Knight's & Magic Side Story01 旅立ちの合間に
「ナイツ&マジック」アニメ最終話放映記念短編。
時系列的には書籍版3巻中になります。
時に西方暦一二八〇年。エルたちが学園を卒業し、銀鳳騎士団がオルヴェシウス砦へと移った。そんな時の出来事である。
東西フレメヴィーラ街道――それはフレメヴィーラ王国中部最大の都市ヤントゥネンにて接続される、王国を東西に貫く街道である。王国外よりつながる『東西街道』から始まり、果ては魔獣の領域であるボキューズ大森海の手前まで続く。そこから先にあるのは『魔獣街道』と呼ばれる、獣たちが踏み固めた通り道のみだ。
この街道は王国内の物流のほとんどが流れる大動脈であり、毎日のように商人が忙しなく行き交っている。
東の国境線には、ボキューズ大森海に存在する魔獣たちを防ぐための壁と砦が存在していた。ここでは場所が場所ゆえに頻繁に戦闘が発生しており常に補充物資を必要としている。需要あるところに商人あり、というわけだ。
その日もいつもと変わりなく、とある商隊が街道を進んでいた。日は高く上り午後も少々過ぎた頃のことである。護衛についた商騎士団は、自分たちの背後であがるもうもうとした土煙と、鳴り渡る高らかな馬蹄の響きに気付いた。
明らかに尋常ならざるその様子を見た彼らは警戒を深めたが、やがてその正体に気付いて安堵すると共に、次は戸惑いを感じていた。
彼らの背後からやってきたもの、それは半人半馬の幻晶騎士『ツェンドリンブル』であった。つい昨年に開発されたばかりの最新鋭機だ。
従来の幻晶騎士と大きく異なり下半身が馬の形をしているこの機体は様々な理由からほとんど普及していないものの、一度見たら容易には忘れがたい存在感を備えている。
商人たちの知る限りでは、この機体を配備している騎士団はひとつしかなかったはずだ。それがなぜ東フレメヴィーラ街道をひたすらに東進してゆくのか。彼らが首をひねり見送る横を、人馬の騎士は颯爽と駆け抜けてゆくのであった。
2騎のツェンドリンブルは快調に街道を進んでゆく。馬の形を模しているだけあって、その速度は極めて速い。そのうちに2騎はボキューズ大森海に接する最前線のひとつである、『セラーティ侯爵領』へと辿りついていた。
セラーティ侯爵領はボキューズ大森海のすぐ手前という危険な立地にありながら、同時に国内でも有数の穀倉地帯として知られている。麦畑を魔獣から守るため、領内には多くの幻晶騎士が巡回していた。
それを気にしてか、ツェンドリンブルも速度を緩める。街道の周りに広がる黄金の穂を垂れた麦畑を見回しながら、2騎は常歩で進んでいた。
「あー、なっつかしいなぁこの景色。何年ぶりだろ、ここに来るのってさ」
「学園に入ってからは、来ることなんてなかったものね」
ツェンドリンブルの騎操士であるキッドとアディは、複雑な思いを抱いて周囲の風景を眺めていた。アーキッド・オルターとアデルトルート・オルター。彼ら双子の父親の名は『ヨアキム・セラーティ』――何を隠そう、現セラーティ侯爵その人である。
つまりこの地は彼らにとって故郷ともいえるわけなのだが、侯爵家内部のいくらかの問題から、彼らはこの地とは距離を置いて暮らしてきた。
「やはり、ここには来たくありませんでしたか?」
アディのツェンドリンブルに同乗しているエルが問いかける。今回は移動を優先したため、彼の愉快な幻晶騎士は持ってきていない。
「そういうわけでもねーけどさ。来ないわけにもいかねーし。何せ理由が理由だしな」
キッドの返事には、どこか浮かない感情が見え隠れする。しかし立ち止まるわけにもいかず、一行は侯爵領の中心地である領都へと入ってゆくのであった。
◆
セラーティ侯爵領の領都は、恐ろしいほどの活気に満ち溢れていた。
さすがの商人たちも直接最前線まで物資を売りにいくことはしない。国境まで運ぶのは領軍の仕事であり、物資はここで取引するのである。
そのため市街地には大きな商店がいくつも軒を並べていた。しかも今は『大イベント』を間近に控えており、普段より出歩く領民も3割り増しの状態にある。
そんな混雑の中を、先触れの騎馬に先導されながらツェンドリンブルが進んでいく。それを眺める領都の住民は、驚くやら感心するやらと非常に忙しそうだ。
お祭り騒ぎの中にさらなる話のネタを撒き散らしながら、彼らは領都の中心にあるセラーティ侯爵家の邸宅へと到着していた。
さすがに王城と比べるほどではないが、それでも巨大な城じみた外観を持つ屋敷の様子から、侯爵家の持つ力のほどが伺い知れる。
「銀鳳騎士団騎士団長殿、ならびに団長補佐殿、ご到着!」
ツェンドリンブルを降り立ったエルたち一行を、館の使用人たちが恭しく出迎える。キッドやアディの素性はさておき、主賓となるのは国王直属の騎士団の長であるエルネスティだ。子供じみた外見をしているからと、無碍な扱いをするわけにはいかない。
彼らは丁重な様子で来賓用の部屋へと案内され、そこでしばしの時を過ごした。普段どおりのほほんとしたエルに比べ、双子はどうにも落ち着かない様子である。
そのうちに部屋の外から慌しい足音と、使用人のものと思われる制止の声などが聞こえてきた。明らかに何か問題が起こっている。エルたちが顔を見合わせたところで、いきなり礼儀もへったくれもなく蹴破る勢いで扉が叩き開けられ、何者かが部屋へと飛び込んできた。
その人物は勢いを緩めず、わき目もふらずエルへと飛び掛ってゆく。
「え、あ、わぷっ」
「ああこの懐かしく甘い香り、さらさらふわふわな感触。エル君ね、本当にエル君なのね! 逢いたかったわ!」
『彼女』はそのままエルをしっかりと抱きしめると、遠慮なく頬ずりを始めていた。
「…………あのぅ、ティファさん。お久しぶりですが、もう少し穏やかに歓迎してもらえると、僕としても嬉しかったのですけれど」
熱烈なハグをかましたのは誰であろう、セラーティ侯爵の長女である『ステファニア・セラーティ』その人である。
「もう、エル君のケチんぼ。久しぶりなのだから、もっとじっくりと堪能させて欲しいのにぃ」
ツンツンとエルの頬をつつくティファ。以前より『可愛い少年好き』を自認しエルを愛でていた彼女であるが、数年ぶりに再会してみれば症状はさらに悪化していたようだ。エルは諦めを感じつつ、気を取り直して彼女としっかりと目線を合わせる。
「それはそれとしまして。ティファさん、この度は『ご結婚』おめでとうございます」
ティファはようやくエルを抱きしめる力を緩めると、ふわりと笑みを浮かべた。驚きか呆れか、硬直したままであった双子も正気に返り、祝いの言葉を贈っている。
彼らが侯爵領を訪れた理由。それが彼女、ティファの結婚式に参加するためであった。エルたちのふたつ先輩であった彼女はライヒアラ騎操士学園中等部を卒業した後、進学せずに実家のある侯爵領へと戻っていた。
侯爵令嬢である彼女は最初から、卒業後は隣合う伯爵家へと嫁ぐ予定であったのだ。卒業後から式までに時間が空いたのは単に両家の都合を合わせた結果に過ぎない。
「ええ、ありがとう。エル君、二人とも!」
ちなみにこの結婚は政略的な意味がないわけではないが、無理やりなものではない。そうでなければ、祝福を受けた彼女がこうも幸せそうに微笑んでいることはないだろう。
「おめでとうだけど……姉さん! いーつーまーで、エル君抱きしめたままなの!?」
頬ずりこそしていないものの、エルを抱きしめたまま離さないティファを無理にでも止めるべきか、アディは悩んでいた。心情的には即座に引き離したいのだが、なにせ姉を祝うためにこの場所まで来たのだから、微妙に迷うのである。
そんな、なんとも混沌とした状況にある彼らの後ろから、困惑に彩られた声がかけられた。
「ああ、これはもしかして私は、嫉妬したほうがよかったりするのか?」
現れたのは『レンナルト・ケルヴィネン』。ティファの婚約者である。
「あら、レニーも抱きしめてみる? すっぽりとして、抱き心地は最高よ」
「……遠慮しておくよ。というか、腕の中の彼がとても嫌そうなんだが」
抱きしめられたままのエルが『止めてくれ』と目で訴えているのを察知したレンナルトは、やんわりと婚約者をたしなめるのであった。
「初めまして、エルネスティ・エチェバルリア騎士団長殿。会えて光栄だ。私はレンナルト、ケルヴィネン伯爵家の長男だ。君の名は、遠くこの国境の地まで届いている」
そういって、レンナルトは右手を差し出す。やっとティファの抱擁から脱出したエルは、嬉しげに握手を交わしていた。彼に逃げられたティファは少し不満そうにしている。
「姉さんに似合わず、まじめそうな人だな」
「まぁ、キッドったら。彼のことは昔から知っているけれど、確かにまじめで誠実な人よ。私も不真面目なつもりはないわ」
先ほどの狂態を思い返し、キッドはあいまいな笑みを浮かべて返事を避ける。
そうしているうちに伝言を携えた執事が彼らのもとへとやってきた。用件はティファとレンナルトの呼び出しだ。
二人はもうすぐ結婚式を挙げる、いわば主役である。しばらくの間は引っ張りだこであった。ティファは了解を告げると、去り際にキッドとアディをしっかりと抱きしめて、そっと囁く。
「キッド、アディ。そんなに警戒しないで。ここは、あなたたちの家でもあるのよ。だから堂々と振舞えばいいの。もうあなたたちに嫌がらせをする人なんていないわ」
「! で、でも……アイツとか、奥方様とか……」
「『大丈夫』。せっかく私のために来てくれたのだから、そんなことは起こらないわ。もちろんエル君も、ここを自分の家だと思って自由に過ごしてちょうだいね」
最後にふわりとした笑みを残して、彼女は部屋を去ってゆく。その後姿を、双子はどこか複雑な表情のまま見送ったのであった。
◆
結婚式の本番までは、それから数日の間があった。それまで、エルたちは侯爵家の館にて過ごしている。最初は緊張が取れなかったキッドとアディも、何事もなく過ぎるうちに段々と気を緩めていた。
だがそれは油断であったのかもしれない。ここがセラーティ侯爵家である以上、その遭遇は、いずれ避け得ないことであったのだろう。
「久しぶりじゃあないか、アーキッド!」
館内を歩いていたときに、頭上から降ってきた聞き覚えのある声にキッドは弾かれたように振り向いていた。
「久しぶり、か……確かに、あの『決闘騒ぎ』以来だな、バルトサール!」
2階へと続く階段の踊り場からキッドを見下ろす人物。彼はキッドたちの異母兄であり、揉め事を起こして数年前にライヒアラを去った『バルトサール・セラーティ』だ。
「その口調、変わらないなぁ。兄に向って、ずいぶんと不遜な態度じゃあないか」
「あれだけ無様な姿を晒して、よく言えたもんだ。お前は確かに兄だけどよ、とても敬意なんて抱けたもんじゃねーぜ!」
以前は敬語を使っていたキッドも、あの決闘騒ぎ以来、その態度を刺々しく変化させていた。対してバルトサールは階段を下りつつ、どこかさっぱりとした笑みを浮かべる。
「ッハ! まぁその通りだ。潔く認めようじゃあないか、アーキッド。私はひどい下手を打った。無様だよ。今思えば、まったくもって焦りすぎたというしかない」
「……なんだ、意外だな。自分でもわかってたのかよ」
思いのほかバルトサールが冷静であるのをみて、キッドは小さな驚きを抱いていた。彼の記憶の中では、バルトサールは身勝手を絵に描いたような人物であったからだ。
「フン、騎士団でずいぶんとしごかれたからねぇ。頭も冷えようというものだ」
キッドに決闘を挑み、卑劣な振る舞いをしたとしてライヒアラを追われたバルトサール。彼はその後、セラーティ侯爵領を守る『赤犀騎士団』へと入れられ、侯爵家の次男でありながら下っ端から鍛えなおされていた。所謂、性根を入れ替えるというやつである。
「まぁ確かに学園を追い出されたのは大きな痛手だったが、後から思えば、あれはそう悪い結果にはならなかったのさ。っくく、しごきはなかなか地獄だったがねぇ、お陰で私は騎士団に場所を見つけた。お前に奪われることのない、私の場所をだ」
「……あの頃から、別に実家に帰ろうなんて思っちゃいなかった。お前の場所なんて、そもそも狙ってねぇよ」
かつてのバルトサールは、キッドたちが自分の居場所を脅かす敵であると考えていた。それがあの決闘騒ぎの直接の原因である。
「さぁてねぇ。それはお前が今、居場所を得たからこそいえることじゃあないのか? あの頃にそんな考えがなかったと本当に言い切れるのか?」
しかし居場所を脅かされていたのはキッドたちも同様であった。むしろ彼らこそ、先に父親のもとから追い出されていたに等しい。今では昔となったエルと出会う以前のことを思い出そうとして、キッドはすぐに首を振った。
「……どっちだっていいじゃねぇか。今は違う。それだけだ」
「ッハ! そのとおりだ。まぁせいぜい頑張ることだ。こちらはこちらで、よろしくやるからねぇ」
バルトサールが変わったように、キッドの考えも時を経て変化している。こうして直接話してみれば、彼は自分の中に、以前ほどのわだかまりがないことに気付いた。
結局は、どちらも自分の居場所を探していただけなのだ。今はそれぞれの場所を見つけ、互いを脅かすこともなくなった。彼の中にはもう理由がない。
話は終わったとばかりに、バルトサールは肩をすくめるとその場を立ち去ってゆく。それをぼんやりと見送りつつ、キッドもいつものようにやる気なさげに、ぼやいていた。
「こういうのも、成長したっていうのかねぇ」
◆
それからは何事もなく時は過ぎてゆき、結婚式の当日が訪れる。
ある程度以上の貴族同士の婚姻において、式が片方の側のみで済まされるということはない。まずおこなわれるのが嫁いでゆく花嫁の『出発式』だ。これは実質的に結婚式と変わりはなく、到着後の『結婚式』と合わせて式を2回執りおこなうのである。
こうした風習はフレメヴィーラ王国における貴族の関係に根ざしたものだ。特に国境線に近く、魔獣の脅威が大きい地域では領地同士のつながりが重要視される。問題が発生した場合に互いに力を貸しあい易くするのだ。
情けはひとのためならず、こういった備えは有力な貴族であるセラーティ侯爵家にとっても無意味ではない。
さらに出発式、結婚式ともに領民に広く公開する形で執りおこなわれる。領主同士の関係は領民にとっても同じく。縁戚関係というのは、最もわかりやすい関係の形だ。
こうして大々的に式をおこなうことで、貴族から民に至るまでつながりを理解しやすくするのである。
それにごく単純な話、婚姻を祝いたいのは誰もが同じなのである。それゆえに、貴族の結婚式が盛大なお祭りと化すのも毎度のことであった。特に今回は2騎の巨大な人馬の騎士が並んでいることが、式の盛り上がりをさらに高めているというのもあったりする。
式の会場となるのは、領都の一角にある祭祀場であった。祭司が粛々と式を進めてゆき、やがてレンナルトが花嫁を連れて衆目の前に現れた。
「ああ……姉さん、綺麗……」
ぼうっと、アディは頬を高潮させながら現れた姉の姿を見ている。
ティファは、実りを迎えた麦穂のような淡い金色の布を重ねた、絢爛なドレスを身に纏っていた。それは彼女の豊かな蜂蜜色の髪と合わさり、穀倉地帯を有するセラーティ侯爵家の特色を良く現していた。その姿を見た周囲から知らず溜息が零れる。
侯爵家、伯爵家、さらに集まった民衆たちの全てから惜しみのない祝福の言葉をうけ、ここに新たな夫婦が誕生したのであった。
出発式自体には、それほど多くの時間はかからない。ある程度の式が進んだ後は皆が勝手にお祭り騒ぎを始めるのだ。それから丸一日の間は、街をあげての大騒ぎが続くのである。ここからはどちらかというと結婚式は関係ない。
その間に花嫁を乗せた馬車は嫁ぎ先へと向かう。それから今度は向こうで結婚式がおこなわれるのだ。エルたちはあくまでもセラーティ侯爵側の出席者として、出発式のみの参加であった。
そのため彼らは暇を告げるべく出発前のティファのもとを訪れる。
「あらもう帰ってしまうの? 残念だけれど、エル君は陛下に騎士団を任されているのだもの、仕方ないわね。これからは簡単には会えないかと思うと寂しいわ。……だから最後に、しっかり堪能しておかないと!」
そうして彼女は再び、がっちりとエルを抱きしめていた。
「ああ、このさらさらふわふわの感触ともお別れなんて……」
「ティファさん……最後までそれですか」
呆れ気味ながらも、エルもふんわりとティファを抱きしめ返していた。そのまましばらく抱きあい、それから大変名残惜しそうな様子でティファはエルから離れる。
彼女はキッドやアディも抱きしめて別れを告げてまわると、馬車へと乗り込みケルヴィネン伯爵領へと向けて出発したのであった。
余談ではあるが、その後馬車に揺られながら、新たに夫婦となった二人はこんな会話を交わしていたという。
「レニー、がんばってエル君みたいな可愛い子供をつくりましょうね!」
「いや、それは、なんとも約束できないな……」
若き貴族の悩める日々が始まったのかもしれない。
◆
ところ変わって。その頃、エルたちの乗るツェンドリンブルも帰りの途にあった。
「ああ、姉さん綺麗だったなぁ……。ああいうドレス、一度は着てみたいわよねー」
アディはツェンドリンブルを操縦しながら、しきりに姉の衣装について盛り上がっている。同乗するエルはずっと適当に相槌を打っていた。
「そうだエル君、ドレス着てみない? きっとすっごく可愛くて似合うと思うのよ!!」
「うん、そうで……っていやいや、なぜ僕が女性向けのドレスを着るのですか、意味がわかりません。むしろ、着るとすればアディのほうでしょう」
エルの返事を聞いたアディは、いきなり黙り込むと、真剣に悩み始めていた。
「……それは、エル君が私に、着せてくれるってこと?」
「えっ。いえ、あれ? それはなんだか、すごく話が違うといいますか」
「これは……由々しき問題ね。エル君と私、どちらのほうが着るべきなのか。時間もあることだし、ゆっくりと考える必要があるわ!」
うきうきとエルを抱きしめるアディに、彼は微妙に釈然としない様子で首をひねり続けるのであった。
隣で繰り広げられる愉快な会話を聞きつつ、キッドはもう1騎のツェンドリンブルを走らせていた。
「まったく、バルトの野郎すら心を入れ替えたってのに、アディは本当にかわらねーな」
思えば彼の姉もそうだった。もしやこれはセラーティ侯爵家の女性に共通する特徴なのだろうか。彼はふと思いついた馬鹿げた考えを頭を振って消し去った。
「まぁいいか。別に変える必要がねーものもあるわな。さて帰るとするかね、俺たちの居場所にさ」
彼らを乗せたツェンドリンブルは大きく気流の嘶きをあげると、オルヴェシウス砦を目指して軽快に走り出すのであった。