよかったわね」

 やっぱり危なかった。


「ルールは、先に降参と言ったほうの負けで、魔法以外は、魔法の力を持った道具であろうと使用は不可能。いいわね?」

「いいでしょう。では……」

「「――バトルスタート!!」」

 なにもない空間内に、二人の声が響き渡り、勝負がスタートした。

 先に仕掛けてきたのは、フレイさんだった。

『フレイムズ・オブ・ヘル』

 この空間にくる前までの間延びした声とは一変して、まるで、俺を虫程度にしか思っていないような冷酷な瞳と、感情のこもっていない声で魔法を唱える。

 ――魔法を唱えた直後、フレイさんの周辺に、燃えさかる炎が発生した。

 その炎は、全く燃え移ったり、動く気配を見せない、が、嫌な予感がした俺は、フレイさんの方に手を翳し、魔法を唱えた。

『シールド!』

 俺の予感が的中したようで、俺が魔法を唱えた瞬間、フレイさんの周辺の炎が突如、爆発するかの如く豪速で、辺りに燃え広がる。

「熱ッ――!」

 辺りが燃えさかる炎のせいで、まるで地獄のようになり、俺の服が軽く燃える。

 俺はその燃え移った炎を直ぐさま手で叩いて消す。

 そして。

『バリア』

 俺は、さっきフレイさんの攻撃から身を守るために唱えた『シールド』を解除し、『バリア』に変更する。

『シールド』は、俺の翳した手の方向へ、ギリギリ自分が隠れるくらいのサイズで発生する、盾型の魔法で出来た障壁だ。

 それに対して『バリア』は、『シールド』と違って、俺の直径二メートルで発生する球体の魔法で出来た障壁である。

 その中には、どんな攻撃も、魔法も通さない。

 ただ、発動中は動けず、攻撃も出来ない。

 ついでに、絶対的な防御性能のせいで、空気も通さないため、酸欠になったりする。

 まあ、そうしたら魔法は解除されるので、窒息することはない。

 そしてなんとこの魔法、自らの意思で解除することが出来ないのだ。

 だから、とても不便で、この魔法を習得する人など、そうそういない。

 さて、俺に『バリア』を使われたフレイさんはというと。

「へえ、『バリア』が使えるんだ。なら」

『ヘル・フィールド』

 辺り一面を炎で満たす魔法を唱え、自分の得意なフィールドにする。

 まあ、もともと炎で満ちているので、炎が増加した感じなのだが……。

 とにかく、俺が出てきたら、焼き尽くそうという作戦なのだろう。

「殺す気まんまんじゃないですか」

 俺の声は、『バリア』せいで全く通じて居ないようだ


 ……こんな冗談はおいといて、さて、どうしよう。

 俺は、いくら考えてもこれ以外思いつかなかったので、使いたくはなかったが、使うことにした。

 それは。

『テレポート』

 そう、戦線離脱である。

 要するに、逃げたのだ。

 仕方がないことだろう。

 だってこのままじゃ死んじゃうんだもん。

 自分で自分に言い訳をいいながら、俺は、光に包まれ、その空間から姿を消した。


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