第三話
「フェンリルです」
「フェンリル!? あの伝説の!?」
「それの子孫です。まあ、純血ではありませんが」
純血であれば、オオカミの姿をしたフェンリルが、人間の女の子の姿になるなんてことはないだろう。
なながフェンリルの紹介をしていると、そのフェンリルは、この小さな見た目からは想像できないことをしゃべり始める。
「フェンリルってこの世で私一人だけだから、どうやっても純血の子孫を残すことが出来ないのよね。まあ、出来るだけ人間との子孫だけを残してきたらしいけど、今のところ人間はダメね。全員、魔力もなにもかもが低くて話にならないわ。私もそろそろ子孫を作っておかなきゃいけない年なのに、困ったわ」
…………。
「おいなな。この子の年は?」
「十二です」
おっと。
ななと同じ年で、もう子孫の話をしている少女ってどうなの?
フェンリルは、俺が言いたいことを察したのか、俺の目を見ると。
「私を人間と一緒にしないで」
と、静かに怒る。
しかし、ここは怖い物知らずの正樹君。
「それってどういう意味だ?」
さらに深く掘り下げていく。
すると。
「正樹。この子はフェンリルですよ。狼ですよ?」
しっかりとアシストを入れてくれるなな。
ああ、なるほど。
犬とかで考えたら、確かに十二ってもう子供作んなきゃいけないとしだもんなー。
俺は、納得はしたものの。
「でも見た目がロリなんだよなー」
そう言って苦笑した。
「で、私に質問攻めするのもいいけど、早く家に入れさせてくれないかしら? ずっとここにいたら、凍え死ぬわ」
「ああ、はいどうぞ」
「おじゃまするわ」
俺の家の玄関で、脱いだ靴を散らかしたままの状態で、腕を組んで、偉そうに俺の家のに上がるフェンリル。
そして、その散らばった靴をちゃんと整えてから上がるなな。
まるで、女王とメイドである。
「あら、意外と片付いてるのね」
「まあ、物自身ほとんど買ってないからな」
「冷蔵庫の中も――イタッ! ちょっと何すんのよ!?」
勝手に人の家のの冷蔵庫の中を確認し始める、迷惑くそガキ女王様。
そんな女王様の頭にチョップをかましてやると、何故か怒られる。
完全に逆ギレである。
まあ、その後もいろんな所の点数付けをされたり、散らかされたりで散々だったが、満足した女王様は、意外にも大人しかった。
大人しくなった後は、ななが『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝りまくるので、結局静かになるのには時間がかかったのだが。
「ふう……」
俺が、やっと大人しくなったと言わんばかりに一息吐き、ソファーに座ると同時。
「正樹、いいんですか?」
「何がだ?」
俺は、気力なしの状態で力を抜いて、ななに質問の意味を聞き返す。
「パーティーメンバーを集合させるんですよ?」
「それが……あっ」
「はい。やっと気付きましたか」
「よっし。準備に取りかかるぞ。なな」
――その日の夜。
俺は、予定していたパーティー結成記念のパーティーを開くために、大量の飯を作ったり、家の装飾など、とにかくやることに追われている状態だ。
「なな。そこにある材料でピザを作ってくんないか? 確か、募集用紙に特技ピザを作ることって書いてあったよな?」
「まあ、いいですけど……。この材料でですか?」
「ああ。足りるだろ」
ななは、数秒、手の上に顎を乗せた体勢で考えると。
「……仕方ないですね。分かりました。作ります」
渋々オッケーしてくれた。
「後はこれが出来れば……」
「……よしっ。出来た!」
大量の作業に追われながらも、パーティーの支度を終えた俺は、どっと流れ込んでくる疲れに耐えきれず、そのままソファーに倒れ込む。
ななもよほど疲れたのか、俺の上にどさりと覆い被さるように乗っている。
そんな俺とななの目の前に、全くと言っていいほど何もやっていないのに、『疲れた』を連呼する女王様が姿を現す。
「情けないわね。こんなことでへばっていていいのかしら? 折角作った料理を並べないでどうするの?」
「随分と上から目線で言ってくれるじゃねーか。全く手伝わなかった、疲れてない王女様よー!」
「あらそう? まあ、頑張って」
俺は、上から目線の王女様を挑発するようなしゃべり方をするが、ソファーに寝そべっているせいで効果が無い。
「はあ……。じゃあ最後の仕事だ。やるぞなな!」
俺が、気合いを入れて、ソファーから起き上がり、ななに声を掛けると、『はーい』というなんとも気合いの入っていない返事が返ってきた。
「おいなな。後は並べるだけなんだからさー。もうちょっと頑張ろうぜ。ほらファイト、ファイト」
「べつに並べるくらいなら正樹一人で出来るじゃないですか」
完全にやる気が無くなってしまった様子のななさん。
……仕方がない。
一人でやるか。
俺は、最後にちらと、優雅に座っているフェンリルの方を見るが、プイッとそっぽ向いて無視されてしまった。
はあ……。
「えーっと、これがこれで、これがこれで…………」
俺は、最後まで独り言をいいながら皿を並べるのだった。
「よし、並べ終わったぞ。なな、フェンリル」
俺が、『出来たからこっち来て食べるぞ』という意味を込めた呼びかけをすると。
「はーい」
素直に返事をして直ぐに駆けつけるなな。
「歩くの面倒くさいからおんぶして」
歩くことすら面倒くさがるフェンリル。
……っておい。
「お前、俺の家に来てから随分と偉そうにしてくれるじゃないか。そろそろ温厚な俺でも怒るぞ」
俺の言葉を聞くと、フンッと鼻で笑って。
「偉そうじゃない、偉いの。だって私はこの世に一種類しか存在しない生物のフェンリルよ。なんなら、もっと言うことを聞いてくれてもいいのよ」
…………。
俺は、無言のままフェンリルの方へ歩き出す。
――背中に真っ赤な炎のようなオーラを背負いながら。
「――はっ。ダメですよ! 一応お客さんですし、それに、喧嘩はよくありません!」
俺のそのようすに気付いたななが、俺の肩に手を回して、これ以上進まないように抑えてくる。
ただ、身長差が大分あるため、ほぼ抑えきることができず、自分ごと引きずられている状態だが。
それを見て、ちょっと気が和らいだ俺は、フェンリルに喧嘩を売ることはせず、フェンリルの服の襟を掴んで引っ張っていく事に。
と、そのとき。
「すみませーん」
そんな間延びした声と共に、サンタの姿をしたお姉さんが現れた。